うさぎの耳はロバの耳

斑猫

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うさぎ村 2

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突然、私の事を美人だの可愛いと大きな声で
言い出したイルに驚く私。

「はあ?お前の方が目が悪いんじゃないか?
ニケが美人だなんて!ははは!!」

村人が一斉に大笑いし始める。
一触即発な状態からは何か少しは場が和んだ
気がするけれど何か居たたまれない。
私が笑われるのはいいけれど、イルが笑われ
るのは嫌だ。

「馬鹿に話しは通じないな」

イルは端正なお顔をしかめて呟く。

「はっ!また、頭のおかしなヤツを連れて
来たねこの疫病神が!ほら、サッサッと
盗んだ物を出しな!」

鍛冶屋の女将さんの声にまた村人が私達に
にじり寄って来る。
これは戦うしかないか?
覚悟を決めたその時、ドスの効いた女言葉
が耳に入って来た。

「あ~ら!この状況は一体何かしら?」

オレンジと赤の混じったツートンカラーの
くるくるカールの長い髪のフルメイクの
美女?が腕を組んでこちらを見ている。

美形!なんて華やかな容姿!ただし微妙!
なんと言うか全体的にごつい。

華麗な薔薇のようなピンクの花の刺繍を
施されたノースリーブの黒い長衣に身を
包んだ美女?

いや待て。あれ、男の人だよね?

やたら背は高いし声は低いし喉仏があるし。
ノースリーブからのぞく腕はムキムキだし。
いや、腕だけでなく物凄いゴリマッチョだ。


「アタシはね?泥棒を捕まえてこいと言っ
たはずよ。それがなんでアタシの相棒に
詰め寄っているの!?
鍬だの鋤だのを向けてお前らどういう了見
なんだよコルァア!まったくどいつもこい
つもロクなヤツがいない。アンタ達、
どうやら本当に死にたいみたいね……」

なんか見た事のない人種がキタ~~!!

え?あの人、イルの相棒さん?
思わずイルを見る。

「バル!帰って来ないと思ったらこんな
所で家宝を盗まれるなんてマヌケにも
程があるだろう」

イルが呆れたようにバルさん?に言う。
あ、盗まれたのはバルさんの家宝なんだ。

「あ~はい、はい。本当にマヌケよね。
まさかこんな辺鄙な田舎の村人に騙される
とは思ってもいなかったわ。まさか脅し……
いえ、親切に泊めてもらった家で油断して
風呂に入っている所を狙われるなんてね。
アタシもヤキが回ったわぁ」

両手を頬に添えて嘆くバルさん。
アランの家に泊まってお風呂に入っている
うちに盗難に遭ったようだ。

アランの家は隣国とも商いの繋がりのある
大きな商会だ。余所者嫌いとはいえ外との
繋がりをすべて絶つのは無理がある。
アランの家は村の外の世界への唯一の窓口。
うちの父さんもこの商会の従業員だ。
村じゃ一番のお金持ちの家。

そんな所で盗難?

しかもミリアが私が盗んだ所を見たと言っ
ている……なんか嫌な予感しかしないわ。

「とりあえず家の人間を半殺しにして村人
に犯人をつき出すように命令したんだけど。
まさかイルに詰め寄っているなんて……。
もうコイツらっちゃっていい?」

バルさんが村人達を睨むと「ヒィ!」と
怯える。あの強面の鍛冶屋の女将さんも
顔が真っ青だ。何をやったの?
どんだけ怖がらせてるの凄いわバルさん。


「……いや、待て。別件で話を聞きたい
から皆殺しはよせ。懐中時計は俺が見つけ
てやるから」

イルがバルさんを止める。
いや、皆殺しはやめて下さい。こんなヤツ
らでも死なれたら寝覚めが悪い。


「ホント?狭い村だからすぐに見つかると
思うんだけど家捜しは面倒だし。
村人一人一人拷問した方が早いかなって
思ってたんだけどそれも面倒だし。
……アンタの鼻ならすぐに見つかるものね。
イルが村に来てくれてよかった。
それで別件って何?それにそのロバ耳の
可愛い娘はひょっとしたら探し人かしら?
いつの間に見つけてきたのよ!
スゴ~い!
もう、イルったら仕事が早いんだから
お仕事もう完了?楽チン楽チン!」

可愛い娘って私の事?
バルさんが私にウインクする。

こんなきれいな男の人?に可愛いと言われ
るなんて……お世辞でもうれしい!
私をいつも苛めてくる村人達をビビらせて
くれたバルさん。

微妙な人種だけれどイルの相棒らしいし。
なんか陽気で楽しそうな人だ。
バルさんを密かにいい人認定した。













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