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41、エミリーの正体(後編)【魔獣ジュリアス視点7】
しおりを挟むエミリーさんが、パチンと指を鳴らす。
すると、目の前でエミリーさんが男性の姿に変化した。
青いワンピースは赤いスーツに、メイドの頭上にあるひらひら飾りは赤いハットに変わっていた。
「やあ、こんにちは」
彼は挨拶をするように赤いハットを片手で持ち上げ、僕に笑いかけた。
スラリと背が高く、赤い髪に透き通るような白い肌。美しく妖艶な雰囲気の男性だ。
そして、てらてらと輝く怪しい赤い瞳で僕を覗き込む。
「驚いた? いや、その顔は、薄々気づいていたのかな」
「い、いえ……」
この人は息を吸うように、平然と変化魔法を使い続けていたのだ。
そんなすごい魔力を持つ人がこの世にいるなんて……。
得体の知れなさを感じた。そして同時に、不気味な魔力を感じる。
「普通の人には分からないだろうけど、キミは俺の魔力を感じていたはずだ。さすが魔法王国出身者だね。そしてその同じ力を博美様も持っている。なぜなら、キミが彼女をこの世界へ召喚したとき、君と同じ魔力を彼女が得たからだ。そして、俺もあのとき、外から干渉したことで、彼女に影響を与えてしまった」
彼女が僕と同じ力を……? そして僕だけじゃなく、この人の力も……。
そうか。
あのとき、この人が外から干渉してきたから聖女召喚で二人も召喚されることになったんだ。
「変化魔法を知らない彼女には、俺の本当の姿はまだ見破られていないが、そろそろやばくなりそうだ。フェンリル退治のときは、彼女は俺の姿をみて恐れていたから。彼女は凄いよ、この世界に適応し、自分なりに魔力を形作っているからね。今さら博美様に、エミリーが俺だったなんて言えないからね」
彼は僕にウィンクする。
「だってそうだろ、メイドの姿をして、あの人の着替えの手伝いまでしていた。そういう趣味の、ただの変態野郎じゃないか」
彼は変化魔法を使うためにずっと魔力を出し続けていて、エミリーさんに化けていた。
それはすごく大変なことだ。魔力や体力、そして気力も随分使うはず。
そこまでして、姿を変えるには何か目的があってのことだ。
「あなた一体、何者ですか」
「ん? 知りたい? でもさ、追及しないほうがいいよ。キミのためにも」
「僕のため?」
「そう――」
彼は、人差し指を立てて言う。
「一応、この姿の名前は教えてあげる。エミルマイト」
この姿の名前……? じゃ、まだ彼は真実の姿じゃないってことだ。
「でもね、これ以上は聞いたらダメだよ。キミを不幸にしたくないからさ」
何かを誤魔化して言っているのではなく、本心から言っているように思えた。
この魔力、そして不可解な力。
もしかして彼は魔界から来たのだろうか……。
でも、僕の結界で屋敷に入れないはずだ。
そんな僕の心を読んだ様に、彼は言う。
「ああ、そうそう。もう一人の聖女? あのマユって子に許可を貰って俺はこの屋敷に入ることが出来たんだよね」
やはりそうだ。この人は人間じゃない。
でも、なぜかわからないけれど、この人はずっと博美さんの傍で、彼女に寄り添い、彼女を守ってくれていた。
彼が誰であろうと関係ない。
「わかりました。あなたのことは詮索しません」
「うんうん、さすが魔獣くん、素直だね。それこそ、白馬に乗った王子様って感じなのかな。そこがキミのいいところだよね。ではそろそろ、俺はメイドのエミリーに戻ろうとしよう」
パチンと指を鳴らすと、元の女性のエミリーさんに戻った。
「では、明日、博美様が出て行くことをお伝えましたので」
エミリーさんは、なにかを期待するような表情をする。
いったい僕に何を期待しているというのか。
「あなたは、僕にどうしろと言いたいのですか」
「私は、博美様が幸せになって欲しいだけです。だって魔獣さんと博美様ってお互いに惹かれ合っているのは傍にいてよーく、わかりましたから」
「冗談にしても……、博美さんが、僕なんかを……」
「じゃ、ハロルド王子に言っちゃおうかな。聖女は博美様の方がいいですよって」
「……」
「お、マジで怒ったな。あのときと同じだ。サイモンが博美様に触れようとしたときも怒っていたな。ほら、みろ。今も、耳もしっぽもピンっと立ち上がっているぞ」
茶化すようにエミリーさんが言うものだから、僕もムキになって言い返した。
「エミリーさんの姿で、男性の声は違和感があるので、話に集中できません!」
「なるほど」
そうしてエミリーさんはまた女性の声に戻ると、
「魔獣さん、座ってくださいな」
僕はどうしようもないほど悔しくなって、丸椅子に座ると膝に置いている手でぐっと握り拳をつくった。
「どうしろって言うのですか。ここから出られない僕を……」
「ハロルド王子に渡すのが嫌なら、俺が博美様をいただくのはどうかな?」
「え?」
顔を上げると、またエミリーさんが男性の声に……、いや、姿も男になっていた。
「俺、マジで博美様のこと気に入っているんだよね。彼女をこのまま連れ去ってしまいたい」
男性になったエミリーさんは、顎に手を置き、彼女とのことを想像しているのかイヤらしい顔になっていた。
「ダ、ダメです……」
「どうして? あんないい女だ。俺のモノにしたい」
「ちょ、ちょっと、待ってください……、彼女の意思はどうなるのですか」
「そうだな……、彼女の意思か……。やはり君は優しいよね。だからそんな姿になったんだろうけど」
「僕のことは、今はいいです」
「あ、そうだったね。彼女の事だ。ちゃんと自分の意思があって、それを口に出来る人だ。かといって、俺が毒入りパンで煽っても、王子のところへ文句を言いに行かなかった。あれほどの力があるんだ、王子や宰相、そしてマユという女性を呪うこともできた。だが、博美様はそうしなかった。それが彼女の意思と言うことだ」
「ええ、そうです。彼女は自分で考え、最善の答えを探しつつ、いつも頑張っています」
「だね、フェンリルの前に飛び出すような無鉄砲さもあるが、キミたち、似ているよ。それだけ優しい人なんだよね。相手を見た目や立場で見るのではなく、どのような立場の人でも、分け隔てなく接しているからこそ、お互いに引かれあう。俺も惹かれているけどね」
「――」
「ほら、みろ。やっぱりお前も惚れているんだろ。素直になれよ」
「素直になったところで、僕は……、もう、いいです! 出て行ってください」
僕は、男性のエミリーさんの背中を押した。
最後に、エミリーさんは振り返って女性に戻ると、
「その額にある鎖のことを、博美様に言わなくていいのかしら」
「な、なにを言っているのですか。もう帰ってください!」
僕はバタンと扉をしめた。
明日、博美さんは屋敷を出て行く。
けれど僕は、ここで生きていく。
ずっと、ずっと、独りで……。
孤独に……。これは僕への罰だ。
この地下で生活を続けなければならない……。
彼女と共に生きていけるわけなんてない。
許してなんてもらえない。
僕は、僕自身のために彼女を召喚したのだから。
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