【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり

文字の大きさ
上 下
30 / 47

30、フェンリルです(前編)

しおりを挟む
 
 エミリーが驚いた顔で、博美に尋ねる。

「では、誰もいない地下のお部屋で、魔法陣からサイモンと魔獣さんのやり取りが見えたということですか」

「うん、立体的な映像が浮かび上がって、声まで聞こえたからびっくりした」

「サイモンと魔獣さんは、どのようなお話をされていたのですか」

「ええっと、呪いとかなんとか……、そうそう。カルロスって人が、屋敷にやって来たドワーフの人が持っているカバンを取り上げた。そうしたら銀色の狼に噛まれたって。それが呪いになったとか、そんな感じだったかな」

 博美は覚えていることを全部エミリーに話した。すると、エミリーが腕を組み、難しい顔をする。

「呪い……、ですか。それに銀色の狼……。もしかするとフェンリルかもしれません」

「フェンリル?」

「はい。伝説の魔物フェンリル。ですが、ドワーフと一緒にいたとしたら、まだ大人になる前の幼獣かもしれません。しかし、今回のことで暴走しなければいいのですが……」

 エミリーが何かを振り払うように首を振る。

「あれこれ無用な心配をしても仕方がありませんので」

 そして博美に視線を向けたときには笑顔になっていた。

「博美様、街へ行ってみませんか? 魔獣さんはしばらく屋敷の外には出られないようなので、私が街を案内します」

 エミリーの申し出に感謝の気持ちはあったが、内心複雑な思いもあった。

 魔獣さんと先に約束していたのに、エミリーと一緒に街へ行くなんて……。後ろめたい気持ちもあるけれど、数日魔獣さんと会えないだけでこんなに寂しくなるなんて。

 会いたい……、会いたいな……。

 それにサイモンから助けてくれたお礼もまだ魔獣さんに言ってないし……。

「あ、そうだ! ねぇ、街でおいしい物を買ってきて、魔獣さんに差し入れするのもいいよね」

「それはいい考えですね。魔獣さんもお喜びになると思いますよ」

***

 二日後、ハロルド王子の屋敷の前に、立派な馬車が用意された。

 御者の人のエスコートによって博美が馬車に乗り込んだ。

 博美とエミリーが席に着くと、馬車が動き出す。

「昨日は、お休みをいただき申し訳ございませんでした」

 前の席のエミリーが謝った。

「全然気にしなくていいから。昨日は、ゆっくり屋敷の庭園を散歩したりして気分転換にもなったから。それにしても、よくこんな立派な馬車を借りられたね。てっきり、屋敷から街まで歩いて行くのかと思っていた」

 博美が革張りの立派な内装を見ながら言うと、エミリーも同意した。

「はい、わたくしもそのつもりでした。少し距離はございますが街まで徒歩で行けますので。なので今朝、博美様と街に出かけるとロドリック様にお話ししたところ、屋敷の馬車を是非とも使ってほしいとご用意してくださいました」

 その話を聞いて、博美は昨日のことを思い出していた。エミリーが不在だったので、博美は一人で広い庭園を散歩していた。そのとき黒の立派な馬車が何台もやってきて、屋敷の表玄関に停まると貴族風の威厳のある男性たちがぞろぞろと屋敷の中に緊張した面持ちで入って行ったのだ。そのことを言うとエミリーが教えてくれた。

「それはグリアティ家の一族だと思います。サイモンとカルロスのことで謝罪に来られたらしいですから。その後、あの兄弟も牢屋から出され、グリアティ家が引き取り、この国を出て行くことが決まったと聞いております」

「そうなんだ」

 グリアティ家との話し合いは無事に終わったってことだ。

 っということはグリアティ家から慰謝料などをガッポリもらって王子や宰相もご機嫌なのだろう。だから、この馬車を貸し出してくれたのだ。そう博美は思っていた。

 そんなことを考えている間に、街の外の広場のようなところで馬車が停まる。
 従者の手を借り、二人は降りた。

「うわぁ、カワイイ」

 博美が街の入り口で感嘆の声を上げた。
 ヨーロッパ風のレンガ造りの家や白い壁の家がならび、まるで絵本の世界のように可愛らしい。

「素敵な街だね」

「最近ではこの景観を気に入り観光客が増えているらしいです。小さな街ですがハロルド王子がこちらで住むようになり、名産品のワインが注目を浴びて、商人の口コミが各地へ広まっていることがきっかけだったと聞いております」

「商人?」

「あの人が、そうですね」

 エミリーが視線を向ける先には、特徴的な白い服装の男性がいた。白の丸い帽子にひざ下まで丈があるゆったりとした白いズボン、背中には箪笥のような行商用つづらを背負っている。

「大荷物だね」

「商人たちは、街から街へ移動しながら商売をしています。しかし最近では、この街のワインが王都で人気らしいので、仕入れに来たのかもしれませんね」

「え? ここって王都じゃないの?」

 思わず博美は聞き返した。てっきり、ここが王都とばかり思っていたからだ。

「もしかして博美様は、ここが王都だとずっと思われていたのですか」

 今度は驚いた表情でエミリーが聞き返す。博美がここを王都だと勘違いしていることに、今、知ったという感じだった。

「うん……、だってハロルド王子がいるから、てっきりここが王都だと思っていた。それに宰相も」

 そのことをエミリーに尋ねようとしたときだ、突然「キャー」っという叫び声が聞こえた。
 
 振り返ると、街の人たちがこちらに向かって走って来ていた。

 すれ違いざまに言われた。

「あんたたちも街の外へ逃げろ」
 
 皆、顔色を変えて必死の形相で、さきほど博美たちが入って来た街の門に向かって逃げていく。

「博美様、わたくしたちも一旦、街の外へ」

 エミリーの声と重なるように、
「おかあさぁん」
 と女の子の泣き声が博美の耳に聞こえてきた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

政略結婚で「新興国の王女のくせに」と馬鹿にされたので反撃します

nanahi
恋愛
政略結婚により新興国クリューガーから因習漂う隣国に嫁いだ王女イーリス。王宮に上がったその日から「子爵上がりの王が作った新興国風情が」と揶揄される。さらに側妃の陰謀で王との夜も邪魔され続け、次第に身の危険を感じるようになる。 イーリスが邪険にされる理由は父が王と交わした婚姻の条件にあった。財政難で困窮している隣国の王は巨万の富を得たイーリスの父の財に目をつけ、婚姻を打診してきたのだ。資金援助と引き換えに父が提示した条件がこれだ。 「娘イーリスが王子を産んだ場合、その子を王太子とすること」 すでに二人の側妃の間にそれぞれ王子がいるにも関わらずだ。こうしてイーリスの輿入れは王宮に波乱をもたらすことになる。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。  ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。  その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。  十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。  そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。 「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」  テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。  21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。  ※「小説家になろう」さまにも掲載しております。  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

処理中です...