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14、~佐藤マユside3~ 策略

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 マユはメイドたちを引き連れ、一番奥にある王子の部屋へ向かった。

 メイドが扉をノックした。

「誰ですか、こんな夜更けに」

 宰相の声が応えた。

「聖女マユ様です」

 代わりにメイドが声を上げると、王子が返事をした。

「よし、入れ」

 許可が出ると、マユは部屋へ入った。

 豪華な広々とした室内は壁や柱の装飾に金箔が施され、左側にはラウンジのように、カウンターバーまであった。

 王子はカウンターバーの椅子に座って酒を飲んでいた。

「どうしたマユ」

 席を立った王子がマユを出迎え、髪を触ろうとすると、すっとマユは身体をよけ、宰相がいる斜め前のソファへ移動した。

「王子様、お話があります」

「改まって、なんだ」

 マユに逃げられ、不機嫌な表情をしながら、王子はカウンターにあるお酒に手を伸ばす。

「あの女性のことでお話が」

「あの女性? ああ、アイツのことか。まったくなんて奴だ、あんな下品な女は会ったことがない。こうして思い出すだけ酒が不味くなる」

 顔を歪ませ、王子は酒のボトルからグラスに酒を入れて、煽るように飲んだ。

「どうされるつもりですか?」

「もちろん明日の朝いちばんで追い出す。なあ、宰相」

 宰相の前のテーブルの上に、重そうな布袋が三つ置かれていた。

「はい。あのようなマナーが悪い人をこれ以上この屋敷に置いておくと、使用人たちまで悪影響が及ぶかもしれません。お金で追い出せるのでしたらよろしいでしょうう」

 やはり布袋にはお金が入っているようだ。

「さっさと追い出してしまえばいい。マユが聖女となったのだ。あとは王都の連中を見返すだけだ。俺をこんな辺鄙な場所へ送りやがって」

 腹立たしそうに、王子はドンっとグラスをカウンターテーブルに置いた。

「あの人にお金を払う必要があるのかしら」

 マユは独り言のようにつぶやく。

「どういう意味だ? 金を払わなければあの女はこの屋敷に居座るつもりだぞ。あんな女が俺の屋敷にいると思うだけで、ムカムカしていくる。このまま何も渡さず追い出しても、必ず戻ってくる。あの食事を見ただろ、下品極まりない食べ方に、残った食事まで部屋に持ち帰った。それだけ強欲な女だ。金を払うまで、いつまでも付きまとうに決まっている。それに、呪いなんて掛けられた日には……」

 王子は、ぞっとしたように言う。

 ったく、このバカ王子、なにビビってるんだよ。

「呪いですか?」

 マユは上目遣いで王子を見る。

「あの女は確かに呪うと言ったぞ。なあ、宰相」

「はい」

「でも、あの人にそんな力があるのかしら……」

 マユは自信がなさそうな言い方をしながら、あるわけねーじゃんと思っていた。

 私にだってそんな力がないのに、あんな女にあってたまるか!

 はったりだ、はったりを掛けて金を引っ張るつもりだ。すべてあの女の策略だ。それなのにこいつらは、呪いなんて言葉にビビって、マジで金を払うなんてマジ信じられねぇ。

「マユ様は、呪いの力があの女性にないとおっしゃっるのですか」

 宰相が尋ねると、マユは首をかしげて顎に手を置く。

「それは断言できないけど……、あの人に、そのような力があるという確証もありませんよね」

「うむ、そのとおりだが……。確かめようがない。魔獣もわからないと言っていた。だからそこ、金を払って出て行ってもらうのがいいのではないか。もし本当に、俺が呪われでもしまったらどうするつもりだ」

 王子の頬の肉が、ピクピクと引きつっていた。

 なに、このビビリ王子。
 マジ、使えねぇな。

 でも、どうにかしないとこのままじゃ、あの女のところに金が渡ってしまう……。

 とにかく呪いをどうにかしないと……。

「呪いって、誰でも出来るのですか」

 マユの質問に宰相が真剣な表情になった。

「特別な魔力を持つ人だけができると言われています。ですが、呪いに関しては謎が多く、解明されていません」

 王子がズボンの裾をまくっている。そこには、くすんだ色のアンクレットがあった。

 ったく、この王子、なにやってんだよ。今は呪いの話をしている最中だろう。
 真剣に話を聞けよ。

 マユは、苛立ったが話を続けた。

「ふーん、でも、そんなことをあの人が知っているのかしら。わたしだって、今初めて聞いて知ったことだし、召喚された直後にそんな知識を持っていたら、それこそおかしくありません?」

 マユの言葉に、王子と宰相が顔を見合わせる。

「そうか……、そうだな。あの女が呪いなんて、知るはずがないな……。だが、あの女は、『死んだあと、魂はあなた方に付きまとう』と言っていただろう。それが呪いではないのか、宰相」

「さあ、聞いたことはありませんね。死んだあと相手に呪いをかけるなど……」

 宰相の言葉に王子が考え込む。

「うむ……、どうしたものか」

 いやいやいや、もういいでしょ。呪いに、こだわる意味わかんねーよ。ハッタリなんだからさ。

 そんなとき、急に宰相が何かを思いついたような声を上げた。

「王子!」

「なんだ、突然、宰相!」

 そうだ、びっくりするじゃない。

「王子、たとえば、食事中に心臓発作を起きたり、胸が苦しくなったりして亡くなればどうでしょう?」

「あの女のことか? だから、あの女は死んだ後でも、魂になって俺たちに付きまとうと、言っていたではないか。同じことを言わせるな」

「ですから、王子! 本人も理由が分からず死んでしまえば、恨む相手がわからなければ、呪うことも出来ないでしょう」

「おお、そうか! 死んだ理由が本人もわからないなら、恨む相手も分からない。ならば……! 病気に見せかけて死んでくれればいいということだ。突然、発作を起こすような薬があればいいのではないか! そうだろ、宰相!」

「はい、王子。薬師に調合させ、今すぐ段取りを致します。朝食に発作を起こすような薬を仕込みましょう。わたくしにお任せください」

「任せたぞ、宰相」

 それを聞いたマユは、眠そうに両腕を伸ばした。

 ふん、やればできるじゃない。

「ふぁぁあ……、私、眠たくなってきたので、部屋に戻りますね」

 そう言ったマユの腕を王子が掴んだ。

「今夜、俺の部屋に泊まるか、マユ」

「私もそうしたいのですが……。けれど、やはり止めておきます。いろいろと王子様もこれからの段取りもございましょう。それに王子様に対するこの想いと、清らかな体を大切に取っておきたい。結婚式の夜まで」

 そう言い、微笑むとマユは、
「おやすみなさいませ」
 とドレスをひるがし、部屋を後にするのだった。

 メイドを引き連れ、マユは廊下を歩く。

 部屋に戻ったマユはメイドたちを帰らせ、ベッドに飛び乗った。

「あの女、毒で殺されるのね。黙ってこの屋敷から出て行けばよかったのに。ああ、可哀想――」

 これで気持ちよく眠りにつけると、マユはクイーンサイズのベッドで目を閉じた。

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