のんびり、まったり、モノづくり ~お嬢様は錬金術師~

チャららA12・山もり

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四章 王宮

78、晩餐

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 サラたちが席から立ち上がろうとすると、陛下がこちらに歩きながら、手で制する。

「いや、座ったままで。遠慮なく、どんどん食べてくれ」

 陛下の言葉が合図のように、すぐさまパウロが前にある丸焼きの鳥に手を伸ばした。

「やっと、ごちそうにありつけるよ。ケチなレンさんが全然食べさせてくれないんだもん。いだただきまーす!」

「陛下がまだ席についていないだろ。それに、その言い方じゃ、日ごろから俺が満足に食べさせてないみたいだろ」

 ブツブツ言う言葉を無視して肉をかぶりつくパウロに、レンが「はあ」と大きくため息をついた。

「ふふふ」

「アハハハ、いい食いっぷりだ」

 陛下も笑いながら、セバスチャンが椅子を引くのを確認し、ゆったりと腰を下ろす。けれど、何かに気づいたように陛下はセバスチャンを見上げた。

「キミは初めて見る顔だが、新しい執事かな?」

「いいえ。わたくしはヴィリアーズ公爵家サラ・メアリーお嬢様にお仕えする執事でございます」

「それは失礼した。客人であるヴィリアーズ公爵家のご令嬢には何から何まで世話になって申し訳ない」

「い、いえ」

「それにレン。シャーリー王女の目覚めぬ理由を解き明かしてくれて助かった。遅くなったが、御礼を述べさせてもらおう」

「大したことではないですから」

「そのことで貴殿たちに折り入って相談があるのだが……」

 なんだろう……、シャーリー王女のことなのかも……。この場にもいらっしゃらなくて、昨日の誕生日の祝いの席も欠席されたと聞いている。

 少し深刻な空気が漂うなか、パウロが手をあげた。

「はい、はい! 僕分かったよ」

「ん? そうか」

「うん、王様! 王宮料理の味付けでしょ。すっごく味が濃いから、王様も困っているんじゃない」

「お前な、それだけ食って、味に文句つけるのか?」

 いつの間にかパウロの周りだけ、すっかり料理がなくなっていた。

「それとこれは違うもん! お水、お水!」

 セバスチャンがパウロに水が入ったコップを手渡すと、すぐさま飲み干した。

「ぷは――」

 その様子を見ていた陛下は、手前にあるオードブルを食べると大きく頷いた。

「うむ……。確かに、味が濃い。これまで我が食べていた料理とは味付けが違う」

 その言葉に壁際に立っていたカラムさんが顔をあげる。何か言いたげな表情に見えたが言うのをやめたようだった。

「このような料理を出すとは、客人に失礼ではないか。料理を作り直させよう。誰か! 誰かおらぬか!」

 陛下が廊下まで響き渡るような声を出している間に、サラは急いで料理を口に入れた。

 とにかく、味を確かめないと――。

「使用人たちはどうした。いったいどういうことだ……。そこにいるのは、ベニクド侯爵の助手だな」

 陛下がカラムの方へ視線をむける。

「ここに給仕やメイドがいないはどういうことだ?」

 陛下から声をかけられたカラムは緊張しているようで、声が震えていた。

「は、はい。ベニクド様から、お客様に失礼がないようにと、庶子である使用人たちをお客様の前に出さない様に申しつけられております」

「王宮を取り仕切るベニクド侯爵がこの場にいないことが、一番の失礼ではないのか。助手のキミはどう思うのだ?」

「私は、陛下との謁見が終わったお客様をこちらに通すようにと事前に指示を受けていたため、今、ベニクド様がどちらにいらっしゃるのか存じません。申し訳ございません」

 身を縮めるように頭を下げて応えたカラムに、陛下はどこかガッカリした様子だった。

「我はキミに意見を聞いたのが……。わかった。とにかく新しい料理を作り直させるように言ってきてくれ」

「は、はい」

 部屋を出て行こうするカラムに、レンが言葉をかける。

「大丈夫ですよ。陛下、パウロが大げさなだけです」

「いや、だが、これまで、我が食べていたものより味付けが濃い。このような物を客人に出すなど、失礼極まりない」

 やはりカラムは何かを言いたげな表情だ。その姿を見ていると以前の自分のようだとサラは感じていた。言いたいことがあっても自分に自信がなくて、自分の意見を言ってはいけないと思い込んでいたあの頃のようだと。

 でも、今は違う。
 レンさんやパウロくんと出会ったおかげだ。

「カラムさん、何かおっしゃりたいことがあるのでは?」

 サラはカラムに声をかけた。

「とんでもございません。私が陛下に申し上げるような立場ではございませんので」

「言いたいことがあれば、言えばいいんじゃない。王様だからって、気にする必要ないじゃん! 同じ人間でしょ」

 パウロの言葉にレンが首を振る。

「いや、お前は、もうちょっと陛下に対しての口の利き方をなんとかしろ」

 陛下が笑顔で手を振った。

「よい、よい。そこの助手も、その子のように、言いたいことがあれば我に言えばいい」
「僕は、パウロって名前だよ。ね、サラさん!」
「そうだね。パウロくん」
「それは失礼した、パウロくん」

 陛下はサラの口調を真似るようして、微笑んだ。

「べつにいいよ、王様」
「お前な……」

 レンはあきれた様子だったが、陛下は何かに気が付いたようだった。

「キミは、カラムといったな」

 陛下から名前を呼ばれたカラムはハッとしたように顔を上げた。

「はい」
「言いたいことがあれば、申してみよ、カラム」

「はい、恐れ入ります……。味付けに関してですが、さきほど私が毒味のために味を確かめたとき、いつもと同じ味付けで、特別、今日が変わっているようには感じませんでした」

「これがいつも、我が食べている味付けだと言うのか?」

「はい……」
「このような料理を我が毎日、口にしていたなど……」

 陛下は信じられないというように料理を見ていた。それを察したように、カラムはすぐさま壁際に下がった。自分が言ったことを後悔しているようだった。

 わたしが、カラムさんに声をかけたからだ。
 余計なことをしたのかも……。

 でもやはり思ったことは言うべきだ。

「陛下、この料理はこれまでの陛下のお口に合わせて作られたのかもしれません。お酒をよく飲まれる方は、濃い目の味付けを好まれますから」

「ほう、我が……、このような味の濃い料理をこれまで食していたのか」

 陛下が目の前の料理に視線を落とす。

「俺もそう思いますよ。酒のあては、これぐらいにの味付けになることもあるでしょう。なので、今回は作り直すほどほどでもありません」

「ま、そうだよね。もったいないもん! 僕もこれでいいよ!」
「いや、お前が文句を言ったからだろ。って、お前まだ食べる気か」

 レンとパウロが話をしているなか、陛下が考えを巡らせているようだった。

「そうか、酒ばかり飲む味覚に合わせて料理をつくっていたのか……。だから、ここまで味が濃くなってしまった。食が進むようにと、周りが察して味付けを徐々に濃いものになっていたのか。そうなのか、カラム?」

「はい。その通りでございます」

「うむ……、これからは、身体のことを考え、酒を控えるようにしょう。我のこれまでの食生活のことまで、よく気づかれてくれた、サラ・メアリ―殿」

「い、いえ……。わたしは、カラムさんが、何かおっしゃりたいような感じを受けたので気づけただけです。日ごろから陛下のお傍にいらっしゃる人が一番よくわかると思いますので」

「そうだな。アレクサンドラ王妃も皆のことを見ていた。あの頃は、王宮内もこのように賑やかであった。あのように戻れるか……。いや、戻らなくてならない。サラ・メアリー殿の錬金術によって我は前を向くきっかけを貰ったのだ。カラム、これからは思ったことを言ってくれ。そのほうが、我も何かと気づけるかもしれぬ」

「はい、陛下」

 カラムは、嬉しそうな表情で陛下に返事をしていた。

「王宮に爽やかな風が吹いたようだ」

 陛下がサラを見て笑った。
 




~お知らせ~

 お読みくださりありがとうございました。
 しかし、続きが全く書けていません。
 完結させようと意気込みだけはあるのですが……。

 そういうわけで、再開がいつになるのか分かりません。
 気長にお待ちいただける方だけお気に入りをそのままにしていただれば……。
 本当に申し訳ございません<(_ _)>
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