のんびり、まったり、モノづくり ~お嬢様は錬金術師~

チャららA12・山もり

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四章 王宮

65、宿屋の親子 一歩前へ(後編)

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「ねぇ、サラさん。それってさ、ただ単に金持ち自慢されているだけじゃない?」

 パウロの言葉にサラは首をかしげながらも、ティアナに力説する。

「えっ、そうだったのかな……。ですが、そんなお客様たちが口を揃えておっしゃっていたのは、どの店も料理はおいしけれどデザートがいまいちだという話でした。ですから、トムさんのおいしいデザートを、王都の皆様に知っていただきたいです」

「父ちゃんが王宮で出していたデザートを昼間のメニューにね」

 腕を組んで考えているティアナにサラは話をつづけた。

「見た目も楽しく、食べたらおいしいデザートですから、絶対にお客さんに喜ばれると思います。今のサイズでしたら、ちょっと大きすぎるので、もう少し小さめにしたほうがいいかもしれません。あ、そうだ! 小さめのお持ち帰り用を店の前で販売すれば、見た目も可愛いし、お子さんや女性のお客さんに喜ばれて……」

 っと、そこまで話して気が付いた。
 みんながサラを見ていた。

 あ、やっちゃった――。
 つい、錬金術で作るときのクセで……、どうすればお客さんに喜ばれるかを勝手に考えてしまって、熱くなって、ぺらぺらとしゃべりすぎちゃった……。

 お二人の店なのだから、ここまで余計なことを言う必要はなかったかも……。

「すみません。これまで言ったこと、全部忘れてください。よく考えれば、デザートの持ち帰りなんて、どこの店もやっていなくて……、あまりにも突飛な発想でした」

 サラはちょっとお節介が過ぎちゃった……、と反省していたら、

「すごくいいよ!」
「え?」

 ティアナが興奮気味にサラの手を握る。

「サラちゃんの説明がすごく説得力あったから、やる気になってきた。私が納得できないところを、全部サラちゃんが丁寧に答えてくれたでしょ。それに安心して、イメージもできた。他の店でやってないことをするって、すごくいいアイデアだって気づいたよ。ありがとう、サラちゃん!」

 ティアナはトムを見た。

「父ちゃん、コレ、絶対いいよ。私もさ、父ちゃんがつくるようなデザートを売っていれば、買うもん。持ち帰って食べられるものってさ、日持ちのするパンだけだし、王都には使用人たちも住んでいるし、あんなの住み込みで働いている人じゃ、食べる機会なんてないよ。家に持ち帰って、柔らかい果物が入ったケーキをゆっくり食べられるのはいいよ! それに、よくわかんないけど、貴族の人たちってティータイムって時間もあるんでしょ。屋敷の料理人にマネされる前に、どんどん新しい商品を出していくの。父ちゃんは王宮料理長だったんだから、それぐらいお手の物でしょ」

 顔を輝かせるティアナの姿をみて、サラはホッとしていた。

 押しつけがましいことを言って、不快な気持ちにさせたんじゃないかと心配していたからだ。

「さすが、サラさんだよね! この店に来るような、むさくるしい男ばっかりじゃなくて、もっと金払いのいい、女性のお客さんを呼びこもうとするって、やっぱり目の付け所が違うよね」

「むさくるしい……って、お前は、ほんとうに誰に対しても失礼だな。相変わらず上から目線のうちのパウロだが、新しいことを始めることで、トムさんも気持ちが前向きになるのはいいことかもしれない」

「ええ、そうですね。ね、父ちゃん、サラちゃんがいいことを教えてくれたからさ、これからは女性のお客さんにも来てもらおうよ。ね、店先をもっと可愛らしくして、持ち帰り用を用意するの。店先にテーブルと椅子をだして、そこでお茶してもらうのもいいんじゃない。そして、この宿屋通りをパーっと盛り上げようよ。メインストリートに負けないぐらいにさ」

「メインストリートに負けない様に、この通りを活気づけるのか――」

「うん、そうだよ。父ちゃんはもっと小さくしたデザートを考えて。おじいちゃんの住んでいる村で育てている変わったフルーツを使えるようにすればいいんじゃない。珍しいものがたくさんあったでしょ。ねぇ、これからどんどん忙しくなるよ」

 トムとティアナは、今後の店のことを話し合って、盛り上がっていた。

 二人のああでもない、こうでもないと熱心に話す様子に、サラはこちらまで楽しい気分になってくる。

 そして、レンと目があった。

 頷いてくれて、サラが言ったことは無駄じゃなかった、これでよかったと、そう言ってくれているような気がした。

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