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四章 王宮
61、名もない作用
しおりを挟むパウロが、レンに向かって驚いていた。
「え? レンさんでも見えないことがあるの?」
「ああ、消えた魔法や効果は俺では見えない」
レンの『消えた魔法や効果』、その言葉にサラは思い当たる節があった。
そのとき、いきなりトムが厨房で大きな声を出した。
「そうだ! 思い出したぞ! 退職する日、珍しく王宮魔術師のベニクド様が我々を呼びつけた。ベニクド様よってクビにされた我々使用人たちは、雨の日王宮の広場に集められ、最後にお言葉をいただき、ああ、そうだ……。やっと思い出せたぞ、ティアナ!」
トムの目はしっかりとティアナを捉えていた。
「父ちゃん、戻ったんだね。もうあんな状態にならないよね。もう大丈夫なんでしょ、治ったんでしょ。そうだよね、サラちゃん」
助けを求めるようにティアナはサラの手を握る。
先ほどまでサラはトムのぼんやりとした原因がわからず、酔わないお酒でも一時的に良くなると考えていた。
だが、今は違う。
もうトムさんは大丈夫だ。
「はい、もう、トムさんは大丈夫だと思います」
今のサラには、確信のようなものがあった。
おじさんがうつろな状態に戻ることはないはす。
おじさんが受けていた悪い作用は、酔わないお酒の効果で完全に消えたのだから。
なぜなら――、その原因は、
「解除魔法ですね、レンさん」
サラの言葉にレンが大きく頷いた。
「ああ、サラが言うとおりだろう」
「え? どういうこと? あのおじさんに魔法がかけられていたら、レンさんの目で見えるはずだよね」
パウロの言葉に、レンが首を振る。
「解かれた魔法だからこそ、俺にも見えなかった。すべてが文字となって見えるわけではないからな」
「ええ? もう、全然、意味わかんないよ」
ぷぅっとパウロくんが頬を膨らませている。宿屋のトム親子もサラやレンを交互に見て、理由を知りたそうだった。
だから、サラは屋敷にいたころ、家庭教師から教わった解除魔法のことを伝えることにした。
「解除魔法はその名の通り、魔法を受けた人に対して効果を無効にする魔法です。ですが、最初にかけた術者ではなく、第三者が解除魔法を行うこともできます」
このまま話をしてもいいのかと周りを見ると、皆がサラの話に耳を傾けてくれていたので、続けることにした。
「しかし魔法をかけた者ではなく、第三者が解除魔法を行うと解除される方の負担が大きく、様々な悪い作用が起きることがあります。ですから、解除魔法は慎重に行わなければならない高度な魔法です」
「それじゃ、その第三者が父ちゃんに解除魔法を?」
「王宮魔術師ベニクドっていう人じゃない。おじさんに解除魔法をかけたのは」
パウロくんの推測に、サラも頷いた。
「うん、わたしもそうだと思う。そして、それこそが原因になってしまった」
サラは自分の思っていることが正しいことなのか、レンを見た。
「俺も同じ意見だ。今、サラが言った通りだろう。王宮で働く使用人たちに何らかの術が掛けられていた。そして、それを消すために王宮魔術師が解除魔法をほどこした。だが、その技術が伴わない解除魔法によって、トムさんに悪い作用が起きてしまったのだろう」
レンが言うように、最初に掛けられた術より解除魔法の術者の技能や魔力が低いときには、原因不明の不調が出ることが多いとされている。
最悪、解除魔法をかけられた人が死ぬこともあり得るのだ。
それほど解除魔法とは危険を伴う魔法だった。
そして、人それぞれ、解除魔法の後に起きる不調も違ってくるからこそ、レンさんにも見えなかった。
いうなれば、名もない作用――。
「それじゃ、父ちゃんはそのせいで」
「ああ。だが、サラの酔わないお酒によってその不調も消えたはず。トムさんがぼんやりしていたのも、解除魔法に伴う原因だったからこそ、聖属性の効果で消え去った」
「聖属性効果ですか?」
ティアナは初めて聞いたというような感じだが、当然の反応だった。
サラは詳しく聖属性の話をティアナに説明を始めた。
「聖魔法と聖属性は同じ効力があります。古くから伝わる聖魔法は現在エスバルト教の聖職者しか使えません。そのため、聖職者がいないライバーツ王国では白魔法を使います。もちろん白魔法も有効性がありますが、聖魔法よりも威力は落ちてしまいます。なので白魔法よりも、さらに強力な聖魔法なら、このような複雑ではっきりとしない解除魔法によって起きる悪い作用も消し去ることが出来たわけです」
「よかった……。もう父ちゃんは大丈夫なんだ」
心から安心したようなティアナさんに、サラもホッとした。
おじさんの原因がわかって、よかった。
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