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四章 王宮
54、青い屋根の宿屋
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サラは宿屋の階段を上がり、「すみません、あの――」っと、開いた扉から中を覗く。
一階は食堂のようだった。
窓際の四人席にレンとパウロが向かい合って座っているのが見えた。
気づいたパウロが立ち上がって手を振った。
「あ、サラさんだ! おはよう!」
サラも両手の紙袋を上げて「おはよう、パウロくん」と言いながら、その席へ移動した。
「おはよう、サラ」
「おはようございます、レンさん。すみません、朝食のお邪魔でしたでしょうか?」
「いや、今、注文したばかりだ」
「ねぇ、サラさんも一緒に食べようよ。それとも朝食、食べてきた?」
「ううん、まだ食べてない」
「では、サラの分も注文しよう」
レンが店員さんに手をあげて、こちらへ呼ぶ。
「サラは嫌いな物ってあったかな?」
レンに聞かれて、サラは首を振った。
「いえ、だいたいの食材ならいけますので」
「食材って言い方が錬金術師っぽいね、サラさん」
パウロに言われて、思わず笑ってしまう。
「ふふふ、そうかな」
「ここに座って、サラさん」
「うん、ありがとう」
そうしてサラはパウロの隣の席についた。
斜め向かいでは、レンが「同じのをもうひとつ追加で」と女性店員に注文していた。
「ねぇ、こんなに朝早くからどうしたの? 採取じゃないんでしょ?」
「うん。昨日、レンさんから頼まれていたモノをね、見てもらいに来たの。今ここで見てもらってもいいですか?」
サラは注文を終えたレンさんに声を掛けた。
「もちろん。それにしてもこれほど早く作ってくれるとは思わなかったな。数日かかると思っていたが」
「サラさんは、一流の錬金術師だもんね。これぐらいチャチャっと出来るよね」
「一流なんて、そんなのぜんぜんだよ」
言いながら、サラは紙袋からワインのボトルを取り出した。
「これなんですけど……」
レンが受け取ったワインボトルを見ると目を輝かせる。
「コレは、すごい。きちんと酔わないお酒になっている。しかも最高級の品質だ。昨日の今日でこれを完成させるとはサラの錬金術の腕前は凄いな。おお!? なんと、見たこともない効果までついているじゃないか」
見たこともない効果って、増量効果のことだよね……。
やっぱりない方がいいよね。
「え? なになに?」
まだワインを見ているレンの代わりに、サラがパウロへ説明した。
「あのね、増量効果が付いちゃったの」
「増量効果?」
「うん。そのボトルからグラスにいくらワインを注いでも、瓶の中ではお酒が減らないの。レンさんから依頼された酔わないお酒に増量効果を付けていいのか分からなかったから、直接、レンさんに聞こうと思って……」
「ふーん。やっぱりサラさんって真面目だよね」
「え? どうして?」
「だって、そんなのレンさんに聞く必要ないじゃん。減らないお酒でしょ、いくら飲んだって減らないんだからすっごい得じゃん。誰だってほしいに決まっているよね、レンさん」
「ああ。この特別な効果がついたお酒は、きっと博士は大喜びするだろう。それにいくら飲んでも酔わなくて、減らないお酒なのだから博士の研究の邪魔にはならない。ありがとう、サラ。俺が想像したものより格段にいいものを作ってきてくれた」
「あ、はい。よかったです……」
サラは安堵した。
初めての依頼品で緊張していたのもあるけれど、満足してもらえるものを渡せたのが、やはり嬉しかった。
「ふむふむ。アイテム名も、酔わないお酒か。他にも面白い効果が付いているな。幸福感アップにアルコール分解、しかも聖属性とは、これはなかなかの代物だ。博士に言って厳重に保管するようにしないといけないな」
えっ!? 聖属性――?
どういうこと?
「あ、あの……、レンさん。聖属性効果が付いているのですか?」
「サラに渡した赤ワインから効果が引き継がれたのだろう。なにせ、あのワインは法王からいただいたものだから――」
って、軽くレンさんが言ったけれど、え? ええええ――???
法王って、あのエスバルト教の法王様?
世界中に教徒がいるとされるエスバルト教。本部があるのは、小さな島国だが、世界各地に教会や敷地を持ち、その影響力は巨大国家と匹敵するといわれている。
そのトップである、法王様からいただいたワインだったなんて知らなかった。
そんな大事なものを、わたし、調合につかっちゃった。
法王様のワインなのに……。
そういえば、ワインの味見をしているときに不思議な効果があって、あぁ、そうだ――、あれが聖属性の効果だったんだ。あのときに気づいていれば、レンさんから受けとったワインが神聖なものだって分かったのに。
「どうしたの、サラさん。元気ないけど」
心配そうな顔をこちらに向けるパウロに、サラは正直に胸の内を話すことにした。
「あのね、恥ずかしい話だけど、レンさんが教えてくれた聖属性の効果を今、初めて知ったの。さっきパウロくんに一流の錬金術師なんて、褒められたけれど……。錬金術師としては、まだまだ……だなって」
「こんなにすごい効果が出せたのに? まだまだなの?」
「うん。わたしには、鑑定眼がないのね。だから、味見をしないと、どのような効果があるのか分からないの。それに、教えてもらったりすれば、今回のようにそれが聖属性なのかと気づけるけど……。だから自分ひとりじゃ気づくことも出来なかったから」
自分の力不足はしょうがない。
けれど、今は法王様からいただいたワインを調合につかっちゃったことをどうしようかとサラは焦っていた。
あっ、そうだ!
サラは、ガタンっと席を立ち上がった。
「レンさん、法王様のワインは使ってしまいましたが、まだ残っていますから今すぐ持ってきます。本当に、あのような貴重なワインを調合に使っちゃって、すみません」
一階は食堂のようだった。
窓際の四人席にレンとパウロが向かい合って座っているのが見えた。
気づいたパウロが立ち上がって手を振った。
「あ、サラさんだ! おはよう!」
サラも両手の紙袋を上げて「おはよう、パウロくん」と言いながら、その席へ移動した。
「おはよう、サラ」
「おはようございます、レンさん。すみません、朝食のお邪魔でしたでしょうか?」
「いや、今、注文したばかりだ」
「ねぇ、サラさんも一緒に食べようよ。それとも朝食、食べてきた?」
「ううん、まだ食べてない」
「では、サラの分も注文しよう」
レンが店員さんに手をあげて、こちらへ呼ぶ。
「サラは嫌いな物ってあったかな?」
レンに聞かれて、サラは首を振った。
「いえ、だいたいの食材ならいけますので」
「食材って言い方が錬金術師っぽいね、サラさん」
パウロに言われて、思わず笑ってしまう。
「ふふふ、そうかな」
「ここに座って、サラさん」
「うん、ありがとう」
そうしてサラはパウロの隣の席についた。
斜め向かいでは、レンが「同じのをもうひとつ追加で」と女性店員に注文していた。
「ねぇ、こんなに朝早くからどうしたの? 採取じゃないんでしょ?」
「うん。昨日、レンさんから頼まれていたモノをね、見てもらいに来たの。今ここで見てもらってもいいですか?」
サラは注文を終えたレンさんに声を掛けた。
「もちろん。それにしてもこれほど早く作ってくれるとは思わなかったな。数日かかると思っていたが」
「サラさんは、一流の錬金術師だもんね。これぐらいチャチャっと出来るよね」
「一流なんて、そんなのぜんぜんだよ」
言いながら、サラは紙袋からワインのボトルを取り出した。
「これなんですけど……」
レンが受け取ったワインボトルを見ると目を輝かせる。
「コレは、すごい。きちんと酔わないお酒になっている。しかも最高級の品質だ。昨日の今日でこれを完成させるとはサラの錬金術の腕前は凄いな。おお!? なんと、見たこともない効果までついているじゃないか」
見たこともない効果って、増量効果のことだよね……。
やっぱりない方がいいよね。
「え? なになに?」
まだワインを見ているレンの代わりに、サラがパウロへ説明した。
「あのね、増量効果が付いちゃったの」
「増量効果?」
「うん。そのボトルからグラスにいくらワインを注いでも、瓶の中ではお酒が減らないの。レンさんから依頼された酔わないお酒に増量効果を付けていいのか分からなかったから、直接、レンさんに聞こうと思って……」
「ふーん。やっぱりサラさんって真面目だよね」
「え? どうして?」
「だって、そんなのレンさんに聞く必要ないじゃん。減らないお酒でしょ、いくら飲んだって減らないんだからすっごい得じゃん。誰だってほしいに決まっているよね、レンさん」
「ああ。この特別な効果がついたお酒は、きっと博士は大喜びするだろう。それにいくら飲んでも酔わなくて、減らないお酒なのだから博士の研究の邪魔にはならない。ありがとう、サラ。俺が想像したものより格段にいいものを作ってきてくれた」
「あ、はい。よかったです……」
サラは安堵した。
初めての依頼品で緊張していたのもあるけれど、満足してもらえるものを渡せたのが、やはり嬉しかった。
「ふむふむ。アイテム名も、酔わないお酒か。他にも面白い効果が付いているな。幸福感アップにアルコール分解、しかも聖属性とは、これはなかなかの代物だ。博士に言って厳重に保管するようにしないといけないな」
えっ!? 聖属性――?
どういうこと?
「あ、あの……、レンさん。聖属性効果が付いているのですか?」
「サラに渡した赤ワインから効果が引き継がれたのだろう。なにせ、あのワインは法王からいただいたものだから――」
って、軽くレンさんが言ったけれど、え? ええええ――???
法王って、あのエスバルト教の法王様?
世界中に教徒がいるとされるエスバルト教。本部があるのは、小さな島国だが、世界各地に教会や敷地を持ち、その影響力は巨大国家と匹敵するといわれている。
そのトップである、法王様からいただいたワインだったなんて知らなかった。
そんな大事なものを、わたし、調合につかっちゃった。
法王様のワインなのに……。
そういえば、ワインの味見をしているときに不思議な効果があって、あぁ、そうだ――、あれが聖属性の効果だったんだ。あのときに気づいていれば、レンさんから受けとったワインが神聖なものだって分かったのに。
「どうしたの、サラさん。元気ないけど」
心配そうな顔をこちらに向けるパウロに、サラは正直に胸の内を話すことにした。
「あのね、恥ずかしい話だけど、レンさんが教えてくれた聖属性の効果を今、初めて知ったの。さっきパウロくんに一流の錬金術師なんて、褒められたけれど……。錬金術師としては、まだまだ……だなって」
「こんなにすごい効果が出せたのに? まだまだなの?」
「うん。わたしには、鑑定眼がないのね。だから、味見をしないと、どのような効果があるのか分からないの。それに、教えてもらったりすれば、今回のようにそれが聖属性なのかと気づけるけど……。だから自分ひとりじゃ気づくことも出来なかったから」
自分の力不足はしょうがない。
けれど、今は法王様からいただいたワインを調合につかっちゃったことをどうしようかとサラは焦っていた。
あっ、そうだ!
サラは、ガタンっと席を立ち上がった。
「レンさん、法王様のワインは使ってしまいましたが、まだ残っていますから今すぐ持ってきます。本当に、あのような貴重なワインを調合に使っちゃって、すみません」
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