のんびり、まったり、モノづくり ~お嬢様は錬金術師~

チャららA12・山もり

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四章 王宮

53、増量効果

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 鞄の中から取り出したものは、雑穀の粉!

 ダンジョンで異世界のフルーツで初めての調味料を作ろうとしたとき、最初は失敗したけれど、雑穀の粉を追加したら成功した。

 もしかすると、雑穀の粉には、中和剤のような役割があるのかもしれない。

「うん! 試してみよう」

 さきほどと同じ材料に、雑穀の粉を少々入れる。
 すべてが少しの量だけど……、まぜまぜ――。

「あっ!」

 鍋の中で光った。

 ブワっと強い光が放たれて、初めての効果があらわれたのを感じる。

「やった、成功!」

 見た目も赤ワインと同じ色。

 でも、鍋の中にあるワインの量が随分増えたような……。

 ま、いいよね。
 それより、まずは効果を確かめないと。

 鍋のワインをスプーンですくい取り、口に入れた。

「おいしい! あの高級ワインと同じ味。それに、きちんと酔わないお酒になっている」

 幸福感も引き継がれて、体内のアルコール分解もある。
 心身ともに浄化されたようなすっきりとした爽快感だ。

「うん、よし、それじゃ完成した酔わないお酒を、うつし替えないとね。レンさんに見てもらうために」

 サラは、戸棚の中から空のワイン瓶を取り出した。

 酔わないお酒をこぼさないようにフロートを差した瓶に少しずつ、注ぎこむ。

 ――あれ!?

 ワイン瓶の中で不思議なことが起きていた。

 まだ底にしか入れていないのに、瓶のなかで勝手に赤ワインが増えていくのだ。

「ど、どういうこと!?」

 瞬く間にワインが満量のところまで増えて、止まった。

「ふ、増えた?」

 夢かな……?
 頬をつねったけれど、夢じゃなかった。

 手元の鍋には赤ワインが並々と残り、目の前のワインボトルには満量になった酔わないお酒がある。

「なにが、起きているの?」

 も、もしかして――……、コレって、増量効果!?

 あれは伝説というか、絵本のなかのお話で……、実際にこんなことがあり得るのかな。

 はるか昔、魔人を倒しに行った勇気ある者が持っていたとされる、聖杯。
 聖杯から注がれる水は、聖なる効果があったとされ、いくら出しても減ることはなかった。そうして勇気ある者たちは、聖なる水をつかい、魔人の呪いや毒におかされた人々をけがれや苦しみから解放した。だが、魔人との戦いのあと聖杯が壊れると、聖なる水は消えてなくなった――。

 そう絵本には描かれていた。おとぎ話のような話だけど……。

 戸惑いのような、怖いような、混乱状態に手が震えた。

「落ちつこう、落ちつこう。ふう」

 大きく深呼吸をして、心を落ち着かせてみる。

 うん、冷静に。

 そして……、確かめないと。

 今度は、一回り小さな瓶にワインを入れてみた。同じように瓶の中で増えていく。

 そうして瓶の注ぎ口の下で止まった。

「やっぱり、そうだ。増量効果がついている。ちょっと、驚きすぎて気絶しそう。あ、だめだめ。意識を確かにもたないと」

 どこか実感の湧かないサラは、酔わないお酒が入った大小二本のワイン瓶をしばらく眺めていた。

 ※※※

「うん、準備は出来た!」

 いつものように斜めに肩から掛けたカバンと、両手には紙袋を持ち、サラは部屋の鍵を閉める。

 雨が降ってくる前に、レンたちが泊まっている宿屋に『酔わないお酒』を持って行き、レンに尋ねようと思っていた。
 依頼を受けた『酔わないお酒』に増量効果がついてもいいのか。
 それともついていない方がいいのか。
 レンに直接聞くために宿屋へ向かうことにしたのだった。

 レンから増量効果が付いていない方がいいと言われても、新たに家で作り直すことは可能だ。
 赤ワインや他の素材も、残っている。

 しかし、サラは酔わないお酒を作り直すより、他の調合を始めてしまったのだ。

「だってあのあと、パウロくんのお菓子を調合で作っちゃったから、はやくパウロくんに渡したくて……」

 サラがぶつぶつ言い始めたからなのか、道行く人が距離を取っている。

 あれ……? ま、いいかな。

 それにしても増量効果だよね。酔わないお酒は、受け取った人からすれば喜ばれるような気もするけど、ついつい飲みすぎちゃうってこともあるのかな。

「でも、このお酒は飲みすぎても、酔わないから……。うーん」

 こうして歩きながら独り言を言い、いつしかサラは街外れの宿屋通りに来ていた。

 どんよりとした雲は今にも雨が降りそうだ。だが、宿屋通りには酔っぱらった人たちが、宿屋の壁にもたれかかり、座り込んで寝ていた。

 昨夜の王女様の誕生祭で飲みすぎたせいで、自分の泊まった宿屋まで、たどり着けなかったのかな……。

 そんなことを思っていたら見つけた。

 青い屋根の宿屋。

 サラは正面に行くと、宿屋の建物を見上げた。

 レンさんが言っていた宿屋だ。
 
 けっこう歴史がありそうなたたずまいだけど、いい感じのおもむきがある。

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