40 / 78
三章 王都
40、責任逃れ
しおりを挟むこの騒ぎを聞きつけて、王国軍の赤い軍服姿の兵士たちがメインストリートに集まりつつあった。
ラモード将軍は国王軍の兵士たちに手をあげ、任せてほしいと合図のようなものを出し、レンに向き直った。
「レン殿、このような非礼、深くお詫び申し上げる。ですから、どうか、その手にあるものをしまってもらえぬだろうか」
「うん? そうですね。ハハハハ、忘れていました」
レンは笑いながら右手にある、黒い穴のようなものを消しさった。
「かたじけない」
将軍が頭をさげると、レンが声をかける。
「将軍、頭をあげてください。こちらも本気ではなく、ただの脅しですから」
それを聞いたパウロが大きな声で否定する。
「いやいや、レンさん。隊の人たちがサラさんに攻撃してきたから、マジで魔界へ送ろうとしていたくせに」
サラも、地上に降りてから何かあればすぐに魔界へ送り込む……、レンが右手をそのままにしていたのは、脅しではなく本気だったような気がしていた。
そんな中、攻撃を指示した将軍の隊のリーダーが、一歩前に出た。
「恐れながら、ラモード様! そこにいるアリーシャという女が、ラモード将軍の行きつけの店主だというので、我らは信じたわけで……。それに、我らが探していたのは従者をつれた旅人の男性。まさか冒険者の格好で、女連れなど分かりようもありません。しかも魔界など有りもしない世迷言を聞かされ、兵としてのプライドが……」
隊のリーダーらしき人が言い訳を始めると、ラモード将軍の大きな手が男性の頬に飛んだ。
バン――。
吹っ飛ばされた男性は、勢い余って石畳の道に転がった。
遠巻きで見ている国王軍にもピリリとした緊張が走ったのがわかった。
「お前たち全員が魔界へ送られるところだったのだぞ」
低い、将軍の声。
その真実味を帯びた言葉に、ラモード将軍の隊のほか、国王軍の兵士たちも顔色を変え、レンに目を向けていた。
だが、将軍から殴られたリーダーの男性だけは、地べたで握りこぶしをつくり、ぐっと怒りを堪えているようだった。
ラモード将軍は、彼の傍で片膝をついて、諭すように言う。
「リチャード、そのプライドのせいで、皆が魔界送りにされるとこだったのだ。しかも国王陛下のいらっしゃる王都で騒ぎを起こしたのだ。頭を冷やせ。お前を自宅謹慎にする」
そう言われた男性は、口から切れた血をぬぐいながら、ふらふらとこの場から立ち去った。
「すまないレン殿。見苦しいところを見せた」
「いや。ところで将軍、オレを探していたのですか」
「ぜひ、レン殿の力をお貸しいただきたい。ごいっしょに王宮へ……、ところで、そこの女!」
「ひっ!?」
この騒動に紛れてどこかへ行こうとしていたのか、将軍に呼び止められたアリーシャの背中がピクリと飛び上がった。
「だれが、お前の店の常連だと?」
「な、なにをおっしゃっているのでしょう、ラモード将軍。オーホホホホ」
ゆっくり振り返ったアリーシャは、ひきつった笑顔を将軍へ向けていた。
そのとき、どこから現れたのか、全身黒づくめの人が、将軍の耳元でなにかを告げて、さっと姿を消した。
「そこの赤毛、アリーシャと言ったな! お前の店にいま、国王軍の衛兵がはいっている」
「はっ!? なにをおっしゃっていますの!?」
「お前の店で販売していたものに、毒が混入されていた」
「ど、どく!? どうして私の店の商品に毒? あり得ない、あり得ないですわ。……あっ」
何かに気づいたようにアリーシャがサラを見る。
そして、指をさした。
「この女よ! この女が毒を入れた犯人よ! サラ、正直に言いなさい。あなたがうちの店の商品に毒を入れたのね。そうに決まっている。店をクビになった腹いせに、うちの商品に毒を入れたのよ!」
突然のことにサラは頭が真っ白になった。
毒……? わたしがアリーシャさんの店の商品に……?
国王軍の兵士たちがサラに向かって動きを見せようとすると、レンが庇うように前へ立つ。
そしてラモード将軍も、国王軍に向けて、
「この騒動は我が兵のしでかしたこと。その責任はとる所存だ。そして毒入り事件は、また別のことだが、しばしの間、自分に預けてほしい」
と告げた。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる