のんびり、まったり、モノづくり ~お嬢様は錬金術師~

チャららA12・山もり

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三章 王都

40、責任逃れ

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 この騒ぎを聞きつけて、王国軍の赤い軍服姿の兵士たちがメインストリートに集まりつつあった。

 ラモード将軍は国王軍の兵士たちに手をあげ、任せてほしいと合図のようなものを出し、レンに向き直った。

「レン殿、このような非礼、深くお詫び申し上げる。ですから、どうか、その手にあるものをしまってもらえぬだろうか」

「うん? そうですね。ハハハハ、忘れていました」

 レンは笑いながら右手にある、黒い穴のようなものを消しさった。

「かたじけない」

 将軍が頭をさげると、レンが声をかける。

「将軍、頭をあげてください。こちらも本気ではなく、ただの脅しですから」

 それを聞いたパウロが大きな声で否定する。

「いやいや、レンさん。隊の人たちがサラさんに攻撃してきたから、マジで魔界へ送ろうとしていたくせに」

 サラも、地上に降りてから何かあればすぐに魔界へ送り込む……、レンが右手をそのままにしていたのは、脅しではなく本気だったような気がしていた。

 そんな中、攻撃を指示した将軍の隊のリーダーが、一歩前に出た。

「恐れながら、ラモード様! そこにいるアリーシャという女が、ラモード将軍の行きつけの店主だというので、我らは信じたわけで……。それに、我らが探していたのは従者じゅうしゃをつれた旅人の男性。まさか冒険者の格好で、女連れなど分かりようもありません。しかも魔界など有りもしない世迷言よまいごとを聞かされ、兵としてのプライドが……」

 隊のリーダーらしき人が言い訳を始めると、ラモード将軍の大きな手が男性の頬に飛んだ。

 バン――。

 吹っ飛ばされた男性は、勢い余って石畳の道に転がった。

 遠巻きで見ている国王軍にもピリリとした緊張が走ったのがわかった。

「お前たち全員が魔界へ送られるところだったのだぞ」

 低い、将軍の声。

 その真実味を帯びた言葉に、ラモード将軍の隊のほか、国王軍の兵士たちも顔色を変え、レンに目を向けていた。

 だが、将軍から殴られたリーダーの男性だけは、地べたで握りこぶしをつくり、ぐっと怒りをこらえているようだった。

 ラモード将軍は、彼のそばで片膝をついて、さとすように言う。

「リチャード、そのプライドのせいで、皆が魔界送りにされるとこだったのだ。しかも国王陛下のいらっしゃる王都で騒ぎを起こしたのだ。頭を冷やせ。お前を自宅謹慎にする」 

 そう言われた男性は、口から切れた血をぬぐいながら、ふらふらとこの場から立ち去った。

「すまないレン殿。見苦しいところを見せた」

「いや。ところで将軍、オレを探していたのですか」
「ぜひ、レン殿の力をお貸しいただきたい。ごいっしょに王宮へ……、ところで、そこの女!」

「ひっ!?」

 この騒動に紛れてどこかへ行こうとしていたのか、将軍に呼び止められたアリーシャの背中がピクリと飛び上がった。

「だれが、お前の店の常連だと?」

「な、なにをおっしゃっているのでしょう、ラモード将軍。オーホホホホ」

 ゆっくり振り返ったアリーシャは、ひきつった笑顔を将軍へ向けていた。

 そのとき、どこから現れたのか、全身黒づくめの人が、将軍の耳元でなにかを告げて、さっと姿を消した。

「そこの赤毛、アリーシャと言ったな! お前の店にいま、国王軍の衛兵がはいっている」

「はっ!? なにをおっしゃっていますの!?」

「お前の店で販売していたものに、毒が混入されていた」

「ど、どく!? どうして私の店の商品に毒? あり得ない、あり得ないですわ。……あっ」

 何かに気づいたようにアリーシャがサラを見る。

 そして、指をさした。

「この女よ! この女が毒を入れた犯人よ! サラ、正直に言いなさい。あなたがうちの店の商品に毒を入れたのね。そうに決まっている。店をクビになった腹いせに、うちの商品に毒を入れたのよ!」

 突然のことにサラは頭が真っ白になった。

 毒……? わたしがアリーシャさんの店の商品に……?

 国王軍の兵士たちがサラに向かって動きを見せようとすると、レンがかばうように前へ立つ。

 そしてラモード将軍も、国王軍に向けて、
「この騒動は我が兵のしでかしたこと。その責任はとる所存だ。そして毒入り事件は、また別のことだが、しばしの間、自分に預けてほしい」
 と告げた。
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