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三章 王都
39、ラモード将軍
しおりを挟む「これも令嬢を守るため!」
レンが声を張り上げ、そしてサラに囁いた。
「今から飛ぶ。だが、安心してくれ、サラ」
飛ぶという意味がよくわからなかったが、レンの言うことなら信じられると頷いた。
「はい」
するとレンがサラをふわりと横向きで抱きかかえ、パウロに言う。
「パウロ、飛ぶぞ!」
「うん!」
レンに優しく包み込むように抱きかかえられ、鼓動が速くなる。
サラは顔が火照るのを感じていた。
こんなに胸がドキドキして、レンさんに聞こえちゃうかも……。
顔を見上げると恥ずかしくなるので逆に顔を向けた。建物を超え、あっという間に、眼下に白い王宮が見えるほどの高さまで来ていた。
飛んでいる……!?
ええ、わたし、本当に飛んでいるの???
興奮冷めやらぬという感じだったが、後からやってきたパウロに、
「サラさん、平気?」
と上空で声を掛けられた。
「う、うん」
「ここまでくれば大丈夫だな。ゆっくりと降ろすが恐かったら手をつないだままで」
「はい」
レンはゆっくりと抱きかかえていたサラを上空で立たせる。
サラはレンと手をつないだまま、青い空で立っている不思議な感覚に足元を見た。
え? どうなっているの?
足元を見ると、氷のようなものが広がっていて、その上に立っていた。地上と同じような安定感だった。
「これはね、レンさんの複合魔法だよ。氷の下で風を起こすから、僕らは氷の絨毯と呼ぶんだけど」
パウロが説明しているとき、ガツンっと足元から衝撃を受けた。
「きゃっ」
よろけたサラの手をレンが引き寄せた。
「大丈夫?」
レンに抱きしめられたまま聞かれた。
「は、はい」
「もう、なんだよ。せっかく僕が話しているときに」
パウロがぷりぷり怒りながら、足元の透明な場所から下をのぞき見ていた。
抱きしめていたことを気づいたようにパッと両手を広げ、レンが後ろに下がる。
「あ、すまない」
「い、いえ。ありがとうございます」
サラは気恥ずかしさを隠すようにパウロと同じように下を覗くと、地上では、兵士数人が演唱しながら、炎の玉を上空へ飛ばしていた。
ほとんどの炎の玉は、氷の下にある風の渦であちこちに飛ばされ上空へ消えていくが、そのうちの一つが、たまたま、この氷に当たったみたいだった。
「ほんと、しつこいなぁ。ねぇ、レンさん」
「少しお仕置きしないといけないな」
パウロとレンが会話をしている間にも、どんどんと炎の玉が飛び出し、こちらへ向かってきている。
「あまり王都を騒がしたくないが、しょうがない」
レンが、右手を振りかざし、仰ぐように下へ動かした。
すると、突風のような勢いに流された炎の玉が、Uターンし急降下する。
ドン、ドドドドン!
地上にいる兵士たちに炎の玉が落ちていき、王都の落ち着いた街並みのメインストリートは兵士たちが逃げ惑う、ちょっとした騒ぎになっていた。
「それほど戦いたいなら、魔界での訓練もいいだろう。最後の仕上げといくか」
レンの右手に、また宙に浮いた黒い穴が出現していた。
「しょうがないよね。レンさんの忠告も聞かず、こんなところまで攻撃してくるんだもん」
黒い穴はレンの右手の上で、どんどんと大きくなった瞬間――。
「申し訳ない、レン殿!」
突然、大きな声が上空まで届いた。
地上の王宮からメインストリートにいる兵士たちに向かって、まっすぐ馬を走らせてくる男性がいた。
メインストリートを駆ける馬の背にまたがる男性は、赤い外套を靡かせ、その迫力と同じぐらい大きな声で、
「お前たち、何をしている!!!」
と、演唱している兵士に向かって、馬ごと突っ込んだ。
「ヒヒヒ――ン!」
後ろ脚で立ち上がった馬、その馬上にいる男性に恐れおののいたように、兵士たちは石畳に腰を打ち付けていた。
そして、馬の背にまたがっている男性は、
「レン殿、その力をしまってくだされ!」
と、こちらに向かって腕でバッテンのしぐさをした。
赤い外套の下から見える、黒い軍服に光る勲章。そして四角い顔に特徴的な口髭。彼こそがラモード将軍だった。
そこまで、はっきりラモード将軍を確認できるのも、徐々にサラたちが降下しているからだった。
衝撃もなく、サラが地上へ降り立つと、足元にあった氷は跡形もなく溶けていた。その前では、見上げるほど大きな体躯のラモード将軍が、烈火のごとく、隊の兵士たちを怒鳴りつけていた。
「お前たち、ここは王都だぞ!」
雷鳴が落ちたかのような怒号に、
「は!」
兵士たちが一糸乱れぬ様子で敬礼をしている。
ラモード将軍は敬礼する兵士たちに向かって、
「お前らが攻撃した相手が誰だかわかっているのか! 貴様ら、手元の似顔絵を確認しろ! いくら旅人の格好でなくとも、灰色の瞳と書いておるだろ! どこに目をつけているのだ!!!」
折りたたんだ紙を広げ、そこに書かれている人物画とレンを見比べ、兵士たちは驚いた表情をしていた。
どうやらラモード将軍の隊が探していたのは、レンのようだった。
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