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閑話
35、パウロの過去 ~レンとの出会い~
しおりを挟む魔界では、ゴォゴォーと噴火している火山の地帯がある。
星が煌めく空の下に、その噴火している火山のゴツゴツした黒い岩場を、ユニコーンの親子が走っていた。
輝く白いツノを持ち、美しい母親のユニコーンは黄金の鬣を靡かせ、白い首を傾けながら子供の足のスピードに合わせて、身体を寄せるように走っていた。母親に置いて行かれない様に寄り添うように走る、仔馬ほどの小さなユニコーンにもツノがあった。
走りながら、子供のユニコーンが母親に尋ねた。
「ねぇ、お母さん。どうしてお父さんを置いていくの」
「お父さんはね、わたしたちを逃がすために囮になってくれているのよ」
「おとり?」
「そうよ。ゴブリンたちの集団のなかではお父さんとお母さんは戦いながら、あなたを守れないの。だからお父さんが注意を引いてくれたの」
「守れないから、注意を引くの?」
「ええ、そうよ。だからあなたも頑張って走らないといけない。立ち止まったらダメなの」
「うん、わかった。僕がんばるよ。だってお父さんと約束したの。僕が大きくなったら海が見える場所に連れて行ってくれるって。だから頑張って、たくさん食べて大きくなるの。お父さん、待っててくれるかな」
「そうね……、もしかしたら、お父さんが先にひとりで行ってしまったかもしれない。でもね、お父さんはあなたが大きくなるのを待っている。だからひとりになっても頑張って大きくなるのよ」
「おかあさん、どうして止まったの?」
子供のユニコーンも止まって、母親の傍に行く。
「お母さんもお父さんの所に行かないといけなくなったの。ゴブリンたちが来たから。でも、坊やは走りなさい。ずっとずっと遠くへ走るの。いっぱい食べて大きくなるのよ。これはお父さんとお母さんの願いだから」
「おかあさん、どうして泣いているの?」
「あなたとお別れをしないといけないから。だからよく聞いて。あなたがひとりぼっちになっても、お父さんとお母さんはあなたをずっと見守っている。あなたはわたしたちの大切な宝物。だから、振り向かないで走るの。走って走って、走り続けて。約束できる?」
「うん、約束する」
「わたしたちの大切な坊や。今日の夜空のように、お星になって、あなたを見守っているから」
「お父さんとお母さんは、お星になるの?」
「そうよ、お星さまになって、あなたの傍にいるから。さあ、行きなさい」
「うん、わかった」
※※※
どうして僕は走っているんだろう。
誰かと約束した気がする。
ずっとずっと走るって。いっぱい食べて大きくなるって。
誰と約束したんだろう――。
いくら考えてもわからないけれど、そのことを思い出すと心が温かくなる。
だから、僕はずっと走り続ける。
いっぱい食べて、走り続ける。
ここはどこだろう。
気が付いたら、おかしな場所にいた。
変な感じ。
薄暗くて、冷たくて、僕の足音が大きく響く。
なんでみんな戦っているんだろう。
あの二本足で立っているのはゴブリンかな。
どうしてアレがゴブリンって僕、わかったんだろう。
ま、いいや。とにかく、走って走って、走ろう。
「おい、そこの一角獣。どうして攻撃をしてこない。どうして走ってばかりいる」
ゴブリンが話しかけてきた。でも、僕は走らないといけないんだ。
「一角獣、とまれ!」
あれ、おかしいな。走れない。走らないといけないのに。
「ったく、なんだこの一角獣は。おい、聞こえているだろう。返事をしろ」
「ゴブリン、どうして僕の足をとめた」
「だれが、ゴブリンだ。俺は人間だ」
「人間?」
「ああ、俺の名はレン。貴様はこのダンジョンのボスだろう。どうしてずっと走っている。俺に攻撃をしてこない」
「誰かに言われたんだ、走れって」
「お前はそれを守っているのか」
「うん、約束したから」
「誰と?」
「わかんない。けれど約束した」
そう応えると、僕のことをじっと見てきて、こう言った。
「一角獣の年齢は……、105歳? おまえ、もしかして、異空間の狭間でずっと走り続けていたのか」
「異空間の狭間?」
「だがな、このダンジョンボスとして現れた以上、このままではお前はいつか冒険者に倒される。いつまでもそうして、逃げ回っているわけにはいかないだろう」
「でも僕は走らないといけない。頑張って食べて、大きくならないといけない。約束したから」
「そうか、わかった。好きにしろ。気をつけろよ」
あれ? 走れる。また走れるようになった。でも、なんだろう。あの背中をみていたら、誰かを思い出すような気がする。大きくて、あたたかな背中。
お父さん……?
「ねぇ、どこに行くの? 炎のお山? 海が見える場所?」
「いいや、俺は街へ戻る。ここは魔人のダンジョンじゃなかったからな」
「じゃ、僕も行くよ」
「は? 何を言っている。お前は一角獣だろ。どうして人間の街へ行きたがる」
「わかんない。けど、置いてけぼりはもう嫌だ」
「まあ、ここにいても、いつかは倒されるか……。だが、その姿じゃ無理だ。使役して俺と同じ人間の姿にしてやろう。それでもいいなら、ついてこい」
「ゴブリンは嫌だ」
「だから、俺は人間だと言ってるだろ!」
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