のんびり、まったり、モノづくり ~お嬢様は錬金術師~

チャららA12・山もり

文字の大きさ
上 下
34 / 78
二章 ダンジョン

34、パウロの変化(後編)

しおりを挟む

「毒消しの薬?」

 サラは首を傾げた。

 わたし、レンさんに毒消しの薬を渡したかな?

 きょとんとするサラに、レンが焦ったように言い直す。

「い、いや……、王都であの店のショーウィンドウを覗いて、商品に興味をもった。中に入ると、いい商品はすべてサラの名前で、そして、たまたま質屋で見かけた鏡にもその名があった。だから、その……、サラ・メアリー・ヴィリアーズの名前をずっと憶えていて、理由とか、そういうことじゃなくて……」

 しどろもどろになっているレンに、サラが言葉をかける。

「あの、レンさんはアリーシャさんの店でわたしが作った商品に興味を持っていてくれて、名前を憶えてくれていた。だから質屋で祖母の鏡を買い取ってくれたのですよね」

「そうそう。そのとおり」

 どこかホッとしたレンに、改めてサラが感謝の気持ちを伝えた。

「質流れになる前に、祖母の大事な手鏡を買い戻していただき、本当にありがとうございました。まだ、きちんとお礼も出来ていないのですが」

「そんなことはない。サラからは、それ以上のものをもらっている。それは質屋から鏡を引き取った値段より価値のあるものだから」

「それは……、パイナップクグミの効果のことでしょうか。やはり、パウロくんはツノのことを気にして……」
 
「ああ。アイツは使役された亜人だが、モンスター時代の記憶がない。そして、ツノがあるために、人間に対して引け目を感じていた。だから、俺以外の人間と向き合うと、変に構えてしまうところもある。モンスターと人間、どっちつかずだと、どこかで思っているのだろう。本当は人から受け入れられたいと願っているのに、試すようなことばかりして、逆に自分自身を傷つけてきた」

「……そうだったのですね」

「だが、そんなパウロを、サラはそのままの姿で受け入れてくれた。亜人であろうが、ツノがあろうが、パウロという個人を認め、接してくれた。まだあいつは気づいていないだろうが、サラのような人間がこの世の中に沢山いることを、これから分かっていくだろう。そのきっかけをサラがパウロに与えてくれた」

 ぴょんぴょんと木の上を飛び回るパウロを見て、レンは優しく微笑む。

「それはアイツの一生の財産となるだろう。しかし、サラが世界初の効果を生み出すほど、錬金術の腕があるとは俺でも見抜けなかったな」

 もし、わたしがレンさんと出会ったときより錬金術の腕が上がっているなら、それはレンさんとパウロくんのおかけだ。
 本では書かれてなかったことや、錬金術のコツをこのダンジョンで気づかせてもらった。そして、その集大成がこのパイナップルグミに現れ、新たな効果の誕生になっていると思う。

「お二人のおかげです。今まで気が付かなかった錬金術のことをたくさん学ばせていただきました」

「それはサラの実力だ。サラはもっと自信をもっていい。すばらしい錬金術師だ」

「レンさん……」

 二人が見つめ合っていると、タタッタッ――っと、パウロがやって来た。

「ツノをね、出したり入れたりできるけど、身体も前よりすごく軽いんだよ」

 パウロは自分のオデコに手を置いて満足げだ。

「すごいよ、このパイナプルグミ」

「よかった……、って、あれ? レンさん、どうしてこっそりポケットにパイナップルグミを入れているのですか?」

 サラの言葉に、レンは見られたという顔をした。

「うわ、ずるーい。サラさんのグミを独り占めするつもりでしょ、レンさん」

「お前だって、サラのはちみつキャラメルまだ、隠し持っているだろ」

「ふふふ」

 ここへ来るたび、わたしは思い出すだろう。

 大切な手鏡を取り戻してくれたレンさん、いつも明るいパウロくん。二人から多くの事を学ばせてもらった。そして、錬金術師と名乗ってもいいかなと、少し自信も持てるようになった。

「レンさん、パウロくん、ありがとうございます。そしてダンジョンに連れ来てくれて、ほんとうに感謝しています」

「こちらこそ、だよね、レンさん。こんな楽しいダンジョン攻略なかったよね」

「ほんとうだ。礼を言わせてもらおう。いろいろありがとう、サラ」

 こうしてサラの初めてのダンジョンでの冒険は終わった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

騎士の妻ではいられない

Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。 全23話。 2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。 イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

そのご令嬢、婚約破棄されました。

玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。 婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。 その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。 よくある婚約破棄の、一幕。 ※小説家になろう にも掲載しています。

処理中です...