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二章 ダンジョン
34、パウロの変化(後編)
しおりを挟む「毒消しの薬?」
サラは首を傾げた。
わたし、レンさんに毒消しの薬を渡したかな?
きょとんとするサラに、レンが焦ったように言い直す。
「い、いや……、王都であの店のショーウィンドウを覗いて、商品に興味をもった。中に入ると、いい商品はすべてサラの名前で、そして、たまたま質屋で見かけた鏡にもその名があった。だから、その……、サラ・メアリー・ヴィリアーズの名前をずっと憶えていて、理由とか、そういうことじゃなくて……」
しどろもどろになっているレンに、サラが言葉をかける。
「あの、レンさんはアリーシャさんの店でわたしが作った商品に興味を持っていてくれて、名前を憶えてくれていた。だから質屋で祖母の鏡を買い取ってくれたのですよね」
「そうそう。そのとおり」
どこかホッとしたレンに、改めてサラが感謝の気持ちを伝えた。
「質流れになる前に、祖母の大事な手鏡を買い戻していただき、本当にありがとうございました。まだ、きちんとお礼も出来ていないのですが」
「そんなことはない。サラからは、それ以上のものをもらっている。それは質屋から鏡を引き取った値段より価値のあるものだから」
「それは……、パイナップクグミの効果のことでしょうか。やはり、パウロくんはツノのことを気にして……」
「ああ。アイツは使役された亜人だが、モンスター時代の記憶がない。そして、ツノがあるために、人間に対して引け目を感じていた。だから、俺以外の人間と向き合うと、変に構えてしまうところもある。モンスターと人間、どっちつかずだと、どこかで思っているのだろう。本当は人から受け入れられたいと願っているのに、試すようなことばかりして、逆に自分自身を傷つけてきた」
「……そうだったのですね」
「だが、そんなパウロを、サラはそのままの姿で受け入れてくれた。亜人であろうが、ツノがあろうが、パウロという個人を認め、接してくれた。まだあいつは気づいていないだろうが、サラのような人間がこの世の中に沢山いることを、これから分かっていくだろう。そのきっかけをサラがパウロに与えてくれた」
ぴょんぴょんと木の上を飛び回るパウロを見て、レンは優しく微笑む。
「それはアイツの一生の財産となるだろう。しかし、サラが世界初の効果を生み出すほど、錬金術の腕があるとは俺でも見抜けなかったな」
もし、わたしがレンさんと出会ったときより錬金術の腕が上がっているなら、それはレンさんとパウロくんのおかけだ。
本では書かれてなかったことや、錬金術のコツをこのダンジョンで気づかせてもらった。そして、その集大成がこのパイナップルグミに現れ、新たな効果の誕生になっていると思う。
「お二人のおかげです。今まで気が付かなかった錬金術のことをたくさん学ばせていただきました」
「それはサラの実力だ。サラはもっと自信をもっていい。すばらしい錬金術師だ」
「レンさん……」
二人が見つめ合っていると、タタッタッ――っと、パウロがやって来た。
「ツノをね、出したり入れたりできるけど、身体も前よりすごく軽いんだよ」
パウロは自分のオデコに手を置いて満足げだ。
「すごいよ、このパイナプルグミ」
「よかった……、って、あれ? レンさん、どうしてこっそりポケットにパイナップルグミを入れているのですか?」
サラの言葉に、レンは見られたという顔をした。
「うわ、ずるーい。サラさんのグミを独り占めするつもりでしょ、レンさん」
「お前だって、サラのはちみつキャラメルまだ、隠し持っているだろ」
「ふふふ」
ここへ来るたび、わたしは思い出すだろう。
大切な手鏡を取り戻してくれたレンさん、いつも明るいパウロくん。二人から多くの事を学ばせてもらった。そして、錬金術師と名乗ってもいいかなと、少し自信も持てるようになった。
「レンさん、パウロくん、ありがとうございます。そしてダンジョンに連れ来てくれて、ほんとうに感謝しています」
「こちらこそ、だよね、レンさん。こんな楽しいダンジョン攻略なかったよね」
「ほんとうだ。礼を言わせてもらおう。いろいろありがとう、サラ」
こうしてサラの初めてのダンジョンでの冒険は終わった。
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