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二章 ダンジョン
28、錬金術のコツ
しおりを挟むダンジョンボスを倒すとモンスターたちは居なくなった。
サラも体育館から外へ出た。
夕陽の茜色に染まる運動場は美しく、あたりを見渡すと、トレントたちが普通の木に戻っていた。根元にはパイナップル、見上げればプルーンやナツメヤシに、他にも色とりどりの果物が豊かに成っている。
夕陽で輝く、色鮮やかな木々や、異世界の果樹園に来たような素晴らしい景色に、サラは見とれていた。
「きれい……」
ぼんやり見上げているサラの横で、パウロが運動場の端っこでハーブの群生を指さしていた。
「ねぇ、サラさん。これって調合の素材になる?」
「あ、うん。それはセージ、そっちはローズマリー。それらのハーブは調合の素材にもなるけれど、お肉料理に使えば匂い消しになるよ」
「じゃ、ちょうどいいよね。レンさん。このハーブを使ってイノブタを焼こうよ」
「ん?」
声をかけられたレンが振り返った。
高木に吊るしていたイノブタの解体が終わったようで、レンの隣の切り株には肉が、たんまりと積まれていた。
「お、いいな」
そう言いながら何もない空間に両手を入れた。
「今からね、レンさんが鉄板を出すよ。異空間収納でも鉄板ならすぐに見つけられるから。ダンジョンではこうしてモンスターを狩って、僕らは食事をとっているんだ」
パウロが言うように、異空間収納からデッカイ鉄板が出てきた。
「異空間収納は便利がいいですね」
サラが言うと、レンが笑う。
「ははは。まぁ、これぐらいしか確かに出せるものはないが。だが、ハーブで肉の臭みも消える……。なるほどな。俺たちはダンジョンでは腹が膨れればいいと思って、味は二の次だった。今回は丁寧に料理でもしてみようか」
言いながらレンは片手で大きな鉄板を背負いながら、膝を折り、もう片方の手で地面に手を置いた。
すると、レンの手の下で、土がぬかるみ始めた。
しかもその土は、まるで生き物のように勝手に動き始め、徐々に形作られ、釜戸が出来上がった。
「すごい……」
サラが驚いていると、パウロがあっけらかんという。
「レンさんの土魔法だよ。でもさ、サラさんもすごいよね。疲労回復効果のある、ハチミツキャラメルを食べたら、ぜんぜん疲れなかったもん。やっぱりさ、冒険者用の道具って効果があるんだなって、わかったよ」
「だが、それだけじゃないだろう」
レンが枯葉や木材を釜戸に入れ、背を向けながら言う。
「どういう意味? 今回のダンジョン攻略で、レンさんも疲れなかったでしょ。それはサラさんの疲労回復効果のおかげじゃん」
「それもそうだが、たとえば、サラの錬金術でつくった乾燥パンケーキはミルクをかけると、ふんわり膨らんだのを見ただろ」
「うん、面白かった」
「そういうことだ。荷物を減らして空腹を紛らわすためには乾燥パンでいい。だが、サラのパンケーキには演出や味は、どこか、ほっと一息できるものがあった。それは疲労回復効果だけじゃない効果だ」
「うーん、なんだか、わかんないや。とにかく僕はお肉を並べるよ」
パウロが応えているのを聞いて、サラは以前、レンに言われたことを思い出していた。
『きみがつくった黄色いグミ、キャンディ、万能薬はとてもいい商品だった。見ているだけで、わくわく、楽しい気持ちがつまっていた。俺のようなスキルがなくても、気持ちのこもったモノは、必ず相手に伝わる』
あのときは、その言葉を素直に受け止めることができなかった。
落ち込んでいる自分を励ますための言葉だと思っていた。
けれど、今ではわかる。わたしの錬金術でつくった物を、楽しみ、喜んでくれる人がいる。
わたしもアリーシャさんの店で初めてショーウィンドウに飾られた冒険者アイテムを見たときに、ワクワクした。
仕事が見つからず、落ち込んでいた自分に、元気をもらったような気がした。
わたしは、そういうものが作りたかった。そして買った人も同じように、ワクワクが楽しめるようなものを。
ただ効果をつけるだけじゃない。
「ありがとうございます。モノづくりのことが、より深くわかったような気がします」
鉄板の上で、お肉を並べるパウロはよく分からないって顔をしていたが、鉄板下で木材に手から炎を出しているレンは笑顔で頷いた。
「それなら、よかった」
調合に慣れてきて、効果を引き継ぐことや上手く完成させることばかり考えていた。でも、それだけじゃダメな場合もある。
ナツメヤシとパイナップル皮、プレーンを使って二回目に調味料を調合したとき、もっと新たなモノを、新たな効果を出したいと、欲が先に出てしまっていた。だから、満足のいくようなものが作れなかった。
次にレンさんのことを強く想ったとき、本当にレンさんが喜んでくれるような調味料、酢ができていた。
心をこめる、それが一番大切なことなのかもしれない。
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