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二章 ダンジョン
14、体育館
しおりを挟む岩の洞窟を歩き続けると、不思議な場所にたどり着いていた。
「うぁ、ひろい……」
おもわずサラは声を出していた。
不思議な感じの建物……。
舞踏会がおこなわれるような、大広間のような場所なのに、大理石の柱は一本もない。
高い天井にもシャンデリアはなく、強い光を放つ丸い金属製の物がついている。
二階の観客席のような場所には、ズラリと摺りガラスが並んで、ここからみえる外は真っ暗で、夜のようだった。
「ここは、体育館だな」
レンが言った。
たいいくかん?
「珍しいよね、小学校のダンジョンなら、いままでは運動場から始まることが多かったのに」
パウロの言葉に、レンが頷いた。
「そうだな」
「でもさ、魔人のいないダンジョンだから、安心して、サラさん」
「あ、うん。ありがとう」
パウロから魔人のいないダンジョンだと教えてもらい、ひとまずサラは安心した。だが、すぐに頭の中はハテナだらけになっていた。
たいいくかん? しょうがっこう? うんどうじょう?
初めて聞く言葉ばかり。
冒険者さん特有の、専門用語なのかな……?
「サラ、どうした? こわいのか、街に戻るか?」
「い、いえ。大丈夫です」
「なにか聞きたいことがあれば聞いていいぞ」
あ、そうだった。
レンさんと約束したんだ。聞きたいことはすぐに質問することって。
「あの、たいいくかんって、このダンジョンのことですか?」
何かに気づいたように、パウロがパチンっと手を叩いた。
「そうか! そうだよね、サラさんはダンジョンに入るのが初めてだった。僕がダンジョンのことを教えてあげるよ。では、ここで問題です! サラさんが思うダンジョンってどのようなものですか?」
「おい、パウロ……、サラに教えてあげると言いながら問題を出すってどういうことだ?」
「それはですね、サラさんがどこまでダンジョンのことを知っているか分からないと、こちらも困るでしょ。その人にあった教え方というものがあるじゃないですか」
「お前、偉そうだな……。いったい、いつからそれほど偉そうなことが言えるようになったんだ」
「いやだなあ、レンさん。僕はそれほど偉くないよ。褒めないでよ」
「褒めてない。嫌味だ、嫌味」
二人が会話をしているなか、サラはダンジョンについて知っていることを答えなければ、と焦っていた。
モンスターから採取できる素材があり、ダンジョンのことも一応知っておいた方がいいと、屋敷の書庫にある錬金術に関する本はすべて目を通していた。
それらの本を総合すると……、ええっと、イメージは、こんな感じかな。
「ダンジョンとは、わたしたちの住む世界と別の世界がなんらかの作用によって現れる、空間の歪みのような場所なのかなと……」
合っているかな?
わからないけど、とりあえず自分の思っていることをそのまま言葉にした。
「僕もサラさんと同じ! 異空間でモンスターたちが存在する狭間や魔界の一部が、こちらに現れた瞬間、ダンジョンとなって、そして、そのモンスターの中でも強力な力を持つものがダンジョンボスとなる。それでよかったんだよね、レンさん!」
「そうだろうな。ダンジョンは時空の狭間や歪みから派生するものだというのが、クラフト博士の見解でもあるから」
「ではつづけて、ダンジョンの説明をします。ダンジョンには大きく分けて、二種類のタイプがあります。ボスがモンスターの場合は、通常ダンジョン。ボスが魔人の場合は、特別ダンジョン。レンさんにはダンジョン攻略スキルがあるので、通常のダンジョンの場合はレンさんの有利なダンジョン形成となります。だから、このように、レンさんが元のいた世界を模したダンジョンが作られるってわけだよね。異世界から来たレンさん特有のスキルだよね」
「まあな」
それじゃ……、ここがレンさんの元のいた世界?
この建物だけでも、私たちの世界と文明や文化がまったく違うように思える。
思い返せば、異空間収納やわたしの名前を言い当てたことも、レンさんが異世界から来たのなら……。
って、――えっ!?
「レンさんって、違う世界から来たの?」
あまりにも驚いたサラは思っていることを、そのまま口に出していた。
「サラに言ってなかったか?」
サラはうんうんと頭を上下に振った。初めて知った事実だった。
「はい。ぜんぜん聞いていません。まったく知らされていません」
「すまん。忘れていた」
「あっ……、いえ。レンさんが謝ることじゃないですから」
ほんと、そう……。
レンさんがわたしに謝る必要なんてない。
でも、なんだか、驚いたのと同時にレンさんを遠くに感じて、つい責めるような口調になってしまった。
パルロくんもシュンとしている。
わたしが楽しい空気を壊してしまった……。
だから、努めて明るい表情で、
「うわっ、すご――い。レンさんの元のいた世界って、わたしたちが住む世界と全然違うから、感動です。初めて見る世界に感激です!」
大げさな演技をしたけれど、ちょっと大げさすぎた? と、こっそり横目で見た。
パウロは嬉しそうな表情で言う。
「サラさんも驚いた? そうでしょ。僕もね、最初は驚いたんだ。でも、よかった。サラさんが異世界から来たレンさんのことを怖がらなくて」
いつものパウロの様子に、サラはホッとした。
けれど、怖い――?
わたしがレンさんを?
あっ……!
気づいたとき、胸の奥がきゅとした。
異世界から来たレンさんをわたしが怖がるってパウロくんは心配していたんだ……。
あの時もそうだった。パウロくんが帽子を取ってツノを見せてきたときも、怖い? と聞いてきた。
もしかすると二人は、そんな経験を沢山してきたのかもしれない。
わたしも、この瞳のせいで森の屋敷に追いやられ、ウィリアーズ家の一族から遠ざけられてきた……。
だから、わかる。
「レンさんもパウロくんも大好き!」
「「え?」」
二人が驚いた表情でサラを見て、その様子にサラも驚いた。
え、ええっ?
ちがう、ちがう。わたしが言いたかったのは、どこの生まれであろうと、どこで育っても、今の二人が好きってことを伝えたかった……。
どんどんと自分の顔が赤くなってきているのが分かる。
どうしよう……。
「うん! 僕もサラさんのことが好き。レンさんもだよね!」
「ああ。もちろんだ」
二人は視線をあわせて笑顔で頷いていた。
よかった。わたしの言いたいことが二人に伝わっていたみたいで、ホッと安心した。
思ったことをすぐに言えるようになったのはいいけれど、こういう言葉は、よく考えてから口に出したほうがいいみたい……。
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