のんびり、まったり、モノづくり ~お嬢様は錬金術師~

チャららA12・山もり

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二章 ダンジョン

13、ダンジョンの入り口

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 レンとパウロにつづき、サラも森の川沿いを上流に向かう。
 そのうち木々が少なり、見上げるような高い崖の前まで来た。

 切り立った荒々しい岩肌まえでレンが立ち止まる。

「ここだ」
 
「ふーん、ここがダンジョンの入り口なんだ。よくこんな所を見つけたね」

 角度を変えて、岩の表面をまじまじと見るパウロ。
 サラも同じように見てみれば、崖には、ぼんやりとした歪んだような、空間があるようだ。
 突然、パウロがその場所に頭だけをつっこんだ。

「え?」
 サラの声に、すぐに反応したパウロが振り返る。
「レンさんの力で、洞窟のように中へ入れるようになっているから大丈夫だよ」
「そうなんだ」

 すごい……、ここが本当にダンジョンの入り口なんだ。

「しかし、ほんとうに、サラ、俺たちといっしょにダンジョンの中に入るつもりなのかな?」
「?」
 きょとんとなっているサラの隣で、パウロが口を尖らせる。
「レンさん、今さらそんなことをサラさんに聞くの?」
「当たり前だ。ダンジョンの入り口を目の前にして、気が変わることもあるだろう」

「あの、わたしは大丈夫です。いろいろな経験をしてみたいですし、素材集めもしたいので。でも……、お邪魔になるなら、ここで」

 本当はここで二人とお別れなんてしたくない。けれど、やっぱりわたしなんかが、ダンジョンに着いて行くのは、迷惑だよね……。

「ぜんぜん大丈夫だよね、レンさん」
「ああ。邪魔には、ならない。だが、サラに何かあってからじゃ遅い。予想外のことが起きないという保証はないからな」

「はぁ、レンさんって、ほんと心配性。じゃ、こうしようよ! 先頭がぼく、真ん中がサラさん、最後にレンさん。サンドイッチ作戦! これで大事なサラさんという具材をどこからモンスターが襲ってきても、パンの僕らが守っている! ね、これでいいでしょ」

「ま、そうだな。サラにもバリア魔法をかけておいたから、しばらくの間は大丈夫だろう」
「さすがレンさん、手が早い!」
「おい、パウロ! 言葉の使い方が間違っている。誰の手が早いんだ」

 レンがパウロのおでこをピンと指ではじいた。

「いててて、そういうところ」
「とにかく冗談はここまでにして、サラに話がある。もしここが魔人のダンジョンなら、すぐにサラを帰還魔法でバリアンヌの街に戻す」
「ちょっとまってよ、ここは通常ダンジョンだって聞いているでしょ」
「そうだが、万が一ということもあるだろ」
「うん……」

 二人の真剣な表情から、いつもの冗談ではないとサラも察した。

 おとぎ話に出てくる、魔人――。
 はるか昔、人々を苦しめる魔人が人間界に現れた。
 だが勇気ある者たちによって倒され、人間界に平和が訪れる。
 子供が読む、絵本の中にあるお話。だから魔人が存在するなんて、想像もしたことがなかった。

 ほかの誰かが魔人など、その言葉を使っていたならば、聞き流したかもしれない。
 信じたくない気持ちから……。

「どうだ、サラ。魔人がいるダンジョンかもしれないと聞いて、入るのをやめる気になったかな?」

 じっと目を見て、尋ねてきたレンに、サラも真っすぐに視線を返す。

「いいえ、行きます。それに魔人のダンジョンだったら、レンさんの魔法でわたしはすぐにバリアンヌに戻れるのですから、なにも怖くありません」

 ほんとうは怖い。すごく怖い。
 けれど、わたしは行きたい。レンさんやパウロくんとダンジョンに行ってみたい。

「これでサラさんもダンジョンに行くことが決まったよね! レンさんはサラさんの後ろでしっかり見張っていてよ。サラさんがモンスターに襲われないように」

「当たり前だ。サラには指一本触れさせない」

 レンの言葉はまるで魔法のように、サラの不安や怖さも一瞬でどこかへ行くほどだった。

 そうして三人は洞窟の中を進み始めた。

 先頭にパウロ、次にサラ、最後にレンの隊列で歩いている。
 途中、何度もサラは後ろのレンから声を掛けられた。

「大丈夫か、サラ? ゆっくりでいいから」
「はい」
「怖くなったらすぐに言ってくれ」
「はい」
「こんな足場が悪い場所を普段歩くことないだろう」
「ええ。でも、森での採取で慣れていますから」
「そうか。ここは滑りやすいな、気を付けて」
「はい、ありがとうございます」
「岩の天井が低くなっている。もっと天井を高くすればよかったな。頭を打たない様に用心を」
「わかりました」

「サラがケガをする前になんとかしないといけないな。どうだ、戻るか、サラ?」
「ええっ?」

 先頭を歩くパウロが振り返った。
「もうレンさん! 戻るってどういうことだよ。その話はすでに終わったでしょ」
「だが……、サラに何かあったら」
「本当に大丈夫です。心配してくださって、ありがとうございます」
「わかった。何かあったら言ってくれればいいから」

「はい」

 ふふふ、レンさんって、ほんと心配性。

 このサンドイッチ隊列ならば安心だとパウロくんがせっかくレンさんを説得してくれたのだから、すぐには戻りたくない。

 けれど、もし魔人のダンジョンなら、わたしは街へ戻されてしまう。

 そのあと、レンさんとパウロくんは魔人と戦うのかな……。

 そんなことを考え、岩の洞窟を歩いていると、いつの間にか見たこともない大きな建物の中にいた。
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