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一章 出会い
12、錬金術師の道具
しおりを挟むパウロがサラに聞いてきた。
「ねぇ、どうしてこんなにすごいキャラメルを作れるの? サラさんは料理が得意なの?」
「それはね、調合して作ったの」
「調合? じゃ、サラさんって錬金術師?」
「ええっと、錬金術師というか……」
言いながらサラは急に恥ずかしくなってきた。
わたしなんかが、錬金術師と名乗るなんて、おこがましいよね。
それに錬金術師の人は、立派な錬金道具を揃えて調合するし、鍋で作る人なんて聞いたことがないもの。
「わたしは錬金術師の人が使うような立派な調合道具を持っていなくて、家にある普通の鍋で作っているから」
「でも、すごいよ。こんなおいしいものを鍋でつくれるなんて。ね、レンさん!」
「ああ、俺もてっきり錬金術の釜で作っているのかと思っていた。このように疲労を回復するものを普通の鍋で作るとは驚きだ」
レンが確認するように、パウロの手にある、ハチミツキャラメルの箱へ手を伸ばした。だが、パウロがさっと後ろへ隠す。
「もう! 僕がもらったんだよ」
「それぜんぶ、お前ひとりで食べるつもりか?」
「そうだよ。サラさんからもらったんだもん」
「一粒ぐらいいいだろ」
「いやだって。いやいやいや」
「おい、いい加減にしろ。一度にたべると虫歯になるぞ」
二人はキャラメル争奪戦をおこなっていたが、サラは錬金術師の釜のことを考えていた。
錬金術師の釜は謎に包まれている。
特別な力を引き出すと言われ、錬金術の釜は親から子へ代々引き継がれることや、師匠から弟子に渡される場合がほとんどだ。そのため錬金術師の釜が、いったいどこで誰がつくっているのかは公にされていない。だからこそ、錬金術師はさまざまな錬金道具を取りそろえて手順を守り、決められた素材できっちり配合し、調合するのが常だった。
争奪戦に勝ったみたいでパウロがキャラメルの箱をポケットにしまって、パタパタとサラの隣に来た。
「ねぇ、ねぇ、じゃあさ、サラさんは誰かに教わったわけでもないのに調合できるの?」
「うん。家には錬金術師の人が書いた本や標準的なレシピがあったから、それで勉強してきたの」
「それだけで作れるのってすごいよね、レンさん」
「ああ」
レンさんはパウロくんのポケットを恨めしそうに横目で見ながら、
「あのようにおいしいキャラメル、いや、疲労を回復するアイテムなどは錬金術師の窯や道具によってその力を最大限に高め、材料の効能効果を引き出し、新たに作り出されたものに引き継がれるものだと思っていたが」
「はい。最初は自分でも驚きました」
「きっかけって、あったの?」
「うん、きっかけはね、小さなころに動物さんのケガを治したいと思ったことなの。わたしの住んでいた屋敷の周りは森に囲まれていたから、お友達は動物さんだけだったのね。それである日、ケガをした鹿さんがわたしの前にあらわれて、どうしても治したくて、家にある錬金術の本を見よう見まねで調合を始めたの」
「すごいね、すぐにできるなんて」
「本当に同じものが作れるとは思えなかったけれど、自分の手に傷をつけて治ったから、安心して鹿さんのキズにも塗ったの。それから徐々に回復薬や毒消し薬も作れるようになって、でも、鍋で作るのも限界なのかも……。あのグミやキャンディも商品としてダメだったし……」
パウロに説明していたつもりだったが、サラはいつしか独り言のようなつぶやきになっていた。
「いや、ダメじゃない。昨日も言ったが、サラが作るものは、あの店に置いてあるもの中でも品質や効能効果、見た目、すべてが上回っていた。あの女店主の見る目がなかっただけだ」
レンの言葉に、パウロもうなずく。
「そうそう、レンさんが店から追い出されたのはお金がなかっただけ」
「ああ、そうだが、今その話が関係あるか?」
レンとパウロが元気づけようと冗談を言い合い、励ましてくれる気遣いがサラにも伝わってきた。
そうよ、サラ・メアリー。
クビになったことを、いつまでも気に病んでいても仕方がないじゃない。
おばあさまも言っていた。
なにを弱気になってるの? ほら、勇気をもって、前へ向かって。
「ありがとうございます。吹っ切れました。前をむいて頑張ります!」
「うん、それじゃ、ダンジョンへ行こうよ! 疲れたら、サラさんからまた何かもらえるかもしれないし」
くるりとターンするパウロ。
「おいパウロ。ポケットに、サラからもらったハチミツキャラメルがまだあるだろ」
「これは僕のだもん。レンさんってさ、食べ物に執着しているところあるよね」
「いや、お前だよ!」
「ふふふ」
サラは笑みを浮かべて、じゃれ合うレンとパウロを見ていた。
前向きになれたことに二人へ感謝を込めて。
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