のんびり、まったり、モノづくり ~お嬢様は錬金術師~

チャららA12・山もり

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一章 出会い

11、瞳の色

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 結局、サラは一睡も出来なかった。
 森の木の下に着くと、レンとパウロがすでに待っていた。

「ごめんなさい。遅くなって」
「いや、今来たところだ。それにしても、サラ。それは……」

 ええと、服装かな。
 ロングスカートでは動きにくいからいつも採取に森へ来るようなカジュアルな服装にしたけれど……。

「すっごいな、サラさん、重たくない?」
 目を丸くしたパウロが、サラのカバンを見ている。

「あっ、鞄? うん、わたしは大丈夫。でも多すぎたかな」

 肩から掛けたサラのバックはパンパンに膨らんでいる。
 けれど、これ以上減らせないし。
 そういえば、二人とも手ぶらだ。

「お二人の荷物は?」
「レンさんの異空収納の中だよ」

 あの中にいれたら二度と出てこないんじゃ……。
 そんな心配そうなサラの表情が顔に出ていたみたいで、パウロが笑う。

「サラさんも知っているんだ。レンさんの異空間収納がほんとの異空間ってこと。一度入れたら、いつ、どう取り出せるかわからないもんね」

「だから、こうして紐をつけていることにした」
 レンがベルトループにつないだ縄ひもをするするとひっぱった。

 すると、空間の裂け目からボンっとリュック一つが出てきた。

「なんだか、レンさんったら、昨日の晩に突然、異空間収納がどうにかできないかって言い出してさ。今まで僕がどれだけ異空間収納のことを言っても、そんなものどうにでもなる、って言っていたくせに」

 パウロは頭の後ろで腕を組み、納得のいかない表情だ。

「それはだな、パウロ、効率を考えてだ」
「効率? そんな言葉、レンさんから初めて聞いたよ」

 もしかして……、昨日わたしがここでレンさんに余計なことを言ったから?

「あ、あの、ごめんなさい。レンさんが枯葉を異空間収納にしまい込んでいるとき、物が増えていく理由がわかるなんてわたしが言ったから……」

「いや、そんなことは全然気にしてない。なぜなら、あの枯葉は必要なものだから。ハハハハハ」

「げっ、レンさん。とうとうそんなものまで拾うようになっちゃったんだ。そりゃサラさんも何か言いたくなるよ」

「ま、そのうち異空間収納の整理もはじめるさ。ともかく、これが俺たちの荷物だ。こうして紐づけしておくと必要な時にいつでも取り出せるようになる。どうだ? サラの荷物もこの紐でつけておくか?」

「でもさ、レンさん。この縄ひもがレンさんのベルトから外れたら、そのときはこの荷物たちも、おさらばってことになるんでしょ」

「うむ、そういうことだ」

 あ、そうなんだ……。冒険者さんからすると、荷物の一つや二つなくなっても平気って感じなのかもしれない。

「サラさんも、レンさんの異空間収納に預ける?」

 え? ええ?

「その荷物を預かろうか」
 レンがサラに向けて手を出した。

「い、いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

 もし預けたカバンがなくなったら、クリーンの粉もなくなって、三日間、体や髪が洗えない状況になってしまう。
 そんなの二人にとっても失礼だし、何より自分が気になってしょうがない。

 ん? そういえば……、わたし昨日、体を洗ってない……、よね?
 髪の毛も……。
 そうだった。クリーンの粉を作って、使った気になっていた。
 臭くないかな、大丈夫かな……。

「どうしたサラ、突然、俺たちと距離を置いて」

 えっと、どうしよう……。

 自分の匂いのことが、気になって気になってしょうがない。
 今すぐ、自分の頭からクリーンの粉をかぶりたい。

 そうだ! 

「あ、あの、はちみつキャラメルの試食いかがですか」

 つい、店員口調ですすめてしまった。

「え、なになに? キャラメル?」
 目を爛々と輝かせてパウロが近寄ってきた。

「うん、店に置くつもりで、試食で作っていたのを持って来たの。私以外の人に食べてもらうのは初めてなんだけど」
「食べたい!」

 サラはパンパンに膨らんでいるカバンの中から箱入りのはちみつキャラメルを出した。
 箱をあけると、四角いキャラメルが、お日様のひかりで黄金色に輝く。
 二人がキャラメルを食べている間にサラはこっそりクリーンの粉で全身の汚れを落とすつもりだった。

「すっごくきれい。ねえ、サラさん、ほんとにこれ食べられるの?」
「うん。食べられるよ。はい、どうぞ」

 サラがはちみつキャラメルの箱を差し出すと、一つ摘まんだパウロがお日様にかざす。

「キラキラしている」
 お日様に向けて光を楽しんでいるようだった。

「レンさんもどうぞ」

「ありがとう。ほんとうにきれいだな……、サラの瞳のように」

 ドキンと胸が高鳴った。

 え……? わたしの瞳? 
 
 その言葉の意味を確認するように見上げるが、レンはパウロに視線を向けていた。

「ほら、パウロ。口に入れないと溶けるぞ」
「あっ、ほんとだ。溶けてきちゃった。こんなキレイな物を食べちゃうの、なんだかもったいないけど……、たべちゃおう!」

 今のうちに――。
 サラは二人がはちみつキャラメルに気が向いている間、鞄の中からクリーンの粉を取り出すとサッと自分自身に振りかけた。

 全身をキレイにしてすっきりしたサラだが、さっきのレンの言葉が気になっていた。

 もしかして、わたしのこの金色の瞳を褒めてくれたのかな……。

 だったら、嬉しい。

 この金色の瞳のせいでウィリアーズ家では厄介者で、ずっと目の色がコンプレックスだった。でも、レンさんのおかげで、少し好きになれそう……。

「うわっ、甘くてすっごくおいしーい。なにこれ。こんなの食べたことないよ、サラさん!」
「ああ、口のなかでハチミツの香りがひろがり、後味もすっきりしている」

「お口に合ったようで、よかったです」

「ねぇ、ねぇ、もっと食べたい」
「ハイどうぞ」
 サラはパウロの手の上に、キャラメルの箱を置いた。

「ほどほどにしておけよ、パウロ。それにしてもこの小さなキャラメル一つにこれほど疲労を回復する効果が付いているとは驚きだ」

「はい、わたしは調合で疲れたときや寝不足のときに、キャラメルを食べていました。この森のハチミツは栄養価がとても高く、冒険者さんの役に立てればと試作品をつくっていたのですが……」

 けれど、アリーシャさんに試作品をみせる前にクビになってしまった……。

「うむ。このキャラメルはおもしろい」
「おもしろいですか?」

 おいしいじゃなくて?

「レンさんがね、おもしろいって言うときはすっごく気に入っているときにつかう言葉だよ」
「お前は、ほんと人を観察しているな」
「へへへ、レンさんに褒められちゃった」
「いや、お前のことは褒めていないからな、パウロ」
 
 荷物になったけれどハチミツキャラメル、持って来てよかった。
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