のんびり、まったり、モノづくり ~お嬢様は錬金術師~

チャららA12・山もり

文字の大きさ
上 下
10 / 78
一章 出会い

10、ダンジョンの準備

しおりを挟む
 
 王都の西側は、石造りの高級ホテルなどが並び、長期滞在で貸し出しているアパートもあった。その中でも古いアパートの一階にサラは部屋を借りていた。

「ふーん、サラさんの住んでいる部屋って結構立派なんだ」

 少し古ぼけたアパートの門扉をギーっと押したパウロに続いて、サラも玄関ポーチへ入った。

「半年間契約で借りているんだけどね」

「パウロ、お前はなんにでも興味をもつ奴だな」

「だって、好きな人のことを知りたいって思うのは普通でしょ、ね、サラさん」

 パウロの視線と冗談にドギマギして、
「えっ? ええっと、あの」
 言葉に詰まるサラに、レンが助け舟を出した。

「おいおい、純情なサラに冗談をいって困らせるな」

「本気だよ。だって僕、サラさんのこと本当に興味あるもん」

 くるりと身軽な体をターンさせて、パウロがサラの部屋の扉前で待っている。

「ねぇ、今日はサラさんのお家にお泊りしようよ」

「お前なぁ……。女性の部屋に、しかも公爵令嬢だぞ……。その扉をくぐったら、お前、殺されるぞ」
「え、誰に?」
「もういい、さっさと帰るぞ」
 レンはパウロの襟首をずるずるとひっぱりながら、
「サラ、都合のいい日があったら教えてくれ。ダンジョンに行く日を決めよう」

「明日はどうでしょう?」

 すぐにサラが返事をすると思っていなかったのか、レンは言葉を続けていた。

「出発すれば三日ほどかかるから、サラの空いた日を、うん? 明日?」

「ダメでしょうか?」

 サラはすぐにでも行きたかった。
 予定はない。仕事もない。
 それにダンジョンにいけるなんて、これほど楽しみなことを待っていられない。

 パウロもレンの腕をくぐり抜け、サラのところへ戻ってきた。

「いいね、サラさん! 明日にしようよ! 僕ね、今日ダンジョンに持っていくものぜーんぶ、買ってそろえたから。ね、いいでしょ、レンさん!」

「まあ、サラがいいなら、それでいいが。では明日の早朝、森で待ち合わせをしよう。あの大きな木の下でいいかな」

「はい!」

「サラさん。何も持ってこなくていいからね。回復薬や毒消し薬も全部揃っているから。それにね、今日おいしいパンや牛乳、食べるものを買って準備したから、サラさんは身ひとつで僕のところにきて」

「パウロ、お前が言うと意味が違ってくる」

「ふふふふ」 

 二人のやりとりが面白く、つい笑ってしまったら、二人がこちらを見ていた。 

「あ、ごめんなさい」

「いや、サラの笑顔はまわりを明るくする、とてもいい笑顔だ」

 レンの言葉にサラは顔が赤くなるのがわかった。
 笑顔を褒められただけで、こんなにドキドキするなんて……。

「ずるい、ずるい。僕も僕も! 僕もね、サラさんの笑顔をみていると元気が出るよ」
「ありがとう、パウロくん。明日のダンジョン楽しみだね」

「うん! ダンジョンへ行くのは約束だよ、サラさん」
「うん、約束だね。あ、レンさんも今日はいろいろとありがとうございました」
 サラは門扉のところで待っているレンに声をかけた。

「いや。では、サラもゆっくり休んでくれ」
「はい、おやすみなさい」
 そうして二人は帰っていた。

 部屋の扉を開けると、ふっと全身の力が抜けた。
 これほど人とたくさん話したのは初めてかもしれない。

 本当に今日はいろいろあった。
 銀の手鏡を机に置いて、頭を下げる。

 ――レンさん、ありがとうございました。

 このまま、バタンとベッドに横になりたいけれど、明日の準備をしておかないと。

 ええっと、パウロくんが薬や食料などは持って来てくれると言っていたから、おやつを持って行こうかな。
 たしか……、試作でつくったハチミツキャラメルがあったはず。

 あとは乾燥パンケーキ、これなら水でも膨らむから持っていくのに邪魔にならないよね。
 それなら乾燥ジャムやハーブティもいるかな。

 そうそう、クリーンの粉があれば、洗濯や身体を洗う必要もないし。

 あ、クリーンの粉が足りないな……。ちょっとだけ、作ろう。

 棚からヒースの花とセージの葉を取り出し、少々の浄化の粉を振りかけて、鍋の中で一緒にぐるぐる回す。

 ふわっと、小さな光が鍋からあふれ出た。

 うん、完成。
 よし! できた。

 他にもいろいろ詰め込んでいたら、斜めがけバックがパンパンに膨らんだ。
 こういうときに収納アイテムバッグがあればすごく助かるのにと思ってしまう。
 けれど、収納アイテムバックは手に入れるのはとても困難。
 一流の冒険者さんでさえ、自分で材料を集め、大金を積んでオーダーメイドで錬金術師さんに依頼する。そのため収納アイテムバッグを作れるのは、腕のいい錬金術師だけ。

 そういえば……、レンさんの異空間収納は初めて見た。
 一流冒険者さんが持っているのは、カバンとか袋とか、ポーチのようなもので、その中が異空間収納になっているのは知っている。でもレンさんのように何もないのに突然、空間の裂け目のようなところからいろいろな物を取り出しているのって、珍しいと思う。

 ほんと、不思議な人だな、レンさんは……。

 パウロくんとのやり取りも面白かったし、もっとレンさんのことを知りたい。

 二人と一緒にダンジョンにいけると思うと、ワクワクしてきた。
 これじゃ、また今晩も眠れそうにないな。
 でも、寝ないと……。

 あっ……。
 いつのまにか、窓の外がしらじらと明るくなっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[完結]アタンなんなのって私は私ですが?

シマ
恋愛
私は、ルルーシュ・アーデン男爵令嬢です。底辺の貴族の上、天災で主要産業である農業に大打撃を受けて貧乏な我が家。 我が家は建て直しに家族全員、奔走していたのですが、やっと領地が落ちついて半年振りに学園に登校すると、いきなり婚約破棄だと叫ばれました。 ……嫌がらせ?嫉妬?私が貴女に? さっきから叫ばれておりますが、そもそも貴女の隣の男性は、婚約者じゃありませんけど? 私の婚約者は…… 完結保証 本編7話+その後1話

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...