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一章 出会い
8、レンの異空間収納
しおりを挟むガラクタの前で、レンが腕を組んでいた。
「こんな感じで異空間収納に何が入っているのか俺もよくわからない。そんな状態だから、必要なときにお金も取り出すことができなかった。だから質屋のおやじにいろいろと引き取ってもらい、処分出来てありがたかったわけだ。だから、何も気にすることはない。この荷物も明日俺が取りに来るからそのまま置いといてくれ」
ええっと、このガラクタを……?
「じゃ」
手を上げて去ろうとするレンの背中に、サラは思わず声をかけていた。
「ちょ、ちょっと待ってください。でしたら、わたしの調合したもので返済できませんか?」
「調合したもの?」
レンが振り返る。
「はい、わたしの錬金術で作れるものなら何でも」
「そうか……、うんうん。あの店で何も買えなくて残念だったから、それはいい。そうだな、あの黄色いグミとキャンディがいいかな。五個、いや、三個ずついただければありがたい。よし、パウロにも一つぐらい分けてやろう」
黄色いグミとキャンディ。
つくれるけれど、つくっちゃダメ。
「あの、すみません。その二つはちょっと無理なので……。他の新しいアイテムではダメでしょうか。食べられるものを作りますので」
「それでもいいが……、どうしてあの二つはダメなのかな?」
「作り方は覚えているのですが、一度あの店に置いたものは、作ったらいけないと言われましたから」
「自分が作った商品なのに、店を辞めたら同じものを作ったらいけないのか」
「はい。わたしが作ってしまうと、アリーシャさんの店の信用問題になるので。レシピ帳も置いてきました」
「そういうものなのか……。ま、俺はキミが作るアイテムならそれでいい。一カ月は王都にいる。出来上がったら街はずれの青い屋根の宿屋に預けておいてくれればいい」
「で、ですから、あの、ダンジョンに連れて行ってください」
「ん?」
レンが驚いた顔をしていた。
それもそのはず。
サラ自身も驚いていた。
突然、こんな事を言うなんて……。
いつも考えてばかりで、自分の意志を伝えるのが苦手なはずなのに。
「レンさんといると、わたしはスラスラと自分の気持ちが言えるのです。思っていることが言えるのです。だから、わたしをダンジョンに連れて行ってください」
つじつまの合わないことを言っていると自分でも分かっている。
でも、ここでレンさんと別れするのが嫌だった。
二度と会えないような気がしたから……。
この人をなんとか引き留めようとして、わたしはずっといろいろ話しかけている。
結果、こうしておかしなことを口走っているけれど……。
断られてもいい。どう思われてもいい。
今、このときにしか伝えられないことがあると思うから……。
レンはこくりと頷いた。
「わかった。だが、なにか聞きたいこと、気づいたことがあれば俺にいうこと。そしてダンジョンで帰りたい、怖いと思ったらすぐ俺に伝えること。それを約束できるなら、一緒にダンジョンへ行こう」
「はい!」
サラの返事に大きく頷いたレンはガラクタの山をまた空間の裂け目に戻していた。
そして、
「ここの枯葉はよく燃えそうだ。この倒れた木も、何かに使えるかもしれない」
そう言いながら、レンはバッサ――と落ちている枯葉を空間の裂け目に押し込んでいる。
なんだろう……。
「レンさんの異空間収納という所に、どんどんと物が増えていく理由がなんとなくわかったような気がします……」
サラのつぶやきが聞こえたのか、
「うん?」
とレンは頭を傾け、何に使うのかまったく想像もできない、大きな岩を持ち上げて空間の裂け目に入れようとしていた。
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