のんびり、まったり、モノづくり ~お嬢様は錬金術師~

チャららA12・山もり

文字の大きさ
上 下
8 / 78
一章 出会い

8、レンの異空間収納

しおりを挟む

 ガラクタの前で、レンが腕を組んでいた。

「こんな感じで異空間収納に何が入っているのか俺もよくわからない。そんな状態だから、必要なときにお金も取り出すことができなかった。だから質屋のおやじにいろいろと引き取ってもらい、処分出来てありがたかったわけだ。だから、何も気にすることはない。この荷物も明日俺が取りに来るからそのまま置いといてくれ」

 ええっと、このガラクタを……?

「じゃ」
 手を上げて去ろうとするレンの背中に、サラは思わず声をかけていた。

「ちょ、ちょっと待ってください。でしたら、わたしの調合したもので返済できませんか?」

「調合したもの?」

 レンが振り返る。

「はい、わたしの錬金術で作れるものなら何でも」

「そうか……、うんうん。あの店で何も買えなくて残念だったから、それはいい。そうだな、あの黄色いグミとキャンディがいいかな。五個、いや、三個ずついただければありがたい。よし、パウロにも一つぐらい分けてやろう」

 黄色いグミとキャンディ。
 つくれるけれど、つくっちゃダメ。

「あの、すみません。その二つはちょっと無理なので……。他の新しいアイテムではダメでしょうか。食べられるものを作りますので」

「それでもいいが……、どうしてあの二つはダメなのかな?」

「作り方は覚えているのですが、一度あの店に置いたものは、作ったらいけないと言われましたから」

「自分が作った商品なのに、店を辞めたら同じものを作ったらいけないのか」

「はい。わたしが作ってしまうと、アリーシャさんの店の信用問題になるので。レシピ帳も置いてきました」

「そういうものなのか……。ま、俺はキミが作るアイテムならそれでいい。一カ月は王都にいる。出来上がったら街はずれの青い屋根の宿屋に預けておいてくれればいい」

「で、ですから、あの、ダンジョンに連れて行ってください」

「ん?」

 レンが驚いた顔をしていた。
 それもそのはず。
 サラ自身も驚いていた。

 突然、こんな事を言うなんて……。
 いつも考えてばかりで、自分の意志を伝えるのが苦手なはずなのに。

「レンさんといると、わたしはスラスラと自分の気持ちが言えるのです。思っていることが言えるのです。だから、わたしをダンジョンに連れて行ってください」

 つじつまの合わないことを言っていると自分でも分かっている。
 でも、ここでレンさんと別れするのが嫌だった。
 二度と会えないような気がしたから……。

 この人をなんとか引き留めようとして、わたしはずっといろいろ話しかけている。
 結果、こうしておかしなことを口走っているけれど……。
 断られてもいい。どう思われてもいい。
 今、このときにしか伝えられないことがあると思うから……。

 レンはこくりと頷いた。

「わかった。だが、なにか聞きたいこと、気づいたことがあれば俺にいうこと。そしてダンジョンで帰りたい、怖いと思ったらすぐ俺に伝えること。それを約束できるなら、一緒にダンジョンへ行こう」

「はい!」

 サラの返事に大きく頷いたレンはガラクタの山をまた空間の裂け目に戻していた。

 そして、
「ここの枯葉はよく燃えそうだ。この倒れた木も、何かに使えるかもしれない」
 そう言いながら、レンはバッサ――と落ちている枯葉を空間の裂け目に押し込んでいる。

 なんだろう……。

「レンさんの異空間収納という所に、どんどんと物が増えていく理由がなんとなくわかったような気がします……」

 サラのつぶやきが聞こえたのか、
「うん?」
 とレンは頭を傾け、何に使うのかまったく想像もできない、大きな岩を持ち上げて空間の裂け目に入れようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

私のお母様に惚れた?私のお母様はお義母様で、お父様なのよ

京月
恋愛
ジークはレレイナのお母様に恋をしてしまった。 しかし、お母様には秘密があった。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...