6 / 78
一章 出会い
6、素敵な笑顔
しおりを挟む
「キミは動物さんに好かれるみたいだ。それに、さっきの母熊から聞いたけど、きみは子熊を助けたこともあるらしいね」
「え、あっ、はい……」
突然、質問をされてサラは戸惑いながらも、応えようとしていた。
おちついて、おちついて、サラ・メアリー。
「ええと、この森は、わたしの住んでいた屋敷の裏にある森とよく似ていたのです」
どうして私ったら、そんなところから話しはじめるの。
ぜったい、要領の悪い子だってあきれ返っている……。
けれど、目の前の男性はサラの話の続きを待っているようで、サラはそのまま話を続けることにした。
「以前、アリーシャさんに頼まれて、万能薬の材料をこの森に探しに来たことがありました。クマよけの鈴をつけて。けれど、近くでクマの親子と出会い、なんだかお母さん熊が殺気立っていたので、わたしはそっと道を変えました。しばらく歩いていると、ガケの下で、狼に追いかけられ、木の上に逃げる子熊を見つけました。そのときに分かったのです。母熊が、もう一匹の子熊を探しているのだと」
早口すぎたけど、伝わったのかな。
心配になって相手の反応を待った。
「ああ、そうだったのか。それで、キミは狼たちをやっつけて、さっきの子熊を助けたってことだね?」
と、サラに聞く。
うん? やっつけて?
わたしが狼を?
「い、いえ」
サラはブンブンと手を振った。
ええっと、わたしが狼たちをやっつけるように見えるのかな。
ちょっとショックを受けたけれど、誤解を解くために説明を続けることにした。
「狼さんには、少し向こうへ行ってもらうことにしました。狼除けの練り玉で香を焚いて。その間に、お母さん熊が、木の上にいる子熊を呼んで、木から降りてきた子熊と無事に森の奥へ帰っていきました。それからは、お母さん熊がこの森でわたしを見かけると、遠く離れたところからですが、付いてくるように合図して、ハチミツが取れる場所やきれいな水の湧き出る場所を教えてくれるようになったのです」
聞かれてないのに、必要のないことまで言っちゃったかな……。
でも……、思いついたことがスラスラと言葉に出来て、とてもすっきりした気分だった。
「なるほど。あの店で置いてある黄色いグミや万能薬などは、その湧き水でつくったというわけだ」
「はい、そうです」
あれ? わたし説明したかな?
「やはりそうか。ではあの店に行ったらつぎは必ず万能薬を絶対買おう。いや、ちょっとまてよ、俺が店にいっても、あの店主にぜったい追い返さるな。では、パウロに買いに行ってもらおう」
男性は、腕を組んでぶつぶつ独りつぶやいていた。
「あ、あの……」
「ん?」
「……い、いえ」
わたしがつくった万能薬はアリーシャさんの店にある五本限りで終わり。
次に買いに行っても、もう残っていないかもしれない。
アリーシャさんはわたしのレシピを処分するって言っていた。作るのに時間がかかりすぎて、利益が出ないから。だからもう二度とあの商品たちもあの店で販売されないはず。
そして今後、わたしが作るのも許されない。
アリーシャさんの店で一度販売したものをわたしが売ったら、アリーシャさんの店の信用が落ちてしまうから。
だから、言わないと。せっかく買いに行ったのに売り切れだったら、お客さんをがっかりさせてしまう――。
「あ、あの。ごめんなさい。あの万能薬は店にある五本で終わりだと思います。つくるのに時間がかかりすぎるので、つぎに補充されるものは、ちがう万能薬になると思います」
「きみ、あの店、やめたの?」
「え?」
「もうあの万能薬はつくられないってことは、きみじゃなくて、違う人につくらせるってことだよね」
「は、はい……。今日でわたしはあの店をやめました。もう来なくていいと言われたので……」
「そうだね。あの店には似合わなかった。キミの作った商品も、似つかわしくなかったな」
お客さんの言うとおりだ――。
世間のことを学びたい、冒険者さんの役にたつような商品をもっと作ってみたい。
そんな夢を持ったことが間違いだった。
だから、大切な銀の手鏡まで手放すことになってしまったのだ。
「はい、お客様がおっしゃるように、あのような立派な店で、わたしが店員などしていることが似合わなかったのです。わたしのつくった商品も、あの店に似つかわしくなかったのです」
開き直りでも何でもない。本心だ。
利益にならないものは、店頭に並ぶ価値もない。
わたしのように――。
「うん? なにか勘違いしている? 俺が言っているのは逆の意味だけど」
「?」
「きみがつくった黄色いグミ、キャンディ、万能薬はとてもいい商品だった。見ているだけで、わくわく、楽しい気持ちがつまっていた。俺のようなスキルがなくても、気持ちのこもったものは、必ず相手に伝わる。けれど、赤髪の店主と同じように、あの店は見掛け倒しのモノばかり。なにも本質をわかっていない。そんな店に、心のこもった良いものを置いておくのはもったいない、似つかわしくないってことだ」
慰めの言葉かもしれない。そう思いながらも、サラは胸の奥が温まるようだった。
「まあ、なんだ。買う前に追い出され、何も買っていない俺が言うことでもないのだろけど。ハハハハハッ」
明るく笑う男性につられるように、サラもいつしか笑顔になっていた。
「え、あっ、はい……」
突然、質問をされてサラは戸惑いながらも、応えようとしていた。
おちついて、おちついて、サラ・メアリー。
「ええと、この森は、わたしの住んでいた屋敷の裏にある森とよく似ていたのです」
どうして私ったら、そんなところから話しはじめるの。
ぜったい、要領の悪い子だってあきれ返っている……。
けれど、目の前の男性はサラの話の続きを待っているようで、サラはそのまま話を続けることにした。
「以前、アリーシャさんに頼まれて、万能薬の材料をこの森に探しに来たことがありました。クマよけの鈴をつけて。けれど、近くでクマの親子と出会い、なんだかお母さん熊が殺気立っていたので、わたしはそっと道を変えました。しばらく歩いていると、ガケの下で、狼に追いかけられ、木の上に逃げる子熊を見つけました。そのときに分かったのです。母熊が、もう一匹の子熊を探しているのだと」
早口すぎたけど、伝わったのかな。
心配になって相手の反応を待った。
「ああ、そうだったのか。それで、キミは狼たちをやっつけて、さっきの子熊を助けたってことだね?」
と、サラに聞く。
うん? やっつけて?
わたしが狼を?
「い、いえ」
サラはブンブンと手を振った。
ええっと、わたしが狼たちをやっつけるように見えるのかな。
ちょっとショックを受けたけれど、誤解を解くために説明を続けることにした。
「狼さんには、少し向こうへ行ってもらうことにしました。狼除けの練り玉で香を焚いて。その間に、お母さん熊が、木の上にいる子熊を呼んで、木から降りてきた子熊と無事に森の奥へ帰っていきました。それからは、お母さん熊がこの森でわたしを見かけると、遠く離れたところからですが、付いてくるように合図して、ハチミツが取れる場所やきれいな水の湧き出る場所を教えてくれるようになったのです」
聞かれてないのに、必要のないことまで言っちゃったかな……。
でも……、思いついたことがスラスラと言葉に出来て、とてもすっきりした気分だった。
「なるほど。あの店で置いてある黄色いグミや万能薬などは、その湧き水でつくったというわけだ」
「はい、そうです」
あれ? わたし説明したかな?
「やはりそうか。ではあの店に行ったらつぎは必ず万能薬を絶対買おう。いや、ちょっとまてよ、俺が店にいっても、あの店主にぜったい追い返さるな。では、パウロに買いに行ってもらおう」
男性は、腕を組んでぶつぶつ独りつぶやいていた。
「あ、あの……」
「ん?」
「……い、いえ」
わたしがつくった万能薬はアリーシャさんの店にある五本限りで終わり。
次に買いに行っても、もう残っていないかもしれない。
アリーシャさんはわたしのレシピを処分するって言っていた。作るのに時間がかかりすぎて、利益が出ないから。だからもう二度とあの商品たちもあの店で販売されないはず。
そして今後、わたしが作るのも許されない。
アリーシャさんの店で一度販売したものをわたしが売ったら、アリーシャさんの店の信用が落ちてしまうから。
だから、言わないと。せっかく買いに行ったのに売り切れだったら、お客さんをがっかりさせてしまう――。
「あ、あの。ごめんなさい。あの万能薬は店にある五本で終わりだと思います。つくるのに時間がかかりすぎるので、つぎに補充されるものは、ちがう万能薬になると思います」
「きみ、あの店、やめたの?」
「え?」
「もうあの万能薬はつくられないってことは、きみじゃなくて、違う人につくらせるってことだよね」
「は、はい……。今日でわたしはあの店をやめました。もう来なくていいと言われたので……」
「そうだね。あの店には似合わなかった。キミの作った商品も、似つかわしくなかったな」
お客さんの言うとおりだ――。
世間のことを学びたい、冒険者さんの役にたつような商品をもっと作ってみたい。
そんな夢を持ったことが間違いだった。
だから、大切な銀の手鏡まで手放すことになってしまったのだ。
「はい、お客様がおっしゃるように、あのような立派な店で、わたしが店員などしていることが似合わなかったのです。わたしのつくった商品も、あの店に似つかわしくなかったのです」
開き直りでも何でもない。本心だ。
利益にならないものは、店頭に並ぶ価値もない。
わたしのように――。
「うん? なにか勘違いしている? 俺が言っているのは逆の意味だけど」
「?」
「きみがつくった黄色いグミ、キャンディ、万能薬はとてもいい商品だった。見ているだけで、わくわく、楽しい気持ちがつまっていた。俺のようなスキルがなくても、気持ちのこもったものは、必ず相手に伝わる。けれど、赤髪の店主と同じように、あの店は見掛け倒しのモノばかり。なにも本質をわかっていない。そんな店に、心のこもった良いものを置いておくのはもったいない、似つかわしくないってことだ」
慰めの言葉かもしれない。そう思いながらも、サラは胸の奥が温まるようだった。
「まあ、なんだ。買う前に追い出され、何も買っていない俺が言うことでもないのだろけど。ハハハハハッ」
明るく笑う男性につられるように、サラもいつしか笑顔になっていた。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです
灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。
それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。
その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。
この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。
フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。
それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが……
ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。
他サイトでも掲載しています。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり


【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる