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第2章 自由の意味
21.因果は混ざり結果へと ②/神685-5(Imt)-9
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Interude
エレミアがアユムたちが捕まっている部屋へ飛び込んだのと、監視団が建物周辺を包囲したのはほぼ同時であった。
建物の中から起こった魔術反応と爆風、周りを囲んだ監視団。
状況把握も完全にできず、建物を警備していた兵士と冒険者は戦闘態勢を取った。
対峙するは人間とエルフだが、その内心は三つに分かれていた。
まさに一触即発の状況で、中の状況を確認しようにも迂闊に動けない兵士。
後ろめたいことがある冒険者と、それらを牽制しようとするエルフ。
実質的に三すくみ状態で、沈黙を破ったのは一人の兵士だった。
「そこの方は監視団長のレイン殿とお見受けしますが、これは何の騒ぎですか?」
監視団とその団長であるレインの顔を知らない兵士は基本いない。
彼らの任務からしても、立場からしても気にせずにはいられない団体。
その長であるレインが話が通じる存在であることを知っている。
ただレインから返ってきた言葉は限りなく冷たいものだった。
「何の騒ぎと聞いたか。
それはそちらが守る建物からの爆風を念頭に置いての発言か?」
「それとあんたら監視団が動いた理由がつながっていると?」
「その爆風は我らの同胞が作ったもの。
そしてその同胞は今日の午後、私たちの目の前で人間により拉致られた。
これ以上の説明は必要か?」
言葉を聞いて兵士は心の中で舌打ちをする。
エルフに関する情報は一般人にはそこまで広まってない。
だけど彼ら兵士には最小限の情報が伝わっている。
エルフは誓約の種族であり約束を重んじるため、黙秘はしても嘘はつかないと。
だからこそ、この言葉が真実であることを彼はもちろん他の兵士も知っている。
ただ、彼らはあくまでも兵士。
それだけで素直に言葉を聞くという選択肢は存在しない。
こんな状況での対応は決まっているようなものだった。
「……その言葉だけで信じるわけにはいかない。
今、この中には高貴な身分の方がいらっしゃる。
いくら監視団といえどもこの建物内に勝手に上がらせるわけにはいかない」
今までなら、ここで何も言わずに監視団は去っていった。
エルフが争いを好まないため今までは何も言わずに人間側に従っていた。
そして人間側もそんなエルフの逆鱗に触れない程度で手を抜いてきた。
しかし――
「――はっ、そうやってまた誤魔化す気か?」
今回ばかりは監視団が引かなかった。
「何だと?」
「エルフを馬鹿にするな、そうやって今件をうやむやにする気なのは知ってる。
今までもそうだった、貴様らは一向にそれを変えようとはしなかったが」
普段と違う反応に兵士は戸惑う。
別に今までのことを指摘されたからではない。
それを今言って問題としたことに対しての戸惑いだ。
兵士は整理の追いつかない頭に浮かんだ質問をそのままレインに投げた。
「なぜ、それを今更。エルフは人間との戦争を望んでいるのか?」
「いや、それはそっちだろ。
なんで私たちが我慢しないと戦争になるのだ?
貴様ら人間は好き勝手やって、私達だけ我慢しろと?」
「それは――」
「――まあ、それでも別に良かったかもな。
何事もなければそうなっただろうが、今までと今回は訳が違う」
それはレインの率直な本音だった。
人間全員が悪いやつではないことは前から知っている。
それこそアユムと出会う前から。
ただ交流をしないといけないという使命感、必要性は感じなかった。
今までエルフ誘拐・拉致事件の犯人が人間側でどうなったか。
引き渡しても後から相応の処罰がくだされたの言葉しか聞けない。
実際はどうなったか、疑いはしてもそれを口にしたことはなかった。
人間側で処罰を下したと言ったなら既に終わったことになるからだ。
終わったことに言葉を紡いでも意味はない。
ただ、今回は、今は、まだ何も終わってない。
「そこをどけ兵士、私たちは私たちの同胞を助けに行く。
もし、それでも貴様らが立ちふさがるのなら容赦はしない」
「わかってるのか、ここで我らが戦えばこの場の問題だけでは済まないぞ!?
お前らだってそれを望んでるわけでは――」
「――何か勘違いしてるようだが」
強い態度に押されながらも問いただした兵士は、そのまま口を閉じる。
レインは自分の態度を崩さず、弓に矢をつがえながら言葉を続いた。
「戦い? 戦争?
そんなのを望んでこの場にいるわけではない。
そんなのを回避したくて今まで何も言わなかったわけではない。
望むのはただ一つ、我が同胞の安寧のみだ。
今現在、我らの同胞が囚われているというのに黙っている理由などいない」
――ズドーン!
「――全くその通りだ」
その一触即発の状況、人間とエルフの真ん中に何かが刺さった。
いや刺さったというよりは爆発したという表現が適切かもしれない。
その爆心地のもとにあったのは1メートルを超える巨大な大剣だった。
人間側はもちろんのこと、アユムを見張っていたジャスティンも馴染みがあった。
「この大剣は……確かあの時の冒険者――」
「おっ何だ、俺の剣は監視団の中にまで広まってるのか。
やはり人間目立ってみるもんだな!」
「こらバーストさん、流石に空気読みなさすぎ」
「逆だ逆、ここは空気読まない方が正解だっつーの」
「《燃ゆる栄光》のバースト・グローリーか。
この場に来たのは我らに加勢するためと見ていいか?」
先程のレインと対峙していた兵士が先にバーストに確認をとった。
彼らはこのインルーでも最高の実力を持っている冒険者集団。
一般人たちからの信頼も厚い彼らが味方してくれるのなら心強い。
しかしバーストは返事をせず、そのまま両者の真ん中まで行き自分の剣を抜いた。
地面深く刺さっていたように見えたその剣はあっさり抜かれる。
抜いた剣を一度確認してから、次は監視団――レインの方に視線を向けた。
「監視団の団長はあんたか?
結構馴染みはあるし、多分間違いないとは思うのだが」
「ああ、そうだ。そういう貴様は何でこの場に来た?
こっちは時間がない、もし邪魔をするなら――」
「エルフの神官さんからの依頼を受けてきた。
それで確認なのだが、あそこにはエルフの他に人間――
ぶっちゃけ、私が今日ばったりあったあのあんちゃんが囚われてるのか?」
エルフの神官、そして囚われてる人間の確認。
そこまで聞いてレインは素早く状況を把握した。
そして弓を少し下ろしながら答える
「間違いない、我らは彼があの建物内に連れて行かれるのを目視している」
「エルフは嘘をつかない、その言葉を信じるとしよう。
なら俺たちの動きも決まったようなもんだ」
バーストは自分の剣を持ち、今度は人間側にいる他の冒険者に視線を向けた。
片手に持った剣で彼らを指しながら、今度は怒鳴り始めた。
「おい貴様ら、全員どっかで見た顔だなオイ?
あのおっさんの連れじゃねーか。
貴様らがここで監視団と対峙してるというのは貴様らもグルってことで良いな?」
「そういう貴様らは人間の癖にエルフを信じるってか?」
「違うな、我ら冒険者は力なき人々の味方で、種族の味方ではない。
もし人間が道を誤っているのなら、同じ人間だろうと剣を振るってやる」
「それに、エルフの神官さんが直接ギルドまで来たんだよ。
神職の者が依頼に来たというのはそれだけでも説得力を持つ。
それに巻き込まれたのが例の兄ちゃんで、アンタたちがここにいるってのは――
あのおっさんが噛んでるのはほぼ間違いなさそうだね」
神職の者からの依頼。
神の代弁者から拉致られたエルフを救ってくれという依頼が入ったという事実。
それは流行り病のごとく兵士たちはもちろん冒険者たちで広がり動揺する。
そこで彼らに思い浮かんだのは今回自分たちが拉致ったもう一人の人間。
「神の使徒――噂は、本当だったのか……!」
どこからか漏れた言葉は一瞬にして周囲へと広がる。
それは兵士たちとて例外ではなかった。
中に誰が捕まっているのかはしらないけど神の使徒に対する噂は既に聞いていた。
エルフを拉致ったという商人のところにいきなり現れたという人間。
まさかと思いながら誰も耳に留めなかったあの噂と、目の前のエルフたち。
あの貴族に雇われた冒険者たちから漏れた神の使徒という単語。
不安を覚えるには十分すぎる状況だった。
その様子を静観していたバーストは手に持つ大剣を自分の肩に置きながら語る。
「まあ、その辺りの真実はわからないが――確認はもう要らなさそうだな?
今回の件に関してギルドは監視団の手を持つことにする。
貴様ら、今からでも降参するなら情状酌量くらいはしてやる。
しかしそれでも抵抗するなら――――ぶち壊すぞ?」
そこにバーストの殺気のこもった視線と威圧感が押し寄せる。
冒険者は一人二人と武器を手放し、兵士たちも剣を地に落としていく。
それを見たレインは目の前に現れて状況を整理したバーストに近づいた。
「とりあえず感謝しよう、細かい話は同胞たちを救ってからで良いか?」
「それで良いしお礼も別に良いさ。
後であんたたちが持ってる情報を渡してくれると助かる。
神官さんからの依頼って形だけど、今回の件はギルドにも非があるんだ。
冒険者が空中分解したあの件とも無関係でないのなら全貌を明かす必要がある」
「こちらで提供できる情報ならいくらでも。
――ギルドの冒険者にもあんたたちのような人間がいて助かった」
「うちらとしてはあのおっさんがここまで仕出かしたのがショックなんだが。
ギルドは監視団と争う気はない、うちらの目的はあくまでも治安維持だ」
今回の一件でギルドは関与していない。
冒険者たちが独断専行したのであって、ギルドに敵対の意思はない。
バーストが言いたいことはこれだろうと、レインは悟った。
そして悟った上で言葉を返す。
「……それはこの都市の兵士とで同じだろう?
こちらからしたらどっちも似たようなものだ」
「ああ――そうか、そう言われたらそうなるか」
どちらも治安維持が表向きの目的であることは変わらない。
しかし国の兵士たちは今まで監視団をないがしろにしてきた。
ギルドとは今まで絡みがなかったが、監視団としてはどちらも同じ。
人間の武力集団で、表向きは治安維持が目的なところも一緒ときた。
疑わないのが無理であり、バーストもそれについて反論できなかった。
「まあ、細かい話は後でマスターと話してみてくれ。
正直、うちらはあんたたちとは仲良くしたいとずっと思ってたんだ」
「ふっ、そうだな。これが終わったら話してみるとしよう」
そんなバーストが選んだ答えは他人任せ。
レインはそんな彼に少し笑いながらも承諾した。
人間の味方が多いに越したことはない。
今まではそこまで気にしてなかったが、アユムとの出会いで考え方が少し変わったレインだった。
しかし、今はそう笑い合っている時間がない。
「――今から建物内に入る。
人間側の証人として一緒に来てほしいのだが、頼めるか」
「あ、それなら私が行くよ!
ここは私よりリーダーがドンと構えていたほうが抑制になりそうだし」
「そうだな、たの――何だ、この魔力反応は!?」
外の状況がほぼ整理され、中に入ろうとしたその時。
尋常ではない魔力反応をそこにいる全員が感じた。
その反応の元は――――今、アユムたちが捕まっている五階。
開かれた窓からも覗き見える赤いマナーが禍々しく光ってるように見えた。
Interude Out
エレミアがアユムたちが捕まっている部屋へ飛び込んだのと、監視団が建物周辺を包囲したのはほぼ同時であった。
建物の中から起こった魔術反応と爆風、周りを囲んだ監視団。
状況把握も完全にできず、建物を警備していた兵士と冒険者は戦闘態勢を取った。
対峙するは人間とエルフだが、その内心は三つに分かれていた。
まさに一触即発の状況で、中の状況を確認しようにも迂闊に動けない兵士。
後ろめたいことがある冒険者と、それらを牽制しようとするエルフ。
実質的に三すくみ状態で、沈黙を破ったのは一人の兵士だった。
「そこの方は監視団長のレイン殿とお見受けしますが、これは何の騒ぎですか?」
監視団とその団長であるレインの顔を知らない兵士は基本いない。
彼らの任務からしても、立場からしても気にせずにはいられない団体。
その長であるレインが話が通じる存在であることを知っている。
ただレインから返ってきた言葉は限りなく冷たいものだった。
「何の騒ぎと聞いたか。
それはそちらが守る建物からの爆風を念頭に置いての発言か?」
「それとあんたら監視団が動いた理由がつながっていると?」
「その爆風は我らの同胞が作ったもの。
そしてその同胞は今日の午後、私たちの目の前で人間により拉致られた。
これ以上の説明は必要か?」
言葉を聞いて兵士は心の中で舌打ちをする。
エルフに関する情報は一般人にはそこまで広まってない。
だけど彼ら兵士には最小限の情報が伝わっている。
エルフは誓約の種族であり約束を重んじるため、黙秘はしても嘘はつかないと。
だからこそ、この言葉が真実であることを彼はもちろん他の兵士も知っている。
ただ、彼らはあくまでも兵士。
それだけで素直に言葉を聞くという選択肢は存在しない。
こんな状況での対応は決まっているようなものだった。
「……その言葉だけで信じるわけにはいかない。
今、この中には高貴な身分の方がいらっしゃる。
いくら監視団といえどもこの建物内に勝手に上がらせるわけにはいかない」
今までなら、ここで何も言わずに監視団は去っていった。
エルフが争いを好まないため今までは何も言わずに人間側に従っていた。
そして人間側もそんなエルフの逆鱗に触れない程度で手を抜いてきた。
しかし――
「――はっ、そうやってまた誤魔化す気か?」
今回ばかりは監視団が引かなかった。
「何だと?」
「エルフを馬鹿にするな、そうやって今件をうやむやにする気なのは知ってる。
今までもそうだった、貴様らは一向にそれを変えようとはしなかったが」
普段と違う反応に兵士は戸惑う。
別に今までのことを指摘されたからではない。
それを今言って問題としたことに対しての戸惑いだ。
兵士は整理の追いつかない頭に浮かんだ質問をそのままレインに投げた。
「なぜ、それを今更。エルフは人間との戦争を望んでいるのか?」
「いや、それはそっちだろ。
なんで私たちが我慢しないと戦争になるのだ?
貴様ら人間は好き勝手やって、私達だけ我慢しろと?」
「それは――」
「――まあ、それでも別に良かったかもな。
何事もなければそうなっただろうが、今までと今回は訳が違う」
それはレインの率直な本音だった。
人間全員が悪いやつではないことは前から知っている。
それこそアユムと出会う前から。
ただ交流をしないといけないという使命感、必要性は感じなかった。
今までエルフ誘拐・拉致事件の犯人が人間側でどうなったか。
引き渡しても後から相応の処罰がくだされたの言葉しか聞けない。
実際はどうなったか、疑いはしてもそれを口にしたことはなかった。
人間側で処罰を下したと言ったなら既に終わったことになるからだ。
終わったことに言葉を紡いでも意味はない。
ただ、今回は、今は、まだ何も終わってない。
「そこをどけ兵士、私たちは私たちの同胞を助けに行く。
もし、それでも貴様らが立ちふさがるのなら容赦はしない」
「わかってるのか、ここで我らが戦えばこの場の問題だけでは済まないぞ!?
お前らだってそれを望んでるわけでは――」
「――何か勘違いしてるようだが」
強い態度に押されながらも問いただした兵士は、そのまま口を閉じる。
レインは自分の態度を崩さず、弓に矢をつがえながら言葉を続いた。
「戦い? 戦争?
そんなのを望んでこの場にいるわけではない。
そんなのを回避したくて今まで何も言わなかったわけではない。
望むのはただ一つ、我が同胞の安寧のみだ。
今現在、我らの同胞が囚われているというのに黙っている理由などいない」
――ズドーン!
「――全くその通りだ」
その一触即発の状況、人間とエルフの真ん中に何かが刺さった。
いや刺さったというよりは爆発したという表現が適切かもしれない。
その爆心地のもとにあったのは1メートルを超える巨大な大剣だった。
人間側はもちろんのこと、アユムを見張っていたジャスティンも馴染みがあった。
「この大剣は……確かあの時の冒険者――」
「おっ何だ、俺の剣は監視団の中にまで広まってるのか。
やはり人間目立ってみるもんだな!」
「こらバーストさん、流石に空気読みなさすぎ」
「逆だ逆、ここは空気読まない方が正解だっつーの」
「《燃ゆる栄光》のバースト・グローリーか。
この場に来たのは我らに加勢するためと見ていいか?」
先程のレインと対峙していた兵士が先にバーストに確認をとった。
彼らはこのインルーでも最高の実力を持っている冒険者集団。
一般人たちからの信頼も厚い彼らが味方してくれるのなら心強い。
しかしバーストは返事をせず、そのまま両者の真ん中まで行き自分の剣を抜いた。
地面深く刺さっていたように見えたその剣はあっさり抜かれる。
抜いた剣を一度確認してから、次は監視団――レインの方に視線を向けた。
「監視団の団長はあんたか?
結構馴染みはあるし、多分間違いないとは思うのだが」
「ああ、そうだ。そういう貴様は何でこの場に来た?
こっちは時間がない、もし邪魔をするなら――」
「エルフの神官さんからの依頼を受けてきた。
それで確認なのだが、あそこにはエルフの他に人間――
ぶっちゃけ、私が今日ばったりあったあのあんちゃんが囚われてるのか?」
エルフの神官、そして囚われてる人間の確認。
そこまで聞いてレインは素早く状況を把握した。
そして弓を少し下ろしながら答える
「間違いない、我らは彼があの建物内に連れて行かれるのを目視している」
「エルフは嘘をつかない、その言葉を信じるとしよう。
なら俺たちの動きも決まったようなもんだ」
バーストは自分の剣を持ち、今度は人間側にいる他の冒険者に視線を向けた。
片手に持った剣で彼らを指しながら、今度は怒鳴り始めた。
「おい貴様ら、全員どっかで見た顔だなオイ?
あのおっさんの連れじゃねーか。
貴様らがここで監視団と対峙してるというのは貴様らもグルってことで良いな?」
「そういう貴様らは人間の癖にエルフを信じるってか?」
「違うな、我ら冒険者は力なき人々の味方で、種族の味方ではない。
もし人間が道を誤っているのなら、同じ人間だろうと剣を振るってやる」
「それに、エルフの神官さんが直接ギルドまで来たんだよ。
神職の者が依頼に来たというのはそれだけでも説得力を持つ。
それに巻き込まれたのが例の兄ちゃんで、アンタたちがここにいるってのは――
あのおっさんが噛んでるのはほぼ間違いなさそうだね」
神職の者からの依頼。
神の代弁者から拉致られたエルフを救ってくれという依頼が入ったという事実。
それは流行り病のごとく兵士たちはもちろん冒険者たちで広がり動揺する。
そこで彼らに思い浮かんだのは今回自分たちが拉致ったもう一人の人間。
「神の使徒――噂は、本当だったのか……!」
どこからか漏れた言葉は一瞬にして周囲へと広がる。
それは兵士たちとて例外ではなかった。
中に誰が捕まっているのかはしらないけど神の使徒に対する噂は既に聞いていた。
エルフを拉致ったという商人のところにいきなり現れたという人間。
まさかと思いながら誰も耳に留めなかったあの噂と、目の前のエルフたち。
あの貴族に雇われた冒険者たちから漏れた神の使徒という単語。
不安を覚えるには十分すぎる状況だった。
その様子を静観していたバーストは手に持つ大剣を自分の肩に置きながら語る。
「まあ、その辺りの真実はわからないが――確認はもう要らなさそうだな?
今回の件に関してギルドは監視団の手を持つことにする。
貴様ら、今からでも降参するなら情状酌量くらいはしてやる。
しかしそれでも抵抗するなら――――ぶち壊すぞ?」
そこにバーストの殺気のこもった視線と威圧感が押し寄せる。
冒険者は一人二人と武器を手放し、兵士たちも剣を地に落としていく。
それを見たレインは目の前に現れて状況を整理したバーストに近づいた。
「とりあえず感謝しよう、細かい話は同胞たちを救ってからで良いか?」
「それで良いしお礼も別に良いさ。
後であんたたちが持ってる情報を渡してくれると助かる。
神官さんからの依頼って形だけど、今回の件はギルドにも非があるんだ。
冒険者が空中分解したあの件とも無関係でないのなら全貌を明かす必要がある」
「こちらで提供できる情報ならいくらでも。
――ギルドの冒険者にもあんたたちのような人間がいて助かった」
「うちらとしてはあのおっさんがここまで仕出かしたのがショックなんだが。
ギルドは監視団と争う気はない、うちらの目的はあくまでも治安維持だ」
今回の一件でギルドは関与していない。
冒険者たちが独断専行したのであって、ギルドに敵対の意思はない。
バーストが言いたいことはこれだろうと、レインは悟った。
そして悟った上で言葉を返す。
「……それはこの都市の兵士とで同じだろう?
こちらからしたらどっちも似たようなものだ」
「ああ――そうか、そう言われたらそうなるか」
どちらも治安維持が表向きの目的であることは変わらない。
しかし国の兵士たちは今まで監視団をないがしろにしてきた。
ギルドとは今まで絡みがなかったが、監視団としてはどちらも同じ。
人間の武力集団で、表向きは治安維持が目的なところも一緒ときた。
疑わないのが無理であり、バーストもそれについて反論できなかった。
「まあ、細かい話は後でマスターと話してみてくれ。
正直、うちらはあんたたちとは仲良くしたいとずっと思ってたんだ」
「ふっ、そうだな。これが終わったら話してみるとしよう」
そんなバーストが選んだ答えは他人任せ。
レインはそんな彼に少し笑いながらも承諾した。
人間の味方が多いに越したことはない。
今まではそこまで気にしてなかったが、アユムとの出会いで考え方が少し変わったレインだった。
しかし、今はそう笑い合っている時間がない。
「――今から建物内に入る。
人間側の証人として一緒に来てほしいのだが、頼めるか」
「あ、それなら私が行くよ!
ここは私よりリーダーがドンと構えていたほうが抑制になりそうだし」
「そうだな、たの――何だ、この魔力反応は!?」
外の状況がほぼ整理され、中に入ろうとしたその時。
尋常ではない魔力反応をそこにいる全員が感じた。
その反応の元は――――今、アユムたちが捕まっている五階。
開かれた窓からも覗き見える赤いマナーが禍々しく光ってるように見えた。
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〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
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