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第2章 自由の意味
15.向き合うことに意味があるなら ①/神685-5(Imt)-2
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降神の場に来たのはこれが二度目。
降神を試したのもまた二回目になる。
私が異世界の一般的な村や都市がどんな物がわからないのと同じように。
どういうものが一般的な降神なのかもまたわからない。
今のところ成功率10割だしな。
そもそも何であれで成功するんだ?
――まあ、それは良い。
言いたいことは、降神の場に再現されるという神の領域のことだ。
フォレストの領域は、青空と巨大な葉っぱ。
その壮大で異質な光景は神の空間だと思わせるようなものだった。
しかし、ここはどうも、そんな気がしない。
「これが、神の領域……?」
祭壇周りの地面に描かれているデカイ魔法陣。
ただ、その地面は木造であり、そこかしこには本棚が存在していた。
本以外にも、どっかで見たような研究用道具みたいなのが転がってた。
こんなの、ただのでっかい研究室じゃねーか。
「でしょ? 神の威厳なんてどこにもないでしょ?
その辺りどう思うのよ、イミテー」
そして、ポツンと置いてあるテーブル周りには二人の女性が座っていた。
黄色い髪を短く切っていて、畑仕事で着そうな簡素な服装に白いエプロン。
利発そうに見えて、気難しいような顔をした彼女は横にあるイミテーという女性に話しかける。
「どうでも、そんなの興味ないし」
もう一人は黒い髪を長く伸ばしている。
綺麗にストレートに流れる髪とは裏腹に、その表情は凄く怠そうだ。
ボディーラインが強調されるような黒いインナーに、魔女を連想させる服装。
真っ赤な瞳も重なって、凄く挑発的に見えた。
「もう、アユムさん! しっかりしてください!」
そしてその考えは、間近で聞こえたフォレストの声で中断された。
今までのように頭ではなく、すぐ側にいるような感覚に振り返る。
そこには案の定、フォレストの姿がそこにあった。
「――フォレスト?」
「はい、私ですよ。
腕輪を起点にしてこちらに転移しました、ご心配には及びません」
「心配ってわけじゃなくて――いやまあ、良いけど」
なぜここに来たのかを聞きたかったのだが……。
でもまあ、別に良いだろう。
逆にこちらの事情を知っているし、私もフォレストを知っている。
あそこに座っている神の二柱よりは信用できるし。
「まあ、嫌われたものね」
「じゃあ逆に聞きますが、私があなた達に好感を持ってるとでも思ったんですか」
「それは無いね、論理的に考えても論外。
そういう知った上での態度は良くないよプリエ」
「ふん、性分なだけよ」
そっぽを向きながら、答えるその声には聞き覚えがあった。
先程の降神の場で、ポソッと聞こえてきたその声だ。
そして、《プリエ》という名前。
ということは、この神の正体は――
「そう、私こそが穀物と活力を司る神、プリエよ。
私が担当してた月に呼ばれた貴方に興味があって同席させてもらったわ」
「それと、推察の通りに私はイミテー。
服装周りは面倒くさいからこうしてるだけ。
――内服と外套だけあれば、他は別にどうでも良くない?」
「良くないわよ、この駄女神!」
「いひゃいいひゃい」
――これはまた、中々濃い神たちだ。
こういうところを見ると、まだ異世界って気分にはなれるのだが。
最初に会ったのがフォレストだったためか、巫山戯てるようにしか見えない。
そう思ってフォレストを振り返ってみると、返ってきたのはため息だった。
「誠に残念ながら、これが素なんです……」
「――初対面の神が君で本当に良かったと今、思ってるよ」
「嬉しい評価ですが、複雑な気分ですね……」
「本当に、心から同情する」
「ちょっとそこ! 扱いひどくない!?」
やはり神なんてろくなもんが無い。
そう考えを改めてるとあっちの方から立ち上がっては、勇み足で歩いてきた。
表情からご機嫌斜めなのは何となく伝わってくる。
でも、残念ながらこっちだって別に穏やかというわけではない。
――改めて考えるとフォレストがいてくれて助かったかもしれない。
フォレストがなかったら、ここで私が切れなかった自信がない。
「その辺り、どう思います?」
前置きなしで、そのまま目の前のご機嫌な神さんに聞いてみた。
そうすると、さっきまでの表情はどこかに消えた。
代わりに顔に浮かんだのは、体相応に見える可愛い表情だった。
「さあ? 起こらなかった事は心配しないことにしてるの。
そんなことよりも、現実的な話をしましょう?
私、あんたのことが気になってここに来たんだから」
「――はあ」
「ねえ、今までどうやって生きてきたの?
確か、最初はこっちの都市内で捕まってたんだよね?
そこからエルフ達に助けられたのまでは知ってるけど、その後はわかんないのよ。
人間がエルフ達に囲まれて普通に生活できたはずもないのに、
何故かエルフを大勢連れて都市内に入ってきたし」
――――ふう。
心の中で一度、深呼吸をする。
もし、あの絶対神というやらがこれを見越して私をエルフに助けさせたのなら。
こればかりは、感謝せざるを得なくなった。
もちろん感謝なんかしないが。
私が思っている神なんて連中は、最初からこんなだった。
自分勝手で強情で、自分の事しか頭にない。
そんな癖に力だけはあるから手に負えない。
ここで私が、先程の自分の言葉を口にすればどうなるだろうか。
《聞いたのは私で、私の質問に答えるのが先だ》と言えば。
あまり良い光景は浮かばないが、こんな質問に私が答える義理もない。
ここはやはり――――
「はあ、私が来て正解でした」
「――フォレスト?」
フォレストは私の声には答えず、そのまま一歩踏み出す。
例のご機嫌神もそんなフォレストの方に視線を向けて、向かい合う形となる。
堂々としているフォレストに対し、ご機嫌神はその視線を受け一歩下がる。
「な、なによ」
「プリエ、いい加減にしなさい。
それ以上、勝手な言動をするのならオーワン様に報告します。
――貴女も、母様から聞いているはずですが?」
「それは、そうなんだけど……少しぐらい良いでしょう!
少し話を聞きたいってだけで別に助けないとは――」
「順番があります。
少しは、相手のことも考えてください。
それとも、普段は穀物しか相手しないからこういう気配り方も忘れたんですか?」
「な――――」
わお、凄い毒舌。
普段のフォレストを知ってる分、ギャップが激しい。
こんな、人を辱めるような言葉は使わない印象だったのに。
それに、さっき言った絶対神の言葉も気になる。
『後で全部説明します、今はじっとしてください。
――それと、これはアユムさんの真似です』
その瞬間、間髪入れずに頭に響くフォレストの念話。
そうか、ここでも腕輪の通信機能は使えるのか。
というか私の真似、いや、まあ確かに、言いそうな言葉だけど。
――何か納得いかない。
どっちにしろ後で説明してくれるのなら、それは後にしよう。
まあ、今は私が出るよりフォレストが出たほうが良さそうだから、
とりあえず黙ってることにしよう。
「まずはプリエ。貴女はアユムさんを見るために来ただけですよね?」
「まあ、そうよ。一応はイミテーの監視っていう名目もあるけど」
「まあ、そこは感謝します。
そこでイミテー、今回の降神は貴女宛てのものです。
しかし見たところ、先程の光もプリエの独断ですよね。
――これ以上の言葉は要りますか?」
そう言って、睨んでくるフォレストの視線を受けた……駄女神。
びくともせずに、笑顔まで浮かばせながら返す。
「フォレストのそういうところ、私は好きよ。
確かに今回は私が悪かった――アユムだっけ?
悪いわね、君の暴れっぷりが見たくて少し遅らせようとしたのだけど――
プリエがそのままこっちに呼んじゃってね」
「イ・ミ・テー?」
「ううっ、ごめんなさい」
そして、結局は駄女神までもがその尻尾をおろした。
――フォレストって、神の中ではどれくらいの位置なんだろう。
そもそも、神同士で上下関係は存在するのか?
いくら正論と言っても、一人の神に二人が何も言い返せないのは不思議に見えた。
「神に上下なんてありませんよ。
オーワン様は上と言えるでしょうが、あの方も過度な干渉はしませんからね」
「本当に?」
「まあ、アユム様は納得できないかもしれませんが、本当です」
そう言って、フォレストは何もないところから木材の椅子を二つ作り出す。
そして、その椅子を駄女神が座っているテーブル近くに置いたフォレスト。
フォレストはそのままくるりと回り私の近くまで来ては、私の手を掴んだ。
「さあアユム様、とりあえず座りましょう?
恐らく長話になるでしょうから」
「諸々、説明してくれるのか?」
「はい、自分の知ってることもそうですが、なるべくこの子達にも吐かせましょう」
「フォレストって、もう少し言葉遣いが柔らかくなかったっけ?
おい、異世界人! フォレストに何を吹き込んだ――」
「プ・リ・エ?」
「ひっ!?」
フォレストが無双してる。
これが、私の真似だって?
――どうも納得いかない。
私がこんな圧迫感を演出できるわけがないじゃないか。
「どにかく、座りますね」
「どうぞー、歓迎するよー」
ずっと怠い顔で、ご機嫌神とフォレストのやり取りを傍観してた駄女神。
彼女は歓迎の言葉と共にコップを作りだしては、ポットにあるお茶を注いだ。
お茶からは美味しい紅茶の香りがしている。
この駄女神がイミテーか……確か、探求と空想を司っている神と言ってたっけ。
「そうだよ、探求と空想――つまり思考回路を回す全ての行動を私は尊重する。
その意味でも私は君に興味があるんだよ、アユムくん。
それこそ君という人間がこの世界に来る以前から興味があった」
「来る、以前」
「そう、これは嘘でも何でもない。
私は探求・思索する全ての行動を尊重し、それの手助けをする神だ。
その意味でも君は私に取って非常に興味深い存在になる。
君にとっても、私という神は親しくしておいて損はないだろう」
――前々から、疑問はあった。
いや、それこそ最初から疑問は尽きなかった。
何で、よりにもよって私がここに呼ばれたのか。
前に、フォレストと初めて会ったその時。
絶対神とかいうやつから二つの情報を提供するように言われたと言ってた。
一つは私が初めてこの世界に来た時の話。
あの取引の場に現れたのは偶然ではないということ。
もう一つは帰還方法が存在するということ。
全てこの世界に来てからの情報で、何故ここに来たかに対する答えにはならない。
そう考えた時、この駄女神の言葉はどうだ?
私がここに《来る以前》から興味があった。
というのは、その何故に関する答えにつながらないか?
前から私のことを知ってたのか、或いは別の理由か。
どちらにしろ、こいつがその言葉を口にしたというのは――
「そう、私にはそれを話す用意がある。
そして、今の君にはこれを聞く資格があると判断した」
「その資格とは?」
「この世界の在り方に疑問を抱いている。
異世界人だからこその価値観が、そのまま資格の証明となる。
それと呼び方はどうでも良いけど、面倒くさいから名前で読んでくれない?
あそこのご機嫌神さんも一緒に、敬称なしでも良いから」
「誰がご機嫌神よ!」
「――了解しました」
駄女神……イミテーの言葉にムキーとなりながらも、名前周りのことを訂正しないというのは、同意見だということだろう。
――まあ、別に良いけどね、呼び名なんて。
そんなことよりも、このイミテーという神。
先程から気になるキーワードばかり投げてくる。
資格の証明が《この世界の在り方に疑問を抱いている》ことって。
それじゃまるで、疑問を抱いて欲しかったと言ってるようなものじゃないか。
イミテーをじっと見つめてみるが、彼女はびくともしない。
何も知らない風に笑顔を浮かべてはのうのうとお茶を飲むだけだった。
考えを読める神が、私の心中を読んでないはずもないだろうに。
口に出して言葉にしろということか。
「とりあえず、そこのプリエも、フォレストも座ったらどうだ?」
「――むう、癪だけど良いわ。ご機嫌神なんかよりはマシだし」
「プリエも座るようなので、私も座りましょう」
「何よ、私だって別に手を出したりはしないわよ。失礼だわ」
そうやって、テーブルの周りには私と、神三柱が集まった。
今回、私が求めるのは少しの情報と、答え合わせ。
今まで私が疑問に思った全てが、答えに繋がってる気がしている。
不安も恐怖もあるけど、ここまで来た以上はもう戻れない。
選んだ道を進むしか無いのなら、その苦楽の全てを楽しもうとしよう。
――――さあ、楽しい尋問会の始まりだ。
降神を試したのもまた二回目になる。
私が異世界の一般的な村や都市がどんな物がわからないのと同じように。
どういうものが一般的な降神なのかもまたわからない。
今のところ成功率10割だしな。
そもそも何であれで成功するんだ?
――まあ、それは良い。
言いたいことは、降神の場に再現されるという神の領域のことだ。
フォレストの領域は、青空と巨大な葉っぱ。
その壮大で異質な光景は神の空間だと思わせるようなものだった。
しかし、ここはどうも、そんな気がしない。
「これが、神の領域……?」
祭壇周りの地面に描かれているデカイ魔法陣。
ただ、その地面は木造であり、そこかしこには本棚が存在していた。
本以外にも、どっかで見たような研究用道具みたいなのが転がってた。
こんなの、ただのでっかい研究室じゃねーか。
「でしょ? 神の威厳なんてどこにもないでしょ?
その辺りどう思うのよ、イミテー」
そして、ポツンと置いてあるテーブル周りには二人の女性が座っていた。
黄色い髪を短く切っていて、畑仕事で着そうな簡素な服装に白いエプロン。
利発そうに見えて、気難しいような顔をした彼女は横にあるイミテーという女性に話しかける。
「どうでも、そんなの興味ないし」
もう一人は黒い髪を長く伸ばしている。
綺麗にストレートに流れる髪とは裏腹に、その表情は凄く怠そうだ。
ボディーラインが強調されるような黒いインナーに、魔女を連想させる服装。
真っ赤な瞳も重なって、凄く挑発的に見えた。
「もう、アユムさん! しっかりしてください!」
そしてその考えは、間近で聞こえたフォレストの声で中断された。
今までのように頭ではなく、すぐ側にいるような感覚に振り返る。
そこには案の定、フォレストの姿がそこにあった。
「――フォレスト?」
「はい、私ですよ。
腕輪を起点にしてこちらに転移しました、ご心配には及びません」
「心配ってわけじゃなくて――いやまあ、良いけど」
なぜここに来たのかを聞きたかったのだが……。
でもまあ、別に良いだろう。
逆にこちらの事情を知っているし、私もフォレストを知っている。
あそこに座っている神の二柱よりは信用できるし。
「まあ、嫌われたものね」
「じゃあ逆に聞きますが、私があなた達に好感を持ってるとでも思ったんですか」
「それは無いね、論理的に考えても論外。
そういう知った上での態度は良くないよプリエ」
「ふん、性分なだけよ」
そっぽを向きながら、答えるその声には聞き覚えがあった。
先程の降神の場で、ポソッと聞こえてきたその声だ。
そして、《プリエ》という名前。
ということは、この神の正体は――
「そう、私こそが穀物と活力を司る神、プリエよ。
私が担当してた月に呼ばれた貴方に興味があって同席させてもらったわ」
「それと、推察の通りに私はイミテー。
服装周りは面倒くさいからこうしてるだけ。
――内服と外套だけあれば、他は別にどうでも良くない?」
「良くないわよ、この駄女神!」
「いひゃいいひゃい」
――これはまた、中々濃い神たちだ。
こういうところを見ると、まだ異世界って気分にはなれるのだが。
最初に会ったのがフォレストだったためか、巫山戯てるようにしか見えない。
そう思ってフォレストを振り返ってみると、返ってきたのはため息だった。
「誠に残念ながら、これが素なんです……」
「――初対面の神が君で本当に良かったと今、思ってるよ」
「嬉しい評価ですが、複雑な気分ですね……」
「本当に、心から同情する」
「ちょっとそこ! 扱いひどくない!?」
やはり神なんてろくなもんが無い。
そう考えを改めてるとあっちの方から立ち上がっては、勇み足で歩いてきた。
表情からご機嫌斜めなのは何となく伝わってくる。
でも、残念ながらこっちだって別に穏やかというわけではない。
――改めて考えるとフォレストがいてくれて助かったかもしれない。
フォレストがなかったら、ここで私が切れなかった自信がない。
「その辺り、どう思います?」
前置きなしで、そのまま目の前のご機嫌な神さんに聞いてみた。
そうすると、さっきまでの表情はどこかに消えた。
代わりに顔に浮かんだのは、体相応に見える可愛い表情だった。
「さあ? 起こらなかった事は心配しないことにしてるの。
そんなことよりも、現実的な話をしましょう?
私、あんたのことが気になってここに来たんだから」
「――はあ」
「ねえ、今までどうやって生きてきたの?
確か、最初はこっちの都市内で捕まってたんだよね?
そこからエルフ達に助けられたのまでは知ってるけど、その後はわかんないのよ。
人間がエルフ達に囲まれて普通に生活できたはずもないのに、
何故かエルフを大勢連れて都市内に入ってきたし」
――――ふう。
心の中で一度、深呼吸をする。
もし、あの絶対神というやらがこれを見越して私をエルフに助けさせたのなら。
こればかりは、感謝せざるを得なくなった。
もちろん感謝なんかしないが。
私が思っている神なんて連中は、最初からこんなだった。
自分勝手で強情で、自分の事しか頭にない。
そんな癖に力だけはあるから手に負えない。
ここで私が、先程の自分の言葉を口にすればどうなるだろうか。
《聞いたのは私で、私の質問に答えるのが先だ》と言えば。
あまり良い光景は浮かばないが、こんな質問に私が答える義理もない。
ここはやはり――――
「はあ、私が来て正解でした」
「――フォレスト?」
フォレストは私の声には答えず、そのまま一歩踏み出す。
例のご機嫌神もそんなフォレストの方に視線を向けて、向かい合う形となる。
堂々としているフォレストに対し、ご機嫌神はその視線を受け一歩下がる。
「な、なによ」
「プリエ、いい加減にしなさい。
それ以上、勝手な言動をするのならオーワン様に報告します。
――貴女も、母様から聞いているはずですが?」
「それは、そうなんだけど……少しぐらい良いでしょう!
少し話を聞きたいってだけで別に助けないとは――」
「順番があります。
少しは、相手のことも考えてください。
それとも、普段は穀物しか相手しないからこういう気配り方も忘れたんですか?」
「な――――」
わお、凄い毒舌。
普段のフォレストを知ってる分、ギャップが激しい。
こんな、人を辱めるような言葉は使わない印象だったのに。
それに、さっき言った絶対神の言葉も気になる。
『後で全部説明します、今はじっとしてください。
――それと、これはアユムさんの真似です』
その瞬間、間髪入れずに頭に響くフォレストの念話。
そうか、ここでも腕輪の通信機能は使えるのか。
というか私の真似、いや、まあ確かに、言いそうな言葉だけど。
――何か納得いかない。
どっちにしろ後で説明してくれるのなら、それは後にしよう。
まあ、今は私が出るよりフォレストが出たほうが良さそうだから、
とりあえず黙ってることにしよう。
「まずはプリエ。貴女はアユムさんを見るために来ただけですよね?」
「まあ、そうよ。一応はイミテーの監視っていう名目もあるけど」
「まあ、そこは感謝します。
そこでイミテー、今回の降神は貴女宛てのものです。
しかし見たところ、先程の光もプリエの独断ですよね。
――これ以上の言葉は要りますか?」
そう言って、睨んでくるフォレストの視線を受けた……駄女神。
びくともせずに、笑顔まで浮かばせながら返す。
「フォレストのそういうところ、私は好きよ。
確かに今回は私が悪かった――アユムだっけ?
悪いわね、君の暴れっぷりが見たくて少し遅らせようとしたのだけど――
プリエがそのままこっちに呼んじゃってね」
「イ・ミ・テー?」
「ううっ、ごめんなさい」
そして、結局は駄女神までもがその尻尾をおろした。
――フォレストって、神の中ではどれくらいの位置なんだろう。
そもそも、神同士で上下関係は存在するのか?
いくら正論と言っても、一人の神に二人が何も言い返せないのは不思議に見えた。
「神に上下なんてありませんよ。
オーワン様は上と言えるでしょうが、あの方も過度な干渉はしませんからね」
「本当に?」
「まあ、アユム様は納得できないかもしれませんが、本当です」
そう言って、フォレストは何もないところから木材の椅子を二つ作り出す。
そして、その椅子を駄女神が座っているテーブル近くに置いたフォレスト。
フォレストはそのままくるりと回り私の近くまで来ては、私の手を掴んだ。
「さあアユム様、とりあえず座りましょう?
恐らく長話になるでしょうから」
「諸々、説明してくれるのか?」
「はい、自分の知ってることもそうですが、なるべくこの子達にも吐かせましょう」
「フォレストって、もう少し言葉遣いが柔らかくなかったっけ?
おい、異世界人! フォレストに何を吹き込んだ――」
「プ・リ・エ?」
「ひっ!?」
フォレストが無双してる。
これが、私の真似だって?
――どうも納得いかない。
私がこんな圧迫感を演出できるわけがないじゃないか。
「どにかく、座りますね」
「どうぞー、歓迎するよー」
ずっと怠い顔で、ご機嫌神とフォレストのやり取りを傍観してた駄女神。
彼女は歓迎の言葉と共にコップを作りだしては、ポットにあるお茶を注いだ。
お茶からは美味しい紅茶の香りがしている。
この駄女神がイミテーか……確か、探求と空想を司っている神と言ってたっけ。
「そうだよ、探求と空想――つまり思考回路を回す全ての行動を私は尊重する。
その意味でも私は君に興味があるんだよ、アユムくん。
それこそ君という人間がこの世界に来る以前から興味があった」
「来る、以前」
「そう、これは嘘でも何でもない。
私は探求・思索する全ての行動を尊重し、それの手助けをする神だ。
その意味でも君は私に取って非常に興味深い存在になる。
君にとっても、私という神は親しくしておいて損はないだろう」
――前々から、疑問はあった。
いや、それこそ最初から疑問は尽きなかった。
何で、よりにもよって私がここに呼ばれたのか。
前に、フォレストと初めて会ったその時。
絶対神とかいうやつから二つの情報を提供するように言われたと言ってた。
一つは私が初めてこの世界に来た時の話。
あの取引の場に現れたのは偶然ではないということ。
もう一つは帰還方法が存在するということ。
全てこの世界に来てからの情報で、何故ここに来たかに対する答えにはならない。
そう考えた時、この駄女神の言葉はどうだ?
私がここに《来る以前》から興味があった。
というのは、その何故に関する答えにつながらないか?
前から私のことを知ってたのか、或いは別の理由か。
どちらにしろ、こいつがその言葉を口にしたというのは――
「そう、私にはそれを話す用意がある。
そして、今の君にはこれを聞く資格があると判断した」
「その資格とは?」
「この世界の在り方に疑問を抱いている。
異世界人だからこその価値観が、そのまま資格の証明となる。
それと呼び方はどうでも良いけど、面倒くさいから名前で読んでくれない?
あそこのご機嫌神さんも一緒に、敬称なしでも良いから」
「誰がご機嫌神よ!」
「――了解しました」
駄女神……イミテーの言葉にムキーとなりながらも、名前周りのことを訂正しないというのは、同意見だということだろう。
――まあ、別に良いけどね、呼び名なんて。
そんなことよりも、このイミテーという神。
先程から気になるキーワードばかり投げてくる。
資格の証明が《この世界の在り方に疑問を抱いている》ことって。
それじゃまるで、疑問を抱いて欲しかったと言ってるようなものじゃないか。
イミテーをじっと見つめてみるが、彼女はびくともしない。
何も知らない風に笑顔を浮かべてはのうのうとお茶を飲むだけだった。
考えを読める神が、私の心中を読んでないはずもないだろうに。
口に出して言葉にしろということか。
「とりあえず、そこのプリエも、フォレストも座ったらどうだ?」
「――むう、癪だけど良いわ。ご機嫌神なんかよりはマシだし」
「プリエも座るようなので、私も座りましょう」
「何よ、私だって別に手を出したりはしないわよ。失礼だわ」
そうやって、テーブルの周りには私と、神三柱が集まった。
今回、私が求めるのは少しの情報と、答え合わせ。
今まで私が疑問に思った全てが、答えに繋がってる気がしている。
不安も恐怖もあるけど、ここまで来た以上はもう戻れない。
選んだ道を進むしか無いのなら、その苦楽の全てを楽しもうとしよう。
――――さあ、楽しい尋問会の始まりだ。
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強制力がなくなった世界に残されたものは
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一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
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16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
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