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第2章 自由の意味
11.進んだ先にあったもの ②/神685-4(Pri)-27
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起きた時には教会の自分の部屋だった。
眼の前にはエレミアやエリアを含めた全員が私の目覚めを待っていた。
起きた私を見て、涙を流しながら喜び、また怒られた。
レインさんとかは後で稽古を付けてやるとか言ってたけど。
正直、ただ私を合理的に殴りたいだけのようにも思えて悪寒が背中を走った。
エリアも自分に言ってくれなかったことを大分気にしていた。
エレミアに関してだけは、別途で時間を作って話し合おうと言われたけど。
因みに体の方は、大分良くはなったけどまだ全快とは言えない。
どれくらい良くなったかというと、軽く歩いたりするのは問題ないくらい。
やらかしたことを考えると、治るのがすごく早いと思った。
フォレストの全面的な支援と、腕輪がなかったらこう早くはいかなかったらしい。
腹のほうには精神体の時見た傷跡がそのまま残っていた。
消すことは出来るらしいが、わざと残したらしい。
とりあえず男だから、そこまで気にするものでもないというのが一つ。
それを見れば、二度とそんな馬鹿げた真似はしないだろうというのがもう一つだ。
因みに、レミアさんから聴いた話になる。
そんなこんながあって、レミアさんが作ってくれたお粥を少し食べた。
そして食べながら、倒れていた時に起こった出来事を一通り聞かせてもらった。
「――」
こっちも予想とは少々、いやかなり違ってた。
本来、私は既に村から追放されるのは確定していて、エレミアも最悪、後継者の座を降りられる状況まで行くと思っていた。
しかし私は未だ追放されて無く、エレミアは自分から後継者の座を降りたという。
それにも大分驚かされたが、それより驚きなのは村のエルフ達の反応だった。
「……そんなに、私は痛ましく見えたのでしょうか」
「やっぱり、本人にはわからないもののようですね」
村長を含めた全てのエルフが、私に謝罪を送ったらしい。
これがあの処刑の場での一件があってからの態度だから正直信じきれないが。
とりあえず今は、村の全員が私に刑を執行させた事を後悔してるという。
正直、私だけではここまで態度は変わらなかっただろう。
レミアさん達と、後ろのフォレストまで姿を表したのが大きいと思える。
まあ、大きいというかそれが全部だろう。
ただ、私を除いた四人はそう思ってないらしい。
どうも納得できない気持ちになる。
やはり他人の気持ちはわからない。
自分で自分の姿は見れないから、理解できなくて当然かもしれないが。
まあどっちにしろ、見えるところだけ見れば、予想より良い結果ではあった。
彼らの謝罪は流石に信じきれないけど。
「そもそもアユム様は自己評価が低すぎます、よく自虐されますし」
「そうだ、今回の一件だけ見ても、お前がどれだけ自分自身を軽んじてるのかがわかるというものだ」
「――いや、実際にただのお荷物でしょう私は。
確か初日に言いませんでした? この世界で出来ることなんてないんですよ?」
「だから、私が言ったでしょう、これから探そうって。
大丈夫、貴方の居場所は私が見つけてあげるから」
「いや、というか、私は君にこれ以上の迷惑は掛けまいと思って――」
「――はい、その話はそこまで! また後で話しましょう。
ここでは今後どうするかを決めるのが先決だし」
……確かに今ここで話す話題ではないな。
それは後で、出来れば二人っきりで話すのが好ましい。
私も細かいことは後回しにして、今後の予定を考えよう。
「でも、予定と言っても――
例の商人の頼みを聞いてあげる以外には思い浮かばないというか」
「残された家族への伝言だったか。
確かに、約束した以上は守らないとならんな。
でも、先ずは君自身のことを考えよう」
レインさんに言われてハッとする。
この村や世界に適応することに夢中になって自分のことは完全にスルーしてた。
確かにこの村に来たばかりの頃は、ちゃんと意識してたんだけど……。
中々上手くいかないから気にする暇がなくなってた。
「私自身……この世界に呼ばれた理由と、元の世界に戻る方法を探すことですね」
結局の所、未だ理由はわからないままだ。
何かの理由があるのと、戻る方法があるというのは確かフォレストから聞いてた。
そしてその全ての黒幕は絶対神オーワンと呼ばれる神というのも。
「絶対神っていうオーワンとやらに会うためには、どうすれば良いんでしょうか?」
「アユム様、仮にも万物の神に当たる方をそう雑に呼んでは――」
「そんなの知りませんよ。
そいつが私を呼んだというのだけフォレスト――様から聞いてます。
私が知りたいことを知るためには、その神に会うのが一番良いかと思います」
「でも、確かオーワン様の神殿は存在しないのでは?」
「――そうなのか?」
疑問を持ちかけたのはエリアだ。
村ごとに協会が存在するらしいし、人間を選ばれた種族とか言ってるから、てっきり人間の村のどこかにあると思ったんだけど……。
「オーワン様は全ての神の頂点に立つ存在です。
この世界を創造した方でもあるため、教会は必要ありません。
願われるのなら、どこにでもその姿を表すことでしょう」
「裏を返すと、向こうからその気にならなければ、その面を拝めることも出来ないということですか、忌々しい」
「――アユムって、もしかして相当性格が悪かったりする?」
「《普段は猫かぶってるから注意しろ》と、フォレスト様から伝言を預かってます」
「逆に、どこを見れば俺の性格が良いと思えるのかを知りた――いや、悪い。
少し興奮した」
相当気が緩んでいる。
結果はどうあれおの村での問題は一段落したからだろうか。
ついつい、本音をそのまま出してしまった。
私の発言に疑いの目を更に深くして迫ってくるエレミア。
よく見れば、エリアやレインさん辺りも注目している。
「そういえば、アユムってあの処刑の時、自分の事を《俺》と言ってたよね。
いつもは《私》で通してるのに。
それになんか、最初の印象と今ってずいぶん違って見えるし」
「わざと意識を切り替えてるだけだ。
誰にも見せたくない本音というのはあるものだし、これくらい普通だろう。
私のは逆にわかり易すぎるのが問題だと思うが?」
「普通じゃないよ――それが異世界の普通なの?」
そう面と向かって否定されてもな……。
私としてはわざと言葉を頭で検閲してるから、逆に本当の姿を知ってる人には簡単に見分けられると思うが。
とりあえず無視して話を進めるか。
「じゃあ人間たちの村の神殿はどういう神殿なんですか?
人間の神がいるのでしょうか?」
「いいえ、人間は特定の神を崇めてません。
人間側の神殿は、神に祈りを捧げるための場所という感じですね。
該当する月の神か、或いはそれ以外の神に向けて祈りを捧げるのが主らしいです」
「該当する月の神?
――ああ、確かそれぞれの月に神の名前がついてるんでしたよね」
「そうですね。
今月はプリエ様ですし、来月からはイミテー様の月になります」
崇める神はないけど村ごとに教会は存在するのか、それも、人間だけ。
他の種族はそれぞれの神を崇めているということか……?
確かにエルフはフォレストを崇めるのが当然のように思えるけど、何で人間は?
――いや、止めとこう。
また長くなりそうだ。
なぜ同じ教会でこうも違うのかは気になるが、それの考察は後回しにしよう。
でも、神に会うという選択肢は間違ってない気がする。
「どっちにしろ、そのインルーというところに行くのが最初の課題ですね。
その辺りは大丈夫なんですか?」
「そこは心配ない。インルーならちょうど良いくらいだ」
「ちょうど良い?」
「ああ――私が村でどういう役割を持ってるかを覚えてるか?」
「レインさんの役割――確か、監視団長でしたようね?」
「よく覚えてたな。
そう、つまりは監視団の長というわけだ。
なら、そのエルフの監視団は誰を監視してると思う?」
エルフが誰を監視するのか。
同じ同族のエルフを監視するはずはない。
一人や二人ではなく組織として監視を行うとすれば、その対象は明らかだった。
でも――――
「人間、だとは思います。
だけど、人間はエルフを奴隷として売ってるのでしょう?
事実関係ははっきりしてるなら敢えて監視する理由はないのでは?」
「それがそうでもない。
確かに人間はエルフを奴隷で売ってるし、こちらには証拠もある。
しかし人間の国の方では知らぬ存ぜぬの一点張りだ。
種族関係なく禁止してると言ってるし、告発しても当事者の処罰のみ。
今回の件も部下たちが既に告発したはずだが、良い答えはもらえないだろう」
「――だからこその監視、商売として成り立つ理由を調べるためのものですか。
人間側と表側まで敵対しているわけではないのですね」
「ああ、そしてそれに関しては人間側に協力を申し出ている。
こっちでそれらを監視できるように都市内に入れる資格をな。
向こうの言ってることと行われてることが違うんだ、拒否はできない」
「都市内……それが、インルーなのですか」
「その通りだ、ここから一番近いところでもあるしちょうど良かった。
まあ、こちらとしてはいい加減にしたい気持ちはあるがな。
敵対したいんなら面と向かって態度で示してほしいものだ」
《なら監視などせずにこちらも気軽にヤれる》と続いたレインさんの言葉。
その言葉で大体の事情は察した。
異世界の人間も普通に人間してそうで何より、学ぶものが一つ減った。
まあ、そちらに関しては置いておこう。
監視団が例のインルーないで活動してるのならたしかに好都合だ。
目的地が見えただけでよしとするか。
「ではそうしましょう、今のところそれが最善のように思えます」
「了解した。村での滞在も長くなりすぎたし、ちょうど良い」
「拠点もそのインルーの中なのですか?」
「いや、拠点は別途で都市近くに作ってある。
本来なら今頃、そっちに戻る準備――というか既に戻ってるはずだがな。
お前の件が中々片付かないから長引いてしまった」
「何か……すみません」
「いや、それは良い。お前のせいでもないしな」
そう言うレインさんの声は最初の頃に比べればかなり優しい音色だった。
出会った最初と比べれば天と地ほどの差がある。
あのレントとかいう警備隊長とほぼ同じ任務のはずなのに。
なぜこうも違った結果になったのか、少し歯がゆさを感じた。
「――で、話は終わった?」
「まあ、今後の予定は決まったけど」
「じゃあ、さっきの続き。正直一発殴ってやろうかと思ったけど、
罰としてこれから私達には素で話すこと! いいね!」
「――すまん、飛躍しすぎて話が読めない」
そういや、私がレインさんと話してる時からレミアさんと話してたな。
まさか、フォレストの入れ知恵か。
「お察しの通り、神から啓示をいただきました。
敬称なしのタメ口を使わせただけでも印象が大分変わると」
「――フォレストお前、神の威厳はどこいった。
干渉はなるべくしないのではなかったのかよ!?」
「私が直接聞いて、神はそれに答えてくださっただけです。
人との付き合い方を教授して頂いただけなので問題ありません」
「――胃が痛くなってきた」
そもそも、降神の場でもないのに会話できるのか、神官だから?
別に気にしてなかったから聞かなかったけど、気になり始めた。
正直、今まで一度も突っ込まなかったけど、フォレストとレミアって似すぎてる。
たまには同一人物のようにも思えてくるぐらいだ。
「そういや、エレミアやエリアにはタメ口だったか。
確かに、そう聞くと私と会話してる時とは結構印象が違う気もするな」
「気の所為です、そこまで差はないですって!」
「じゃあ、私にもやってみろ。それで判断してやる」
「……いや、いきなりやれって言われても」
「変わった気がする。ふむ、というかなるほど、これは面白い」
「――もしかして、前回の仕返しですか?」
やったことがあるから、こう来ると反撃しにくい。
弱みを握られている分、余計にそうだった。
「まあ、ということです。
これからは全員にタメ口の敬称なしでお願いしますね、アユム様♪」
「あ、私に対してはは既にタメ口状態なので別のものを希望します」
「私も、というか当然よね!」
「――好きにしろ、はあ」
ため息を付いているけど、自分の口角が上がっているのを自覚する。
そこで、やっと実感できた。
私はこの村に馴染むことはできなかったけど。
彼女たちには馴染むことができたのだと。
未だ道は見えないけど、自分を偽らなくても良い相手は作れたのだと。
――そう思うと、少しだけ心のつかえが取れた気がした。
眼の前にはエレミアやエリアを含めた全員が私の目覚めを待っていた。
起きた私を見て、涙を流しながら喜び、また怒られた。
レインさんとかは後で稽古を付けてやるとか言ってたけど。
正直、ただ私を合理的に殴りたいだけのようにも思えて悪寒が背中を走った。
エリアも自分に言ってくれなかったことを大分気にしていた。
エレミアに関してだけは、別途で時間を作って話し合おうと言われたけど。
因みに体の方は、大分良くはなったけどまだ全快とは言えない。
どれくらい良くなったかというと、軽く歩いたりするのは問題ないくらい。
やらかしたことを考えると、治るのがすごく早いと思った。
フォレストの全面的な支援と、腕輪がなかったらこう早くはいかなかったらしい。
腹のほうには精神体の時見た傷跡がそのまま残っていた。
消すことは出来るらしいが、わざと残したらしい。
とりあえず男だから、そこまで気にするものでもないというのが一つ。
それを見れば、二度とそんな馬鹿げた真似はしないだろうというのがもう一つだ。
因みに、レミアさんから聴いた話になる。
そんなこんながあって、レミアさんが作ってくれたお粥を少し食べた。
そして食べながら、倒れていた時に起こった出来事を一通り聞かせてもらった。
「――」
こっちも予想とは少々、いやかなり違ってた。
本来、私は既に村から追放されるのは確定していて、エレミアも最悪、後継者の座を降りられる状況まで行くと思っていた。
しかし私は未だ追放されて無く、エレミアは自分から後継者の座を降りたという。
それにも大分驚かされたが、それより驚きなのは村のエルフ達の反応だった。
「……そんなに、私は痛ましく見えたのでしょうか」
「やっぱり、本人にはわからないもののようですね」
村長を含めた全てのエルフが、私に謝罪を送ったらしい。
これがあの処刑の場での一件があってからの態度だから正直信じきれないが。
とりあえず今は、村の全員が私に刑を執行させた事を後悔してるという。
正直、私だけではここまで態度は変わらなかっただろう。
レミアさん達と、後ろのフォレストまで姿を表したのが大きいと思える。
まあ、大きいというかそれが全部だろう。
ただ、私を除いた四人はそう思ってないらしい。
どうも納得できない気持ちになる。
やはり他人の気持ちはわからない。
自分で自分の姿は見れないから、理解できなくて当然かもしれないが。
まあどっちにしろ、見えるところだけ見れば、予想より良い結果ではあった。
彼らの謝罪は流石に信じきれないけど。
「そもそもアユム様は自己評価が低すぎます、よく自虐されますし」
「そうだ、今回の一件だけ見ても、お前がどれだけ自分自身を軽んじてるのかがわかるというものだ」
「――いや、実際にただのお荷物でしょう私は。
確か初日に言いませんでした? この世界で出来ることなんてないんですよ?」
「だから、私が言ったでしょう、これから探そうって。
大丈夫、貴方の居場所は私が見つけてあげるから」
「いや、というか、私は君にこれ以上の迷惑は掛けまいと思って――」
「――はい、その話はそこまで! また後で話しましょう。
ここでは今後どうするかを決めるのが先決だし」
……確かに今ここで話す話題ではないな。
それは後で、出来れば二人っきりで話すのが好ましい。
私も細かいことは後回しにして、今後の予定を考えよう。
「でも、予定と言っても――
例の商人の頼みを聞いてあげる以外には思い浮かばないというか」
「残された家族への伝言だったか。
確かに、約束した以上は守らないとならんな。
でも、先ずは君自身のことを考えよう」
レインさんに言われてハッとする。
この村や世界に適応することに夢中になって自分のことは完全にスルーしてた。
確かにこの村に来たばかりの頃は、ちゃんと意識してたんだけど……。
中々上手くいかないから気にする暇がなくなってた。
「私自身……この世界に呼ばれた理由と、元の世界に戻る方法を探すことですね」
結局の所、未だ理由はわからないままだ。
何かの理由があるのと、戻る方法があるというのは確かフォレストから聞いてた。
そしてその全ての黒幕は絶対神オーワンと呼ばれる神というのも。
「絶対神っていうオーワンとやらに会うためには、どうすれば良いんでしょうか?」
「アユム様、仮にも万物の神に当たる方をそう雑に呼んでは――」
「そんなの知りませんよ。
そいつが私を呼んだというのだけフォレスト――様から聞いてます。
私が知りたいことを知るためには、その神に会うのが一番良いかと思います」
「でも、確かオーワン様の神殿は存在しないのでは?」
「――そうなのか?」
疑問を持ちかけたのはエリアだ。
村ごとに協会が存在するらしいし、人間を選ばれた種族とか言ってるから、てっきり人間の村のどこかにあると思ったんだけど……。
「オーワン様は全ての神の頂点に立つ存在です。
この世界を創造した方でもあるため、教会は必要ありません。
願われるのなら、どこにでもその姿を表すことでしょう」
「裏を返すと、向こうからその気にならなければ、その面を拝めることも出来ないということですか、忌々しい」
「――アユムって、もしかして相当性格が悪かったりする?」
「《普段は猫かぶってるから注意しろ》と、フォレスト様から伝言を預かってます」
「逆に、どこを見れば俺の性格が良いと思えるのかを知りた――いや、悪い。
少し興奮した」
相当気が緩んでいる。
結果はどうあれおの村での問題は一段落したからだろうか。
ついつい、本音をそのまま出してしまった。
私の発言に疑いの目を更に深くして迫ってくるエレミア。
よく見れば、エリアやレインさん辺りも注目している。
「そういえば、アユムってあの処刑の時、自分の事を《俺》と言ってたよね。
いつもは《私》で通してるのに。
それになんか、最初の印象と今ってずいぶん違って見えるし」
「わざと意識を切り替えてるだけだ。
誰にも見せたくない本音というのはあるものだし、これくらい普通だろう。
私のは逆にわかり易すぎるのが問題だと思うが?」
「普通じゃないよ――それが異世界の普通なの?」
そう面と向かって否定されてもな……。
私としてはわざと言葉を頭で検閲してるから、逆に本当の姿を知ってる人には簡単に見分けられると思うが。
とりあえず無視して話を進めるか。
「じゃあ人間たちの村の神殿はどういう神殿なんですか?
人間の神がいるのでしょうか?」
「いいえ、人間は特定の神を崇めてません。
人間側の神殿は、神に祈りを捧げるための場所という感じですね。
該当する月の神か、或いはそれ以外の神に向けて祈りを捧げるのが主らしいです」
「該当する月の神?
――ああ、確かそれぞれの月に神の名前がついてるんでしたよね」
「そうですね。
今月はプリエ様ですし、来月からはイミテー様の月になります」
崇める神はないけど村ごとに教会は存在するのか、それも、人間だけ。
他の種族はそれぞれの神を崇めているということか……?
確かにエルフはフォレストを崇めるのが当然のように思えるけど、何で人間は?
――いや、止めとこう。
また長くなりそうだ。
なぜ同じ教会でこうも違うのかは気になるが、それの考察は後回しにしよう。
でも、神に会うという選択肢は間違ってない気がする。
「どっちにしろ、そのインルーというところに行くのが最初の課題ですね。
その辺りは大丈夫なんですか?」
「そこは心配ない。インルーならちょうど良いくらいだ」
「ちょうど良い?」
「ああ――私が村でどういう役割を持ってるかを覚えてるか?」
「レインさんの役割――確か、監視団長でしたようね?」
「よく覚えてたな。
そう、つまりは監視団の長というわけだ。
なら、そのエルフの監視団は誰を監視してると思う?」
エルフが誰を監視するのか。
同じ同族のエルフを監視するはずはない。
一人や二人ではなく組織として監視を行うとすれば、その対象は明らかだった。
でも――――
「人間、だとは思います。
だけど、人間はエルフを奴隷として売ってるのでしょう?
事実関係ははっきりしてるなら敢えて監視する理由はないのでは?」
「それがそうでもない。
確かに人間はエルフを奴隷で売ってるし、こちらには証拠もある。
しかし人間の国の方では知らぬ存ぜぬの一点張りだ。
種族関係なく禁止してると言ってるし、告発しても当事者の処罰のみ。
今回の件も部下たちが既に告発したはずだが、良い答えはもらえないだろう」
「――だからこその監視、商売として成り立つ理由を調べるためのものですか。
人間側と表側まで敵対しているわけではないのですね」
「ああ、そしてそれに関しては人間側に協力を申し出ている。
こっちでそれらを監視できるように都市内に入れる資格をな。
向こうの言ってることと行われてることが違うんだ、拒否はできない」
「都市内……それが、インルーなのですか」
「その通りだ、ここから一番近いところでもあるしちょうど良かった。
まあ、こちらとしてはいい加減にしたい気持ちはあるがな。
敵対したいんなら面と向かって態度で示してほしいものだ」
《なら監視などせずにこちらも気軽にヤれる》と続いたレインさんの言葉。
その言葉で大体の事情は察した。
異世界の人間も普通に人間してそうで何より、学ぶものが一つ減った。
まあ、そちらに関しては置いておこう。
監視団が例のインルーないで活動してるのならたしかに好都合だ。
目的地が見えただけでよしとするか。
「ではそうしましょう、今のところそれが最善のように思えます」
「了解した。村での滞在も長くなりすぎたし、ちょうど良い」
「拠点もそのインルーの中なのですか?」
「いや、拠点は別途で都市近くに作ってある。
本来なら今頃、そっちに戻る準備――というか既に戻ってるはずだがな。
お前の件が中々片付かないから長引いてしまった」
「何か……すみません」
「いや、それは良い。お前のせいでもないしな」
そう言うレインさんの声は最初の頃に比べればかなり優しい音色だった。
出会った最初と比べれば天と地ほどの差がある。
あのレントとかいう警備隊長とほぼ同じ任務のはずなのに。
なぜこうも違った結果になったのか、少し歯がゆさを感じた。
「――で、話は終わった?」
「まあ、今後の予定は決まったけど」
「じゃあ、さっきの続き。正直一発殴ってやろうかと思ったけど、
罰としてこれから私達には素で話すこと! いいね!」
「――すまん、飛躍しすぎて話が読めない」
そういや、私がレインさんと話してる時からレミアさんと話してたな。
まさか、フォレストの入れ知恵か。
「お察しの通り、神から啓示をいただきました。
敬称なしのタメ口を使わせただけでも印象が大分変わると」
「――フォレストお前、神の威厳はどこいった。
干渉はなるべくしないのではなかったのかよ!?」
「私が直接聞いて、神はそれに答えてくださっただけです。
人との付き合い方を教授して頂いただけなので問題ありません」
「――胃が痛くなってきた」
そもそも、降神の場でもないのに会話できるのか、神官だから?
別に気にしてなかったから聞かなかったけど、気になり始めた。
正直、今まで一度も突っ込まなかったけど、フォレストとレミアって似すぎてる。
たまには同一人物のようにも思えてくるぐらいだ。
「そういや、エレミアやエリアにはタメ口だったか。
確かに、そう聞くと私と会話してる時とは結構印象が違う気もするな」
「気の所為です、そこまで差はないですって!」
「じゃあ、私にもやってみろ。それで判断してやる」
「……いや、いきなりやれって言われても」
「変わった気がする。ふむ、というかなるほど、これは面白い」
「――もしかして、前回の仕返しですか?」
やったことがあるから、こう来ると反撃しにくい。
弱みを握られている分、余計にそうだった。
「まあ、ということです。
これからは全員にタメ口の敬称なしでお願いしますね、アユム様♪」
「あ、私に対してはは既にタメ口状態なので別のものを希望します」
「私も、というか当然よね!」
「――好きにしろ、はあ」
ため息を付いているけど、自分の口角が上がっているのを自覚する。
そこで、やっと実感できた。
私はこの村に馴染むことはできなかったけど。
彼女たちには馴染むことができたのだと。
未だ道は見えないけど、自分を偽らなくても良い相手は作れたのだと。
――そう思うと、少しだけ心のつかえが取れた気がした。
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