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第1章 異なる現実

6.急いでも周りを見渡して ②/神685-4(Pri)-10

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「始めまして異世界人、私はエリアと言います。
 今日のところは宜しくお願いします」

 礼拝堂でレミアさんとの挨拶をそこそこに終えた彼女の最初の一言。
 前置き無しで投げられた彼女の挨拶は、中々の異質性を感じさせるものだった。

 いや、異質性とは違うか。
 むしろ馴染みのある感覚だ。
 この感覚の正体はまだはっきりとはわからないが、良い感覚じゃないのは確かだ。

「始めまして……私はアユムと呼んでくれ。
 それと、わざわざ《とりあえず》と付ける必要はあったのか?」

「貴方がいつ消えるかわかりませんし、私が今後よろしくする必要があるかもわかりませんので」

 いつ消えるかわからないのは確かにその通りだ。
 そもそもこっちに来たのだって事故のようなものだし。
 同じことが起こらないという根拠はない。
 ただ後者は――私が人間だからの態度ならまだ分かりやすいものだが。
 でも、そんなはずは無いだろう。

 ――薄々、馴染みのあるこの感覚の名前を掴めそうな気がした。
 喉元まで来ている。いや、
 ただ、最後まで決めつけたくはなかった。
 これが外見通りの少女からの視線と言葉というのが、少し悲しくなったからだ。
 どっちにしろ、この質問で嫌でも答えは出る。

「前者を否定する気は流石に無いが、後者はそれこそわからないのではないか?」

「それは今日の会合で確認したいと思います」

「そういうことか」

「そういうことです」

 やっぱり、そうだったか。
 この、人を値踏みするような視線。
 自分の益にならないのなら容赦なく切り捨てそうだ。
 人を勝手に価値付けして相手する人間の目。
 ――そして事務的な受け答え。

 この感覚の名前は――不快感だ。
 ただ、同時に彼女の姿を目にすると寂しくもある。

 なぜ、この子はこうなった。
 早くも色んな事を知りすぎたからか。
 自分より愚かに見える他の人達に付き合うのにイライラしたか。
 私にはその理由をわかる術がないし、それほどの時間をこの村で過ごせてない。

 こういう思考の持ち主は元の世界で腐るほど見た。
 むしろ逆にやりやすい。
 相手のことに気を使う必要もなく、ただ論理的に――
 この際、非論理的でも別に構わないから、こっちも同じく評価していけばいい。

 ただ状況を考えたら、ここは我慢するべきだ。
 そもそもこの子を呼んだのは私であり、味方ほしさに呼んだのも事実だ。

 それはわかってる。
 わかってはいる。
 わかってはいても、

 そう、そっちがそう来るのなら、こっちも相応しい姿勢で対処する。
 こういう相手の場合、自分が下手に出なくていいなら、こっちから切るまでだ。
 何より、

「まあ、それならこっちも歓迎しよう。
 歓迎できる立場ではないが私を会いに来たんだ、それくらいは受けるさ。
 ただ、異世界人というのは信じるんだな」

「そこで嘘を付いても貴方に益はないです。
 何より、そこで嘘を付いたのに、フォレスト様が滞在を許すはずもないでしょう」

「まあ、無いだろうね。
 得するのはないし、むしろ損しかないだろ
 ――ただ、損得だけで全てを判断するのは止めたほうが良いよ。
 足元を救われるから」

「それはどういう――――」

「まあまあ、とりあえずはお茶でも飲みましょう。
 さあ、エリアちゃんも」

「え、あ、ありがとうございます」

 雰囲気が剣呑なものになろうとする手前にレミアさんが割り込んでそれを止める。
 明らかにタイミングを見て割ってきたのは目に見えていた。

 それに、渡されたお茶がなぜか普段より熱い。
 普段なら温かさが残っていて、飲むのにちょうど良い温度で渡してくれるはずだ。
 ミスかとも思ったけどレミアさんに限ってそれはないと見た。

 もしかしたらと思いエリアの方を見たけど、特に何もなかった。
 普通にレミアさんにお礼をして何も変わったことなくお茶を愉しんでる。

 そして、そこでレミアさんと視線が合った。
 何気にこちらへと視線を送るレミアさん。
 ――それを見て少し、頭の熱が冷めた気がした

「――過ぎたものも焦らず、時間を置いてゆっくり飲めということですか」

「そうですね、時には時間が過ぎれば正しいものに変わることもあります」

「それも、一理ありますね。確かに早すぎるのは良くない」

「まだ口を当てただけですしね」

「……?」

 私とレミアさんの会話の真ん中で意味を理解せず首を傾げるエリア。
 でも、その疑問を口にする気は無さそうで、黙々とお茶を飲んでるだけだった。

 ――レミアさんは言ってた、この子は相当な知識を持っていると。
 歳が外見と変わらないとするなら、中学生か高校一年がやっとか。
 そう考えると難しい年頃でもある。

 それにこの子のことをエレミアが話す時、《妹のような子》と言ってた。
 人が良すぎるエレミアだから少し心配だが、レミアさんも彼女に対しどこか温かい目で見ている。
 そこから見て、根は悪い子ではないのかもしれない。

 そもそも私は異世界人だ。
 いや、それ以前に人間だ。
 私はここのエルフから見たらどこをどう見ても人間のはずだ。
 私がいくらこの世界の人間とは違うと言ってもそれは詭弁というもの。
 他の人間がそんなことを言ったら私も信用しない。

 つまり、エルフから見たら私こそが異種族だ。
 それもエルフと最悪の関係である人間だ。
 この態度はむしろ当然とも言える。

 なぜ私は勝手に先入観がないだろうと思い込んだ?
 フォレストが次世代の子は人間との関係を改善するよう宿せたと言ったから?

 それは言い訳だ。
 それも最悪の言い訳だ。
 この子は確かに私が異世界人であり、人間であるから会いたがっていたんだろう。
 なら、逆に人間であるから警戒するとも考えるべきだった。
 そうするべきだったのだ。

「でも、な……」

「――?」

 吐き出した言葉は拾えないし、吐き出されて耳に入った言葉も消せない。
 その時の感情に嘘はなく、このまま進んで私が折れてもこの子のためではない。
 というなら、結論としては同じ結論に至る。

 ――――ただ、結論が同じでも目的が違うのなら。
 そこにはきっと意味があるのだろう。
 うん、腹は決まった。多分これが今選択できるベストだろう。

「いや、何でもない。
 それで、君は何を聞きたい?」

「まずは貴方のことを聞かせてください」

「私のこと、か。
 それはどっちの私だ?
 異世界人としての私か? 人間としての私か? それとも人間そのものか?」

「……とりあえずは順番で異世界人として貴方から」

「了解した、とりあえずは語るとしよう」

 ――間があったな。
 三つの違いがいまいちわからなかったのだと見た。
 これがエレミアならすぐ突っ込むのだが、とりあえずは説明役に徹しよう。
 私はもう行動を変える気がないし、この後どう転ぶかは彼女次第だ。
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