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第三章

終わってゆく音がする

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 次の日、学校では犯人が捕まったという話で持ちきりであった。正門のところで岩崎と合流し、やはり僕の父が警察ということで事件について聞かれた。特に僕も詳しいことは知らないのだが。

 今日は体育の授業があり宮野は張り切っている。ドッヂボールを男女別れて行うと聞いた。僕は球技が苦手だ、水泳は得意だが。特にドッヂボールだなんて逃げることしか出来ない。コツはボールに背を見せないこと、ただそれだけである。ボールをキャッチしようという心は一心もない。他の人が取ってくれるに違いないだろうし。
 そして体育の先生に男女背の順に並べられ、一組と二組でチーム分けをされる。僕と宮野は二組で、一組にいる人はあまり覚えていない。ただ岩崎と仲の良い人がいると聞いた気がする。
 僕は皆がボールを取り合っている中、端の方で逃げるを極めている。途端、宮野に「お前もボール取れよ!」と言われたが頑固拒否していたら僕は外野になっていた。激しく、素早くボールが僕の前後を行き交う。すると僕の足に思い切り当たり、つい倒れてしまった。僕の膝が少し擦りむけて血が出ている。皆が「まさかそれで倒れるとは思わなかった、ごめん。早く保健室へ」と嫌味多く一組の人に嘲笑気味に言われた。僕だってこれだけで倒れると思っていなかった。恥ずかしい。
 保健室には先生がいなく、ただ静かに外の笑い声を聞き流すのみだった。自分で絆創膏を貼ろうと思い片手で伸ばしたのだが、もたもたしてシワができてしまう。窓から少し冷えた風とともに暖かい日差しが差し込む。揺れる葉は邪心を除いた僕の心を包み込むよう。冬の匂いがするのと同時に宮野の声がした。ドアを開けてこちらを見「今日保健の先生いないって聞いたから来てみたら、やっぱり一人で苦戦してたか。しわくちゃじゃないか」と貼りかけの絆創膏を手に取った。僕は宮野に足を差し出し宮野は傷に触れる。指先に軽く血がつきそうになり、宮野は「犯人捕まってよかったな。俺の元にはそれしか情報が渡っていないんだけれど捕まったのならそれでいいよな」とゆっくりと絆創膏を貼っていく。ドッヂボールを楽しみにしていた宮野に時間を使わせてしまうのは申し訳ないと思い「僕のことはもういいよ、早く活躍して来なよ」と言うと「不貞腐れているのか?恥ずかしかったから?」と意地悪く聞いてくる。
 「別にそういう訳じゃあないけど、申し訳ないんだよ。」
 血がにじみ出て来た絆創膏を見ていると「そうだ、神酒。佐城さんとはどうした?此の間犯人はもしかしたら客かもしれないと言っていただろう?」と窓からボールを投げ合う生徒を見ながら言った。僕も窓を覗き「多分その人であっているよ。僕も詳しいことは知らないけどさ。でも、黒幕がいるみたいだよ。その人に殺人するよう指示したもう一人が。詳しい情報は聞き出せなかったらしいけど」と言うと宮野は驚き口を開けたままだ。するとこちらを向いて鼻先触れんばかりに「案外先生だったりしてな!」と笑っているが「笑い事じゃないよ」と昨日の父を思い浮かべながら言う。あれほど感情的になっているのだから冗談一つ言える雰囲気でもない。そのあと数分静寂が流れて眠くなり始めた頃、手を伸ばした宮野に「そろそろ戻るか」と言われて席は立った。

 その日の学校では馬鹿みたいに平凡な日常が流れていき、昨日女生徒の兄が殺されたとか無かった事のようになった。というよりかはその女生徒は今日休みだった。少しは心配の声が上がっていたがもう犯人は捕まったという安心感の方が大きかったようで、他人のことなど所詮上っ面だけだと言われているような気がした。

 放課後、佐城さんの店に心晴れやかに向かった。店に入った瞬間、骨がいくつか増えていた。僕は「この増えた骨は何の骨ですか?」と聞くと佐城さんは「実際の猫の頭蓋骨と、人間の脚の骨のレプリカです」と相変わらず落ち着いた声でこちらを向いて言う。彼女に会うと全てが癒される。掃除をした後の風呂以上な心の落ち着きを覚える。例えが申し訳ないが。そして本題である殺人事件のことを話そうと思い、言葉を一文字発した瞬間佐城さんから「殺人事件の犯人、やはり私の店のお客様でした。仲もそこそこ、骨も彼に譲って頂いたりして……今日も来てくださり、骨の話も弾んでいたのでそういう方だと思うと悲しいです」と袖口を手で軽く握る。すると僕は彼女の形整った唇と白く輝かしい肌に目を奪われ、自分でも驚いたことなのだがカウンターに身を乗り出し、佐城さんの顔に思い切り近づき「僕なら、貴女を守ってみせます」と言ってしまう。言っておいて僕は顔を赤らめて「ち……父が警察官なので!それなりの情報は貰えるかと」と誤魔化す。彼女の首元に残る十字のような傷跡を横目に流して頰を自分で軽く叩く。それでも佐城さんは気にせずに「そうですか、これからはこのような事件が起こらないといいですね」と笑いかけてくれた。その笑顔が美しくて眩しくて仕方がなく好きだ。
 前までは目を伏せたかった資料や骨にも自然と見られるようになり、彼女ともそれなりの話が出来るようになっていった。僕は「此の間勧めてもらったガストン・ビュシエールさんの絵を参考にさせてもらったおかげで美術の課題を終わらすことができました、ありがとうございます」と感謝を述べると彼女は「本当ですか!その描いた絵とかって拝見させてもらえますか?」と嬉しそうに言う。が、「もう先生に出してしまったので、申し訳ないんですけど出来ないです」と僕。彼女は少し悲しそうな顔をした。それほど僕の絵を見るのを楽しみにしてくれていたのかと自意識過剰に錯覚をする。
 そんな事すらをも幸せに感じれる、彼女となら。そして日常が戻ってきた今の生活なら。

 
 家に帰ると、早く父が帰宅していた。穂乃果を一人にさせてしまったことを申し訳なく思ったが、言い訳として「図書の同好会に入ったんだ。本から得た知恵や経験は多く持っていた方が良いと思って」と言うと父は「そうか、部活に入らなくとも図書同好会ということなら安心だ」とソファに深く座り込んだ父は言う。背中を向けている父は何か物言いたげだった。僕は思わず「今日の仕事どうだった?」と聞くと「容疑者が僅かに口を開いた。彼女は……首元に十字架、傷跡……とだけ言った。その黒幕を突き止めなければ。そして、秋真。穂乃果が殺人事件の事を知っていた。まあ学校通っていて話題の一つ二つ上がらないのも可笑しな話だが。なるべく純粋な子供のままの穂乃果には知られたくなかったのだが」と父は零した。穂乃果は気を遣って黙っていたのか?それなら申し訳ないけれどしょうがないか。
 そして女性で首元に十字の傷跡……今日見た気がする。
 咄嗟に頭に浮かんできたのは佐城さんだった。きっとそれは大当たりだ。佐城さんだ!佐城さんが黒幕なのか!?でも、確か犯人は彼女のお客さんで悲しいとか言っていたような……そういえば!今日人間の脚の骨のレプリカが増えていた!もしかしたらそれって本物なんじゃないのか!?犯人が捕まる前に死体から取った骨を佐城さんに渡していたんじゃないのか?レプリカと装って!そしたら、佐城さんは指示していたんじゃなくて、犯人が佐城さんの為に骨をあげて喜ばせようとしていたのではないか……!?指示という言葉は間違っていて、ただ自分勝手に操作されたと勘違いしているだけなのか。
 でもまだ決まった訳じゃない。父に「死体って、何処らへんが傷ついていた?」と聞くと「脚の骨が抜き取られ、首が大きく切られていた。然し秋真が気にすることじゃない」と言われる。脚の骨が抜き取られていた!ああ、どうしよう!僕が信じていたもの全てが嘘だったなんて!
 その場でふらついた僕に「今日は私が夕ご飯を作ろう、脚も怪我しているようだしふらついている。秋真はゆっくり休むといい」と言ってくれた。僕もこれ以上平然を装えそうにもない。部屋に戻って休もう。

 そうしているうちに朝になっていた。
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