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第一章

作る関係、生まれた間。

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憂鬱ながらも新しい朝を迎えた。着慣れない制服に片腕を通す。陽が窓から差し込んで鏡が見つめられぬほどの光を放つ。僕を受け入れてくれる朝はとても心地がよい。しかし、これから僕が待ち受けるであろう緊張と孤独感。そればかり考えるとどうしても気は軽くなってくれないようだった。
 ドアノブに手をかけてドアを開ける。途端、味噌汁のにおいがした。いつも通りのにおいに心がすっと落ち着き、肩を撫で下ろす。ダイニングテーブルにはすでに白飯と鮭が置いてあり、使い古した青い箸を持ち鮭の身をほぐす。横で流れている報道番組では気象情報を報道していた。女性アナウンサーがこの時期珍しい薄着を着「今日は暖かい一日となるでしょう」とテロップとともに映っている。朝晩はめっきり寒い、しかし昼ごろは冬間近と思わせぬ暖かさという訳か。
 目の前に味噌汁が運ばれ、日常を取り戻した感覚になった。穂乃果も手を上に伸ばして起きてきた。眠そうではあるが僕と同様に味噌汁の匂いにつられている。そして机の上に広げられた和風の朝御飯を口に運んで心穏やかにすることができた。
 僕は穂乃果の頭に軽く手をやり玄関に向かった。靴を履いて、新しき生活が始まることに未だ不安を隠せないようだ。外は大変晴やか、光が制服に染み込んでいく。然程遠くない、歩いて二十分至らずぐらいだろうから呑気でいてもいいだろう。歩を進めて周囲の田畑に目がくらまされそうだ。空気が澄んでいるのにも関わらず僕の億劫な二酸化炭素で全て穢れてしまうのではないだろうか。そう考えるばかりであった。

 学校に着き、職員室に向かった。少し皺の目立つ膨よかな女性が手を招いて僕を呼んでいる。笑顔が素敵だが怒らせるのは少し止した方が良さそうだ。「神酒くんでしょ?」と彼女。名前を伺った所、田所先生と言うらしい。担当教科は国語。大らかそうなその先生は、全職員の方々に僕の紹介をして教室に招いた。皆あどけないというか頑是ないというか、とにかく落ち着きのない様子だ。僕も緊張してき、どうしようもなく震えていた。
 教室に入り、僕が「神酒 秋真です」と自己紹介すると好奇の目を寄せられた。窓側の席が用意され、風の心地良さそうな席だ。
 一校時目の前、宮野 健太と称する男が僕の元によってきた。活発な笑顔と少しはねた茶の髪に透き通った声がよく響く。僕に相当な好奇心を抱いているのがよく分かった。はやくも友達ができたと父に紹介できるだろうか。早とちりもよくないが父には良いところを見せたい。僕の主体は家族であるのだから。
 そして彼は僕を廊下に連れて行き、奥から来た女性に手を振った。彼女は「君が噂の転校生か、随分と話題になっているよ。東京から来たイケメンだとさ……」と僕の背中を軽く叩いて笑った。結んだ髪が左右に揺れて僕に軽く当たった。敢えてイケメンという言葉には触れないでいた。自分でそんな事思った事がないからだ。そして僕の存在がこの学校に知れ渡っているのか。都心部からというのがやはり原因として大きいと思われる。すると「神酒って珍しい苗字だから分かったけど、神酒 久次って神酒のお父さんだろ?最近この町で起きてる事件を解決するためにここに越してきたって」と言われたが、僕は全くそれを知らない。父には無駄な外出や下校中の遠回りはしないようにと言われた。それも関係あるのだろうか。しかし、事件という言葉に聞き覚えも全く無く、僕は「事件とは何のことだ」と聞いてみる。宮野は「知らないのか?殺人事件だよ。無差別の」と不思議そうにこちらを見つめた。隣にいたポニーテールの彼女は「今のところは三人。ただでさえ人口も対していないのに、この町を終わらせているみたいだね」と割って話す。そして彼女は自分の名を言ってないと気付き、岩崎 鈴奈と名乗った。僕より一つ歳上で、気さくな彼女の性格と本人の意思から呼び捨てにしてもいいと言われてそうする事にした。未だ慣れぬ学校を案内してくれると言ってくれたが、十分しかない休憩の間にそんなこと出来る訳もなく渋々退散していった。
 ここでやっていく自信は狂う程なかった。
 ここに越してきた意味が父の仕事の関係上……というのがこんなおぞましい事件だとも知らずにのうのうと、ただ億劫と過ごしていると考えると過去の自分がどうしようもなく恥ずかしかった。
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