血月の誓い 〜生贄の一族と吸血鬼の花嫁〜

桜塚あお華

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第3章 運命ノ選択

第13話 血月の誓い

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「い、いてぇ……」
「大丈夫か、蓮?」
「へ、平気平気ッ!」

 篝と結城は、宮守の導きで村の外れにたどり着いた。
 村の廃墟はすでにかつての面影を残しておらず、草が生い茂り、壊れた家屋の跡だけが、村がかつて存在していた証のように残っている。
 一番怪我をしているのに、それでも一緒に走ってくれた結城に感謝しつつ、篝は覗き込むように問いかけたが、結城は笑っているだけだった。

 ただ、結城の頭の中には、影月に無理やり唇を奪われた篝の姿が思い浮かんでしまう。

「……俺は、お前を守れなかったし」

 静かにそのように呟く結城の言葉を、篝は聞くことはなかった。同時に宮守が静かに話を始めた。

「この村は、かつては普通の村だった。だが、あの双子が現れたことで……すべてが変わった。」

 篝は息を呑んだ。結城もその話に興味を持ち、耳を傾けている。

「双子の吸血鬼、影月と紅月が現れてから、村は恐怖に支配されていった。毎月満月の夜、村人たちは『花嫁』と呼ばれる少女を選び、あの双子に捧げなければならなかった。それがこの村の『生業』だったんだ」
「花嫁って……生贄のことか?」

 篝が震える声で問いかける。

「その通りだ……」

 宮守は悲しげに目を閉じる。

「彼らに捧げられた女性たちは、もはや死者のようなものだった。双子の力で魂を奪われ、意思を失った。何もかも支配されて、村は次第に『血月村《ちづきむら》』と呼ばれるようになった。」

 篝はその言葉に震えた。血月村。その名前は、まるでこの村に刻まれた呪いのように思えた。

「そして、数十年前……私の娘もあの夜、双子に捧げられた」
「えっ……」

 宮守の声は冷たく、苦しそうな顔をしている。
 その姿を見ながらも、篝は何も声をかけることができない。もちろん、結城もだった。
 宮守の重い過去が一瞬にして伝わってきた。

「私の娘が生贄にされて半年後……大きな災害が村を襲い、あの双子の支配も終わった。だが、村人たちはすでに死んでいた」

 宮守は息を吐きながら続けた。

「彼らは双子の力によって、まがい物の吸血鬼にされてしまった。私だけが生き残った」

 篝は震える手で自分の胸を押さえた。
 宮守が言う通り、村の者たちはすでに亡霊のような存在になってしまったのだ。
 覇気なく、死人のような存在に。

「花嫁になってしまった娘を助けるには、あの双子を倒さなければならない。そして、それを可能にする唯一の武器がある」

 宮守は腰から刀を取り出す。その刃は黒く、ただならぬオーラを放っている。

「これが、吸血鬼を殺すことができる『聖刀』だ。双子を倒せるのは、この刀だけだ。」

 篝はその刀を見つめながら、強く決意を固めた。
 これを使えば、灯を助けることができる。
 灯を救うためには、これを使わなければならないのだ。

 宮守は篝に刀を渡しながら、静かに言った。

「だが、これを使うには……かなりの覚悟が必要だ。君はそれを理解しているか?」
 
 篝は一瞬、息を呑んだが、すぐに頷いた。

「私は……必ず灯を助けたい。覚悟はある」

 宮守はその言葉を信じるように、静かに頷く。そして、再び険しい表情に戻る。

「ならば、準備をしなければならない。あの双子は、決して簡単には倒せない。だが、君にはその力があると信じている」

 篝は刀を握りしめ、しっかりとその感触を確かめた。

「私は……灯を取り戻す。」

 その決意を胸に、篝と結城は再び足を踏み出した。
 だが、背後で一筋の風が吹き抜け、暗い空に一瞬、血色の月が浮かんだような気がした。
 そして、その時、宮守は突然、低い声でつぶやいた。

「……影月のことだが、あのようなことはこれまでにはなかった。あの双子の中でも、影月のそれは異常だ。お前に対して、あの男はまるで自分の花嫁にしようとしているようだ」

 篝はその言葉に立ち止まった。
 振り向くと、宮守は深い疲れを感じさせる表情で、ただ静かに語った。

「影月が灯に対して示している執着は、ただの欲望や支配の感情にとどまらない。まるで、あの者が篝を自分のものにしようとしているかのようだ。彼の目には、篝をただの『花嫁』としてではなく、本当の意味で『妻』として迎え入れようとする意図が見え隠れしている。」
「……しかし、選ばれたのは灯だ。私じゃない」
「確かに紅月の花嫁は灯という人物かもしれない……だが、影月は?」
「え?」

「影月が選んだのは、きっとお前だ、篝」

 篝はその言葉に胸を打たれるような思いがした。
 影月が篝に抱いている感情が、これまでの「花嫁」という言葉の枠を超えていることを。

『灯が選ばれたのは、彼女が私たちにとって最もふさわしい存在だからだ』
『ふさわしいって……』
『そう、ふさわしいんだよ、お姉さん。ねぇ、影月』
『ああ、確かに灯は花嫁だ』
『そう、僕の花嫁だよ、お姉さん……でも、影月の花嫁は違うみたいだよ』

『本来ならば、一緒に分け与えるのが基本なんだけど』
『わけ、与える?』
『そう、分け与える。二人で一つだったんだけどね……けど、今回は本当に気に入っちゃったみたいだね、影月』

 あの時、紅月との会話の時、そのような言葉を吸血鬼の双子は言っていた。
 
「彼が篝を奪おうとしている理由、それは単なる所有欲ではない。彼にとって、篝はただの支配の道具ではなく、深い意味を持つ存在となるだろう」

 篝は深く息をつき、その言葉を噛みしめる。
 影月が篝に対して示している異常な執着。
 彼は自分をまるで自分の本当の花嫁にしようとしている。
 篝はそのことに深い恐怖と共に、強い決意を感じていた。

「それでも……私は、灯を助ける」

 篝は再び静かにそう誓った。

 宮守は軽く頷き、しばらく黙っていたが、最後にこう言った。

「ならば、お前の覚悟が試される時が来るだろう。影月の執着を打ち破り、灯を取り戻せ」

 篝はその言葉を胸に、刀をしっかりと握りしめた。
 今、彼女の目には、ただ一つの目的が映っていた。
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