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第31話、今度はあなたの名前を呼ぶから
しおりを挟むまた、この夢を見る。
血まみれの黒い人が、静かに自分を見つめながら、笑っている夢を。
『姫様ッ!』
何故、自分事を姫と呼ぶのか全く分からない。
けど、その声は自分にとって、手を伸ばす価値に存在だった。
『く、らぁ……』
誰かの名を必死に呼ぼうとしていたのかもしれない。
遠く、大好きな人が手を伸ばしてこちらに向かって来るのが分かる。
どんな人なのかわからない。
けど、それでも自分にとって、その人の傍に行きたかった。
『どうして?』
真っ黒な姿をした男は、突然自分の背後に立ち、近くに座り込むようにしながら、耳元で囁く。
腕を掴まれ、動けない。
『どうして、ルー――』
振り向いたと同時に、笑っていた顔ではなかった。
その顔は全然違う。
全てを壊した男なのに、どうしてそんな悲しい顔をするの?
『どうして、拒否をするの?ルーフィア』
ボクはルーフィアじゃない。
ボクの名前は、ルーナだ――。
▽ ▽ ▽
「ッ……」
目を開けると、その天上に見覚えがあったので起き上がる。
起き上がると同時に、まずルーナの顔に視線を向けている人物が、引きつったような顔をしながら彼女に視線を向けている。
「……クラウス様?」
ルーナに視線を向けていたのはクラウスだった。
何処か不機嫌そうな顔をしながらルーナに目を向けた後、静かに息を吐き、そのまま手を強く握りしめた。
「いきなり倒れてびっくりした」
「あ……カルーナおばあちゃんの所で気絶したんですよね、私」
「ああ……本当、あんな顔をしたルーナは初めてだった」
「あはは、すみません」
「……」
笑いながら返事を返してみたのだが、クラウスの顔は引きつったままで全く直らない。
何か変な事でもしただろうかと思いながら、ルーナはクラウスに視線を向けていたのだが、クラウスの表情は徐々に暗くなっていく。
どうしてそのような顔をするのか全く理解できないルーナはどうしたら良いのかわからず、どのように声を掛けたら良いのだろうかと口が動かなくなってしまった。
「……あの時」
「あの時?」
あの時、と言う言葉を言ったのだが、そのままクラウスは黙ったまま、口を閉ざし、視線を逸らすような体制をとる。
何が何だか理解出来ないクラウスにルーナはどうしたら良いのかわからず迷っていると、家の扉が静かに開き、そこから入ってきた人物にルーナは声を出す。
「カルーナおばあちゃん」
「目を覚ましたようだから見に来たよ……うん、顔色も大丈夫そうじゃね」
「……なんか、心配かけてごめんなさい」
「心配なんかするもんか!お前さんはタフだけが取り柄の女なんだから」
「褒められているのか貶されているのか、全くわからないんだけど」
笑いながらそのように発言するカルーナに困りながら、ルーナは自分の顔をカルーナに見せつつ、自分の体調を気にする。
ルーナも自分自身の体調は大丈夫なのか、気持ち悪さなどあるかどうか考えながらその場に座り込んでいると、カルーナが背を向けているクラウスに視線を向け、笑いながら答える。
「ルーナ、お前さんが倒れた時、この不貞腐れそうな顔をしている男がな、そりゃもう必死でルーナの名を叫びまくって、ついでに持ち上げてここまで運んできてくれたんじゃよ……愛されてるのォ」
「愛されているのかどうかは問題ではなく……そうなのですか、クラウス様?」
「……」
クラウスは黙ったまま、静かに頷いた。
つまり、この家までクラウスに抱き上げられながら帰ってきて、クラウスに看病のような事をされたのだろうかと理解したルーナはもう一度クラウスに声をかける。
「本当にありがとうございます。助かりました」
「……ん」
謝罪をするのだが、それでも視線をそらしたままで何故目線をくれたのか理解できないルーナはカルーナに視線を向けると、カルーナは呆れた顔をしながらルーナに言う。
「運び出す時、アンタあのクソ神父の名前を言ったんだよ」
「え、シリウス様の事?」
「そう……自分の名前じゃなくて、シリウスの名前さ……ヒヒ、つまりヤキモチじゃよ」
「あー……」
つまり、ふてくされているのだろうと理解したルーナはそれ以上突っ込まないでおこうと心に誓うのだった。
ふと、ルーナは自分が夢を見ていた事を思い出すのだったが、その夢の内容が全く思い出せない。
とても、大事な事を夢に見たような気がするのだが、それが全く思い出せないのだ。
何故思い出せないのだろうかと疑問に抱きながら、ルーナはクラウスに視線を向ける。
「クラウス様」
「……」
「……もう、めんどくさい性格だなぁ」
明らかにめんどくさい性格をしているな、とそのように思いながら、ルーナはクラウスの背を向けている、背中に手を伸ばして触れる。
「クラウス様、本当にありがとうございます」
「……しかし――」
「今度、何かあっても必ずクラウス様に声をかけますからそんな顔をしないでください」
約束できるかどうかわからない、約束だった。
ルーナはそっと笑みを零しながらクラウスにそのように発言し、その言葉を聞く。
彼女の言葉を聞いたクラウスは一瞬にして目を見開き、笑っているルーナに視線を向ける。
「ふむ……単純だのぉ、男ってのは」
そんな言葉をカルーナが口にしていたなんて、クラウスは全く知らないまま、まるで目を輝かせるようにしながらルーナに視線を向けていたのだった。
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