上 下
12 / 50

第12話、トワイライトの聖女様

しおりを挟む

「……そりゃ、『勇者召喚』みたいな事か?」

 クラウスの言葉に反応したのは、シリウスだ。
 彼の表情はいつもと違い、こわばった表情を見せており、何かあるのだろうかと思いながら思わずシリウスに視線を向ける。

「何か知っているのですか、神父様?」
「ああ……なるほど、最近トワイライトの噂がめっきりなくなったのは、『聖女』を召喚したからか」
「せいじょを、しょうかん?」

 全く意味が分からず、今度はクラウスに目を向けてみると、クラウスは説明してくれるのか、ルーナの目を見て答える。

「『勇者召喚』や『聖女召喚』と言うのは別の世界……俺達にとっては異世界と言える所からその人間を召喚する事……うちの王都は『聖女召喚』を行ったんだ」
「聖女を召喚するなら、良い事なのではないですか?」
「それが、そうもいかないんだ、ルーナ」
「え?」

「相手が、本当に聖女のように清らかな心の持ち主だったら、だ」

 ため息を吐きながら、何処か疲れた表情を見せているクラウスに、それはどういう意味なのか全く理解が出来ないルーナ。
 クラウスの言葉を聞いて、シリウスは妙に納得してしまったのである。

「なるほど……つまり、召喚した聖女サマは能力はあるが、性格が最悪だと?」
「ああ……男には媚を売り、女には興味なく、同時に利用して飽きたら捨てる、そんな性格だ……その中でも気に入った相手達には『魅了』を使う。どうやら召喚された時に身に付いた能力の一種らしく、その聖女様はお気に入りの男たちに魅了し、ハーレムを作っている」
「うわぁ……いるんだそんな人。私は嫌だなぁ……」

 男であれば、女を魅了してハーレムを作るように、聖女になった女はその逆を作っているという事になる。
 同時に傷ついて倒れているこの男はその魅了された人物の一人だという事がわかった。
 一瞬だけ、庇ってしまった事を悔いてしまったルーナだった。

「……一発ぶん殴れば、魅了解けるかな?」
「いや、魅了なんだが解けていると思うぞ」
「え、なんで?」

 シリウスがそのように発言したので、その理由は何なのかわからないルーナは首をかしげながらシリウスに視線を向けると、シリウスの発言はルーナとクラウスにとって説得力のある発言だった。


「だってお前……ルーナの事を『天使』って言ったんだぞ。この男はルーナに一瞬だけ目を奪われている……魅了がかかっている相手がそんな事しないだろう?」


 ニヤっと笑いながら答えるシリウスにルーナとクラウスは何も言えないまま、気絶している騎士の男、ルフトに目を向けた。

「……確かに、魅了されているなら私の事を『天使』だと言う発言はしないですよね。それか寝ぼけているとか?」
「……まぁ、起きてみないとわからないだろうがな」

 そのように発言するシリウスに対し、ルーナはもう一度ルフトに視線を向け、本当に一発ぶん殴ろうかなと拳を握りしめている姿を、クラウスは止める。
 何故止めたのかわからなかったルーナだったが、クラウスの右手に少しだけ鞘を抜こうとしている剣を見てしまったので、それ以上何も言えなくなってしまった。

 同時に、違和感がある。
 シリウスの様子が少しだけおかしいと、ルーナは感づいていた。

「シリウス様」
「んぁ?」

「――何か、苛立つ事がありましたか?」

「――……」

 クラウスから『聖女召喚』と言う話を聞いたシリウスの様子がおかしい事には気づいていた。
 気づいていたからこそ、ルーナは単刀直入に話を切り出したのだ。
 不機嫌そうな顔をルーナ、そしてクラウスに向けた後、深くため息を吐きながら腕の骨を軽く鳴らした。

「……機嫌が悪そうに見えたか?」
「ええ、とても」
「そうか……まぁ、仕方ないかもしれないな」
「それは、どういう意味ですかシリウス様?」
「……」

 シリウスに問いかけるルーナに、彼は何も答える事なく彼女に視線を向けている。
 何処か苦しそうな瞳をしているようにも見えたので、このまま口に出していいのだろうかと思ってしまうぐらい、いつも以上に様子がおかしい。
 ルーナはまっすぐな瞳でシリウスを見ていた後、シリウスは手で頭を抑える。

「……俺が前居た国でもな、『勇者召喚』と言うモノがあったんだ。おかげで色々と狂わされただけの事だ」
「それは……初耳です」
『私も初めて聞いたわ』
「言ってねーからな。ついでにその件は公にされても居ないし、小国だったからな……」

 公にされていない、と言う発言にルーナも、そしてクラウス、サーシャも驚いた。
 そのようなお恐れた事ならば、公にされるはずなのだが。
 何故公にされなかったのか、問いかけようとしたのだが、その発言を遮ったのはシリウスだ。

「すまない。まだ話すつもりはないが……とりあえず、いつか話すからそれまで待っていてくれないか?」
「……」

 もしかしたら思い出したくない記憶なのかもしれない。
 何処か苦しそうな顔をしているシリウスの顔に、ルーナは何も言えず静かに頷く。

「……で、話は戻るが、その聖女様はどうしてお前に刺客を送るんだ?」
「ああ、それは簡単な事。一つは俺に『魅了』が聞かなかった事」
「もう一つは?」

「――俺が、聖女様の求婚を断ったからだ」

 迷惑なんだよな、と吐き捨てるように答えたクラウスの表情は今まで見た事のない、憎しみの抱えているような表情をしていた。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~

いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。 橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。 互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。 そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。 手段を問わず彼を幸せにすること。 その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく! 選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない! 真のハーレムストーリー開幕! この作品はカクヨム等でも公開しております。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~

アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】子供が出来たから出て行けと言われましたが出ていくのは貴方の方です。

珊瑚
恋愛
夫であるクリス・バートリー伯爵から突如、浮気相手に子供が出来たから離婚すると言われたシェイラ。一週間の猶予の後に追い出されることになったのだが……

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

処理中です...