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第06話、神父はただのクソ神父ではなかったようです。聞かれなかったから言わなかっただけ。

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 殺気が肌に伝わってくる。
 細くて短いタバコを加えながら、神父はクラウスに強く視線を向けている。
 明らかに、『殺意』を抱きながら。
 同時に、クラウスは目の前にいるこの神父に勝てるのだろうかと言う気持ちになりながらも、拳を握りしめながら震える唇で問いかける。

「……何の話だ?」
「何度も同じ言葉を言わせるな。お前は、『ルーナ』を傷つける『存在』なのか?」
「……ルーナを傷つけるつもりはない」
「何故、それが言える?」

 言葉一つ一つ、間違えてしまったら間違いなくクラウスの首は宙に舞うかもしれない。
 しかし、嘘をつくつもりもない。
 ルーナを傷つける――その言葉を聞いたクラウスははっきりと、目の前の殺気立っている神父に向けて答えた。


「俺はルーナを一人の女性として、出来たら婚約して妻にしたいと思っているからだ」


「………………は?」

 まさかそのような回答が出るとは思わなかったので、神父はまぬけな顔をしながら目の前で真面目になっている『血濡れの狂騎士』に視線を向けた。

(え、何言っちゃってんのこの男……え、彼、『狂騎士』だよね?)

 殺気を向けていた男――神父は混乱しながらまっすぐな目を向けている男に視線を向ける。
 神父はあっけらかんな顔をしながら隠し持っていた『武器』を落としそうになってしまったが、彼女を傷つけるつもりはないらしい。
 寧ろそれはある意味――。

「……お前、マジで言っているのか?」
「マジで言っている」

「平民の彼女を貴族として迎え入れるのか?」

 ルーナは平民、目の前の男は平民ではなく、貴族だ。
 平民と貴族の結婚は、色々とつく。
 それを承知でこの男はルーナに求婚しようとしているのだろうか?
 神父は頭を抑えるようにしながら回答を待っていたのだが、クラウスはあっさりと答える。

「ああ、そのつもりだ」

 と。

「……ああ、本気なんだなおい」
「因みに拒否されても地の底まで追いかける予定だ」
「あんた、実はストーカーやってんの?」

 発言が正直怪しすぎて困る。
 これは流石に阻止した方が良いのかもしれないと思いながら、隠し持っていたナイフを取り出し、それを目の前の騎士、クラウスに向ける。
 刃を向けられたと言う事で、クラウスも腰に装備していた長剣を鞘から抜き、静かに構えた。
 お互い沈黙が続き、今から殺し合いが始まろうとしている――と思っていた矢先だ。

 
「クラウス様、神父様、何してんの?」

 
 草むらから出てきた人物――ルーナは簡単に二人に向けて声をかけたのである。
 
 ルーナが現れる事が想定外だった神父は急いで懐から武器をしまう。
 一方のクラウスはルーナに視線を向けて、固まった。
 微かに濡れた髪の毛に、足が少しだけ露わになっている格好で、思わずクラウスはその場で赤面した後、ルーナに視線を逸らす。

「お、おいルーナ……お、おまえ、その恰好で出歩くなって話をしただろう!?」
「あ、クラウス様が居た事忘れてた。まぁ、神父、欲情しないだろう?」
「俺にとってお前は範囲外だ!って言うのはどうでも良い……とりあえず何か羽織れ。俺の上着貸すぞ?」
「クソ神父の服、臭いから別に良い」
「おい、テメェ……」
「それより神父様。ドライアドから伝言……森の入り口で騎士たち数人固まってうろついてるって……多分、クラウス様関係あと思うけど」
「……きし、すうにん?」

 クラウスはルーナの言葉を聞いて、彼女に勢いよく視線を向ける。
 突然首が動いたので驚いたルーナだったが、クラウスは構う事なくルーナに近づき、彼女の両肩を鷲掴みしながら目を見開く状態で迫る。

「き、騎士数人と言うのは、どう言う恰好とか、鎧の色とか、わかるか?」
「え、あ……えっと……鎧が黒だったって言う事と、隊長みたいな感じがイケメンだった、ぐらいしか聞いてないけど……」
「……追手だな」
「クラウス様?」

 黒い鎧と言う事を聞いたクラウスの表情は一瞬にして変わり、小さくそのように呟いた後、急いで持っていた長剣を握りしめながらルーナに再度声をかける。

「ルーナ、入り口と言うとはどの辺だ?」
「どの辺って……まさかクラウス様行くつもり?」
「そのつもりだ」
「ダメだ!!」
「いや、ダメだと言っても……」
「ダメなもんはダメだ!だいぶ良くなったけど、本当なら後数週間休んでほしいんだぞ!!……本来なら出て行ってもらった方がいいが、それでも今はダメだ!」

 そのように言いながら先ほどの表情とは全く違うルーナの姿に、クラウスはその場で固まる。
 ルーナは彼の両肩を鷲掴みにするようにした後、睨みつけるようにクラウスに視線を向けていた。
 そして、彼女が次にとった行動は、クラウスではなく、神父の方だ。

「神父様、神父様ならどのぐらい戦える?」
「どのぐらいって……狂騎士様以上とはいかないぞ?何せ、神父だしな」
「インチキ神父のクセに……でも、
「……」

 ルーナの言葉を聞いた神父は冷たい瞳で彼女に視線を向けた後、静かに笑いながら一礼する。
 それはまるで、姫に使える騎士のように。


「――命令、承りました。マイ・マスター我が姫君よマイ・マスター


 笑みを浮かばせながらそのままルーナに視線を向けており、彼女は何も言わないまま神父に視線を向けている。
 そして彼は背を向けて古びた教会に戻っていくのを見た後、ルーナは静かに息を吐き、今からでも行こうとしているクラウスの身体を急いで地面に押し、座らせる。
 何が起きたのか理解できないクラウスに対し、ルーナは淡々と説明する。

「とりあえず、追っ手の方は神父様が何とかしてくれるから大丈夫。クラウス様はこれから私とこの場で動かず、ジッとしていてください」
「だ、だが……」
「もし、戦って傷口が開いてしまったら、せっかく手当した意味がないですから……良いですね?」
「……だ」
「え?」


「――ルーナと、あの神父は一体、何者なんだ?」


 驚いた顔をしながらそのように答えるクラウスに対し、ルーナはそのことについては何も言えない。
 いや、そもそもルーナは知らない。
 自分が本当は何者で、一体どんな人物だという事を。

 彼女はただの孤児だ。
 そのはずなのだが、時々見せるあの忠義心のような姿を見せる神父の顔は、よくわからない。
 ただ、彼女はこれだけははっきりと言える。

「クラウス様、神父様はね」
「神父様は……?」


「めっちゃ強いんですよ、私よりも」


 聞かれなかったから言わなかっただけなんですけどね、と追加の言葉を言った後、ルーナはクラウスに向けて笑った。

 

 
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