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第31話、急いで王宮へ
しおりを挟む「――王宮に行きます」
アリシアが叫ぶと同時に着ていた衣類を脱ぎ捨てようとしているのをレンディスとベリーフが止めて、それから一時間。
いつもの姿をしたアリシアが青ざめた顔をしながら部屋から出てきた時、何故そのような顔をしているのか気になってしまったレンディスが首をかしげながらアリシアに視線を向けると、アリシアがため息を吐きながら答えた。
「……殿方の前で突然服を脱ぐ行為は何事か、と叔母上とエリーとカトリーヌに怒られました……まさか妹に怒られるなんて……」
「……妹に怒られるのが余程効いたのですね、アリシア」
「ううう……」
「大好きだからねーカトリーヌちゃんの事」
涙目になりながら落ち込んでいるアリシアがどこか可愛らしく、微笑ましく見ているベリーフに対し、レンディスはそのままアリシアに近づき、背中を優しく撫でる。
今日の討伐以降、レンディスとアリシアの距離がかなり近くなったかのように感じたベリーフは少しだけ、ほんの少しだけやきもちを妬きそうになったが、ベリーフにとってはアリシアは娘のような存在だ。彼女が幸せならばそれで大丈夫――。
「……けど、なんかムカつくよねー」
そのように呟いた後、背中を撫でて落ち着かせようとしているレンディスの背中を容赦なく蹴り上げるベリーフの姿があった。
突然背後に周られ、蹴られたので、少しだけイラついているレンディスの姿があったと言う。
とにかく、着替えは完了し、このまま出ていく事は可能なので、アリシアはレンディスに再度声をかけようとした時、突然魔力を察知したアリシアは、先ほど出てきた自分の居室に視線を向ける。
アリシアではない、別の魔力――彼女はこの魔力の感じに覚えがあった。すぐさま扉を開けると、そこには少し疲れた顔をしている妖艶たる悪魔の姿があった。
「やっほーアリシアちゃん♡」
「リリア!どうしてここにいるのです!!」
「アリシアちゃんたちをすぐに連れてきてほしいって、ご主人様のご命令よ」
「……王宮で何かあったのですね」
「……流石、アリシアちゃんって勘は鋭いから好きよ」
ラフレシアが自殺したと言う事から、どこか狂い始めていたのはアリシアもわかっていた。わかっていたからこそ、王宮で何かが起こっているのは間違いないと悟り、リリスも真面目な顔でアリシアを見る。
ふと、リリスが視線を向けた先にはベリーフの姿があったので、ベリーフは彼女に手を振ると、リリスは静かにお辞儀をする。
「ベリフェル様までいらっしゃったのですか」
「ベリーフだよリリス……王宮で一体何が起きているのかお話してもらってもいい?」
「はい。突如王宮の一部が黒い闇に覆われました。いち早く察知したので、主人であるファルマ様はその一部の人たちは何とか逃げる事が出来たのですが……弟であるフィリップ様は逃げられなかったようで、空間の中に閉じ込められている状態です」
「黒い、空間」
何かの魔術の一種なのかもしれないが、アリシアはそのような魔術など聞いたことがない。もしかしたら闇の属性を持つ魔術なのかもしれないが、アリシアが知る限り、そのような魔術師は王宮魔術師の中には居ないし、使う人物にも心当たりはない。
その発言を聞いたベリーフが真っ先に反応した。
「王宮に闇の属性を操る魔術師が居るか、それとも……『同族』でも召喚されたかな?」
「……私の見立てでは、間違いありません。ある一室から強い魔力と、『同族』の気配が致しました」
「つまり、悪魔が召喚されたと、リリスは言うのですか?」
「ええ……うちの主が今中心になって動いているわ。ついでにおまけとしてカトレンヌ侯爵も頑張っている所ね」
「……父上、前に出るの嫌いなのに」
きっと、中心になって動いているのだろうとアリシアは父親の顔を思い出しながら静かにため息を吐いた。元々中心になって動く事が嫌いな人物だったので、苦手なのを隠しながら動いているに違いない。
リリスの言葉を聞いて、やはり王宮にすぐに向かわなければならないと思ったアリシアは彼女に再度視線を向ける。
「リリスが来たと言う事は、王宮に転送してくれるって言う事ですよね?」
「空間魔術は得意だから、ご主人様のご命令よ。今すぐレンディス、アリシアの二人を連れてきて。緊急だからって」
「……レンディス」
「心得ている、アリシア」
レンディスも既に準備が出来ている状態だ。
彼の姿を確認した後、今度はベリーフに視線を向ける。
「ベリーフ、あなたには申し訳ないけど……」
「うん、わかってるよ。ここで君の妹たちや叔母さんたちを守ればいいんだね。任せて……けど、何かあったら僕を呼ぶんだよ、呼び方は昔、教えたよね?」
「……なるべく、自分自身で解決できるようにする。けど、危なくなったらお願いします」
「……ついでに、もう一つ。アリシア」
ベリーフはアリシアに近づき。小さな水晶のようなものを彼女に渡す。受け取ると、アリシアはそれが何かをすぐに理解した。
「これも前に言っていたもの……使わない事を祈るよ」
「……ありがとう、ベリーフ」
渡された水晶のような存在を強く握りしめながら、アリシアはレンディスの腕を掴み、そのままリリスの近くへ。
ベリーフは少し寂しそうな顔をしながら手を振る。
「カトリーヌとエリーの事、叔母上たちの事もよろしく!」
「うん、任せといて!」
「……リリス」
「ええ、舌噛まないでね二人とも!」
リリスが合図をすると、彼女の下に描かれた魔法陣が発動する。これからすぐに王宮に転送される空間魔術だ。
アリシアはレンディスの腕を強く掴みながら居ると、レンディスはそのままアリシアの手に優しく触れる。
「大丈夫、アリシア」
「……レンディス」
「――何があっても、あなたを必ず守るから」
その時見せたレンディスの表情はとてもやさしく、今まで見た事のない笑みを見せている。アリシアはその顔を見た瞬間、少し恥ずかしくなったのか、頬を染めながら視線を逸らす。
そんな二人のやり取りを見ていたリリスはフフっと笑いながら、魔術を発動させたのだった。
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