26 / 32
22.月の神様はプリンアラモードを食べ、話をする。
しおりを挟む「こんばんわ、明典」
満月の夜、『死の森』の魔力は満ち、店が現れると同時に僕は異世界に飛ばされる。僕にとってはその時間なんて短く、長く感じない。
今日も一日頑張ろうと厨房から姿を現し、エプロンをつけながら店内の掃除をしようとしていた矢先、綺麗な女性が笑顔で僕の前に姿を見せ、同時に嫌そうな顔をしてしまったのかもしれない。
嫌いではない、存在だ。
同時に、僕の願いを叶えられるように、この異世界に来させてくれた人物でもある。
「神様……ルナ、どうしてここに?」
彼女の名前はルナ――別名、『月の神』。
僕に力を与えてくれて、僕に店を作らせてくれて、僕に自分の魔力の半分を分け与えてくれた、僕が自殺する瞬間に現れたちょっと性格がわからない女性だ。
どこから用意したのかわからない湯飲みにお茶を入れ、美味しそうに飲みながら僕を見ている。キラキラするあの目が、正直好きではないのだが逆に感謝しかない人物でもある。
僕は素を隠す事なく、近くに行き問いかける。
「相変わらず嫌そうな顔をしますね明典。あなたは本当に私……いえ、『私たち』が嫌いなんですね」
「ここに来させる前に何回も言いましたよね、ルナ」
「敬語、やめていいんですよ。誰も来させないように魔力を強めました。魔王だろうが勇者だろうが、絶対に入りません」
「……」
『素』を見せて良い――と言う言葉を聞いた瞬間、僕は舌打ちすると同時に前髪をかき分けるようにしながら音を立てて椅子に座る。
「……で、僕に何か用があってきたのか?」
「うん、やっぱり明典はそのような悪い顔の方がお似合いですよ」
「テメェ、僕を何だと思ってるんだよ?」
「フフ、随分猫かぶりしてるんですね、かわいらしかったですよ」
「……見せたら絶対にお客さんに嫌われるし」
ふと、僕の頭の中に浮かんだのはクロさんの姿だ。
絶対に僕はこんな悪顔だったら、間違いなく嫌われるかもしれない。それだけは絶対に、別れるまでは絶対にこの顔を隠し通そうと心の中で誓っている。
ルナはそんな僕やクロさんたちのやり取りを影から見ていたのか、楽しそうに笑いながら思い出していたのだが。
「ですが明典、これだけは言わせてほしいです」
「……何?」
「あの黒髪の男性の事…‥クロさんと言う方と金髪のシオンさんって言う方、正直おススメしませんから選ばない事を祈ります」
「あのね、僕がそう言うの出来ないって、ルナは知ってるだろ?」
「……そうでしたね」
フフっと笑っているルナだったが、ルナの表情が寂しそうに見えてきた。それは、仕方がない事なのだからルナが落ち込んだ所で仕方がない。
シオンさんには話しているが、僕は既に『死んでいる』。
ルナがくれた月の魔力があるからこそ、僕はこの『死の森』の店の中で活動できるし、大好きな店を開く事が出来たし、楽しんでいる。それだけはルナに感謝しなければならない。
「……明典、せっかくなので注文したいです」
「え、注文?」
「プリンアラモード、作ってください。この前練習で作っていたでしょう?」
「…………変態」
「何故そんな事を言われなきゃいけないんですか!私はね明典、あなたの事を見守っていてですね!」
「はいはい、プリンアラモード一個注文入りましたー静かにしていてくださいクソ神様ー」
「誰がクソ神様ですか!可愛くないですね本当!」
手をひらひらとしながら答えたのだが、やはりそれが気に入らないのかルナは少し怒りを露わにしているようにしながら怒り、口を膨らませながらゆっくりと椅子に座るのを確認する。
椅子に座ったところを確認すると、僕はお皿を用意し、冷蔵庫を確認してみると、そこには入れた事もない材料がいくつか入っており、思わずルナに視線を向ける。
時々、いや店を始める時、大抵冷蔵庫に用意していなかったモノが入っている事が多い。犯人は誰だかわかっているのだが。
プリンと果物、そして以前から準備しておいた砂糖菓子も軽く用意をし、それをお皿の容器に綺麗に並べ、最後に生クリームでデコレーションをし、飲み物と一緒にそれをルナの前に出した。
「お待たせしました、プリンアラモードです」
「ほぉ……綺麗だなぁ、相変わらず美しい」
「そりゃどーも」
「プリンはとりあえず最後にして、この白いモノ……確か、なまくりぃむでしたね。それを一口……ん、んん!あまぁい……ああ、美味しいです」
「え、泣くほど美味しいの?」
「食べた事ないですからね……いや、そもそも神はご飯食べなくても生きていけるので」
ルナはそのように呟きながら、一つ、一つ、丁寧にスプーンですくって食べては美味しいと嬉しそうに笑いながら答えている。僕はそんな彼女の姿を楽しそうに見つめながら、無意識に笑っていたのかもしれない。
最後まで、丁寧に食べた後、カランっと言う音が店の中に響き渡り、ルナは持っていた布のハンカチで口を拭きながら僕に目を向ける。
「プリンアラモード、ごちそうさまでした……さて、実は本題があるのですが、聞きますか?」
「え、食べに来たんじゃないのか?」
「それだけの為に姿を見せると思いますか……おかわりを所望したいのですが、話が終わってからにさせていただきます」
「あ、おかわりほしいんだ」
余程プリンアラモード好きなんだなと思いながら、軽く突っ込んでしまった僕。対し、ルナは少し恥ずかしいのか、頬を赤く染めつつ、顔をゆっくりと隠している状態だった。
そして同時に、真剣な話なのだなと思い、ジッとルナに目を向けていると、彼女は静かに言う。
「あなたの願い……もしかしたらもうすぐ叶うかもしれないです」
「え?」
「あなたのお店のお客様の中に、『それ』と接触している人物の姿がありました。もし、もしかしたら、連れてきてくれるのかもしれないと、私は思っています」
「……本当に?」
「ええ、本当です。誰か、と言ってしまったら面白くないので、言わないですけど」
「言えよ、それは……けど、はは、そっか……そうなんだ……」
いつの間にか、僕の笑いは続いている。嬉しいのか、それとも――僕にとって、そのような感情は全く分かっていない。
しかし、いつの間にか両目からゆっくりと流れてくる涙に、ああ、嬉しいんだなとすぐに実感する事が出来た。
本来の目的は、『それ』と出会う事。
つまり、もしかしたら、会えるかもしれないと言う事。
それと同時に――。
「だからこそ、覚悟しておいてください。私がかなえられる願いには限度があります」
「……出会う事が出来たら、終わり」
「ええ、終わりです」
それは、初めからわかっていた事。
次の瞬間、ルナは僕の手を優しく取り、握りしめた後ゆっくりと消えて行ってしまう。
「出会う事が出来たら――」
――それは、この世界ともお別れと言う事です。
ルナがそのように言い残した後、僕は静かに目を閉じた。
自分自身の願い。
全てが終わった時には、僕はこの世界にはもう居ないのであろうと分かっていたからこそ、僕はクロさんの事を思い出した。
「……ああ、だから、ダメなんだよなぁ、僕」
いつの間にか依存し始めていた存在が居る事は既に理解していたからこそ、出来たらもう一つ、願い事が出来ないかなと思いながら、目を閉じた。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました
十夜 篁
BL
初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。
そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。
「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!?
しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」
ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意!
「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」
まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…?
「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」
「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」
健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!?
そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…
《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~
黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。
※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。
※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる