11 / 32
10.二回戦行く前に甘いチョコレートパフェでも食べませんか?【後編】
しおりを挟むお店の中に入り、ラティさんとクロさんにマグカップで作った小さなチョコレートパフェを見せる。
お互い無言のままチョコレートパフェを見つめた後、スプーンですくって一口、口の中に入れる。
そして、二人の目が輝くと同時に、先ほどの殺気も消え去ったかのように、何事もなかったかのように二人は無言の状態でチョコレートパフェを見つめていた。
二人の様子を見た僕は安堵の息を吐くことが出来た。
「調理みたいなことはしてないんですけど、コンフレークを入れて、バニラアイスやチョコをトッピングしたりしながら作ったものです。材料が揃えばだれでも簡単にできますよ」
「「……」」
「因みに僕は甘いものと一緒に紅茶をお勧めしますね。あ、あったかい紅茶が最高に美味しいんですよー」
そう言いながら僕は新たにコップを二つ用意し、二人のチョコレートパフェの隣に置いた。
あくまでもこれは僕の好みを少しだけ押し付けている感じなのだが、それでも二人は黙ったままもう一口、パフェを口の中に入れた後、僕が用意した紅茶を飲む。
半分ほど紅茶を飲み、それでも尚無言のまましゃべろうとせず、これはダメだっただろうかと笑顔を見せつつも内心ドキドキしている僕。
しかし、二人は手を止める事はない。用意されたものを無言で食べ続ける姿を、その目で見ることになった。
しばらく無言で食べ続ける二人だったが、小さなマグカップだと言う事もあり、ぺろりと二人は平らげてしまった。
平らげると同時、二人は空になったマグカップを僕に渡して答えた。‘
「「おかわり‼」」
「ま、まいどありー……」
キラキラした目とおかわりの言葉を聞いて、気に入ってくれたのだなと理解した僕はすぐに新たにマグカップで作ったチョコレートパフェを作り直すのだった。
※
二人は三杯も完食されており、思わず僕は二人を見つめながらすごいなと認識する。
マグカップを洗っている間に、ラティさんはクロさんに話しかけていた。
「あんまり店主さんを困らせないでよクソ悪魔」
「そんなのお前に関係ないだろう?」
「関係あるの!……わたしはもうこのお店のカレーライスを食べないと、仕事やってけないんだから」
「『死の森』と呼ばれている偏屈な場所に、しかも満月の夜にしか現れない店でも、か?」
「うん、私の舌はもう店主さんに奪われてしまったのさ」
ドヤ顔を見せながら答えるラティさんに、耳で聞いていた僕は笑うことしか出来ない。
しかし、クロさんの言う通り、このお店は満月の夜でしか現れず、そして場所は『死の森』と呼ばれている森の中だ。凶暴な魔獣たちが住み着いている場所でもあり、入ったら最後――と言われているとラティさんから聞いた事がある。
ラティさんはコップを洗っている僕に視線を向けながら話しかける。
「ねえ店主さん。前々から気になってたんだけど、どうしてこんな場所にお店をやってるの?」
「あはは……すみません、ノーコメントで」
「えー、聞きたいー」
「そうだな、俺も聞きたいな」
「クロさんまで……」
チョコレートパフェを食べたキラキラした両目が僕に向けられている。しかし、僕は答える事が出来ないため笑って誤魔化すことしか出来ない。
言ったところで彼らは信じてくれるのだろうかと頭の中にその言葉が過る。
たった一言、僕は二人に向けて答える。
「そうですね、うまく説明は出来ませんけどこれだけは言えます」
「え?」
「――僕は望んでここにいる」
コップを洗う手が止まり、その一言を口にする。
そしてラティさんとクロさんの二人に向けて、笑みを向ける。
その顔が何処か悲しい表情をしていたなど、僕は知らないまま。
ラティさんとクロさんの二人が、その表情を見て少しだけ驚いていた事など、知る由もない。
だからなのかもしれない。
突然クロさんが立ち上がり、そのまま僕のところに早足で近づいてきた。
一体どうしたのかわからない僕は目を見開き、近づいてくるクロさんに声をかけようとする。しかし、かけることが出来なかった。
「クロさ――」
彼の名を呼ぼうとすると同時に、クロさんが僕に手を伸ばし、両手で僕の体を包み込むように抱きしめる。
いつもの、ふざけた様子のクロさんの行動ではなく、明らかに違うと感じた僕は反応が出来なくなってしまう。
「――すまない、店主」
「え……」
「そんな顔、させるつもりはなかった」
「あ、あの……」
「頼む」
「クロさん……?」
微かに抱きしめられている体から震えを感じる。何故震えているのかわからないが、いつものクロさんではないのは間違いない。
「店主」
「は、はい」
「望んでいるなら、消えないよな?」
「……え?」
耳元で囁くような言葉で、クロさんはそのように話しかけてきた。
その意味が理解できないまま、僕はクロさんから離れることが出来ず、呆然とその場で立ち尽くすことしか出来ない。
そして、頭の中によぎる言葉は一つ。
(……それは、出来ない約束です、クロさん)
いつか来る『結末』を知っているからこそ、僕はクロさんの言葉の返答が出来ずにいたのだった。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!


失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
まだ、言えない
怜虎
BL
学生×芸能系、ストーリーメインのソフトBL
XXXXXXXXX
あらすじ
高校3年、クラスでもグループが固まりつつある梅雨の時期。まだクラスに馴染みきれない人見知りの吉澤蛍(よしざわけい)と、クラスメイトの雨野秋良(あまのあきら)。
“TRAP” というアーティストがきっかけで仲良くなった彼の狙いは別にあった。
吉澤蛍を中心に、恋が、才能が動き出す。
「まだ、言えない」気持ちが交差する。
“全てを打ち明けられるのは、いつになるだろうか”
注1:本作品はBLに分類される作品です。苦手な方はご遠慮くださいm(_ _)m
注2:ソフトな表現、ストーリーメインです。苦手な方は⋯ (省略)

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~
黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。
※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。
※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる