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06.突然のお客様には簡単に出来る野菜炒め定食を!【後編】

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 冷蔵庫から取り出したのはもやしとキャベツ、ニンジンなどの野菜。そして豚こまが入っているパックを取り出し、まず野菜を一口サイズに包丁で切り始める。
 豚こまも三センチぐらいに切り分け、塩胡椒と片栗粉をまぶしていき、それが終わるとフライパンに油をひき最初に豚こまを炒める。
 色が変わったのを確認すると、今度は野菜を入れ始め、そのまましんなりするまで炒め続ける。
 一度全ての材料を皿に盛り付け、最後にもやしのみを簡単に炒めた後、その後再び残りのものを全てフライパンに入れ、塩、コショウで味付けをして完成。
 温かい白いご飯と同じく豆腐とわかめの味噌汁を盛り付けて、そのまま大男さんに出した。
「おまちどうさま」
「ッ……」

「野菜炒め定食です」

 笑顔で大男さんの前に置くと同時、喉が微かに唾を飲み込む様子が見られた。
 箸だと食べづらいだろうかと思って、スプーンとフォークを一応置いてみたのだが、大男さんはまずフォークで野菜炒めを一口、口の中に入れる。
 瞬間、まるで何かのスイッチが入ったかのように、ご飯と一緒に野菜炒めを食べ始めたので、僕は思わず笑ってしまった。
 笑った僕の姿に気づいたのか、半分ほど野菜炒めを召し上がってしまった大男さんはご飯粒を口元につけながら、視線を向ける。
「な、何かおかしいことでもしただろうか?」
「いえいえ、とても美味しそうに食べるので、作ったかいがあります」
「……そ、そうか」
「はい、そうです。あ、ご飯なくなりそうですね……お替りありますけど、どうします?」
「いただく」
「はい、毎度あり」
 空になってしまったご飯の茶碗を少し恥ずかしそうにしながら渡してきたので、僕は笑顔でその茶碗を受け取り、そのまま厨房の方に行こうとすると、カランカランっと店の扉の音が聞こえてくる。
 お客さんが来た合図だ。
 顔を覗くようにすると、少し不機嫌そうな顔をしながら現れたクロさんが僕の目に映る。
「あ、クロさん」
「すまない店主、いつもより遅く――」
 ため息を吐きながら乱れた黒い髪を手で直しながら、いつもの笑顔で僕に向けて挨拶をしようとした矢先、いつも嗅いだことのない匂いと新しいお客さんの顔を見た瞬間、何故かクロさんの顔が不機嫌になっている。
 大男さんもクロさんを見て一瞬驚いた顔をしていたのだが、すぐに無表情の顔をし、野菜炒めを食べ続ける。
「……どうしてお前がここにいるんだ」
「え、クロさんこの方とお知り合いなんですか?」
「ああ、俺のぶ……いや、古い友人だ。今日会う約束をしていたんだが、待っていても来なくてな……」
「へ、へぇ……」
「まさか店主の店にいたとは思わなかった。何かされたか?」
「大きな体の人が突然入ってきたので、泣き叫んでしまったことはありましたが、それ以外はとてもやさしい人なんで大丈夫ですよ。お腹が空いていたみたいなので野菜炒めを出したんですけど」
 どうやらクロさんとこの人は知り合いらしく、会う予定をしていたらしい。しかし、どうやら大男さんは来なかったらしく、店に来る時間がいつもより遅くなってしまった、と言う事なのだろう。
 外は大雨なのだから、無理してこなくてもいいような気がするのだが、そんな事もクロさんには言えるわけがない。
「今日もいつもどおりでいいですか?」
「ああ、頼む……ついでに店主、今日も可愛いらしい顔を俺に見せてくれよな?」
「あはは……」
 相変わらずアピールは忘れないらしく、思わず笑ってしまったのだが、僕はいつものようにパンケーキを作る為に奥に行く。
 その間、クロさんと大男さんが何を話しているのか、全く知らなかった。 
 パンケーキを作り終えて出てみると、既にそこには大男の姿がなく、クロさんのみ椅子に座っている。
「あれ……」
「ああ、ルギウスなら帰ったぞ。店主にご馳走様を伝えてほしいと」
「そうなんですか……あ、ルギウスさんって言うんですね」
「――また、来たら何か食べさせてくれないか、店主」
「別にいいですよ。そのためのお店ですから」
 笑顔で返事をすると、その笑顔を見たクロさんは優しそうな顔をしながら笑う。その笑みを見た瞬間少しだけときめいてしまったなどと、言えるはずがなく、今日も僕はクロさんに口説かれながら楽しい時間を過ごすのだった。

「――あなたが満月の夜に消えるのは、ここに通うためだったんですね」
「いうなよルギウス。俺が何者なのか、どんな存在なのか……いつか、時が来たら言うつもりだ」
「それほどあの人間が?」
「ああ、好きだ。俺の心を溶かしてくれた唯一の人間だからな」
「わかりました……では、俺は任務に戻ります。あと、約束すっぽかしてすみませんでした」
「原因聞いていいか?」
「道に迷いました。同じ道なのに……」
「……それはお前が方向音痴だからだろう、ルギウス」

 このような会話がされていたなど、僕は知らない。
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