58 / 65
成長
しおりを挟む
めちゃくちゃに、イきまくってしまった。
数日前の己の痴態を思い起こすたび、リトは羞恥でどうにかなりそうだった。
(恥ずかしい……)
いくら疼いていたとはいえ、ヴォルフの指であんなに乱れてしまうとは。しかも、脱衣場にはノアとレヴィが控えていたのだ。信頼する侍従と清廉な護衛騎士に、一部始終を聞かれていたのである。
(おれ、ぜったい変なこと口走ってた。ドライでイキすぎて最後のほうよくわかんなくなってたし)
とはいえ、もっと、と何度もねだったことも、きもちいい、と叫んだことも覚えている。
(ヴォルフは、フェルの魂が成長しているからだって言ってたけど……)
聖獣としてのリトの種族であるフェルの中でも、母胎となるマテリスの素養があるものは特に中で感じやすくなるらしい。
――淫奔であることはおまえの正しい姿だ。恥ずべきことではない。
湯あたりしてしまったリトに治癒魔法をかけてくれたあと、ヴォルフは真面目な顔をしてそう言った。以前にもそのようなフォローをしてくれたことがあったが、だからといって「よかった~!」とはならない。
ヴォルフから話が伝わったのか、週明けに邸へやってきたダレンにも「子宮ができたとお聞きしました。おめでとうございます」とにこやかに祝われてしまった。聖獣の魂が正しく成長しているということだから、魔界にとっては確かにめでたいことなのかもしれない。
「リト、子宮ができたんだって?」
おおよそ一週間ぶりに邸を訪ねてきたハロルドは、リトの肩を抱いて客間に入るなりそう言った。
「なっ、なんで知ってるんですか?!」
「兄上たちから聞いた」
ダレンが知っているということは、当然王宮にも報告されたのだ。彼はリトの教育係でありつつ後見人のような立ち位置でもあるから、その成長を記録し報告する義務がある。
「おめでとう。皆よろこんでいたぞ」
「……ありがとう、ございます……?」
なんとなく気恥ずかしくて、疑問形になってしまった。
「発情期が来るのがいまから待ち遠しいな」
リトを抱き寄せたままソファに腰を下ろしたハロルドが、そんなことを言いながらこめかみにキスをしてきた。
――発情期。いずれはリトの身にも訪れるだろうとヴォルフも言っていた。
(ぜんぜん実感ない。発情期がどんなかんじなのかもわかんないし)
ヴォルフにも、年に二回発情期があるとこのあいだ教わった。通常は二、三週間ほどでおさまるが、そのあいだは魔界のマナを調整することができないので、魔族たちにとっては他人事ではないらしい。発情期のヴォルフの相手を務めるために、国中から選りすぐりの娼妓たちが何十人と聖殿へ送り込まれてくると聞いた。
(死活問題だもんなあ……)
ちなみに第五王子と第七王子の母であるエレイン王妃は元高級娼夫で、いまでも発情期のたびに聖殿に招ばれるヴォルフのお気に入りだ。後宮入りした当時は、聖獣の情人を国王が寝取ったとかで話題になったのだと、いつぞやのサロンで本人が笑いながら教えてくれた。そういうことをあっけらかんと笑い飛ばしてしまえるひとなのだ。切れ長の双眸がうつくしいものすごい美人なのだが、言動がヤンキーっぽいのでリトはすこし苦手である。
「リトは、三代前の聖獣と同じ種族なんだろう? その激しい発情を鎮めるために、送り込まれた娼夫だけでは足りずに王宮中の魔族が駆り出されたっていう伝承の」
「な、なんですかその伝承……?!」
「まあ、二千年近くまえの話だから、伝わるうちにいろいろ盛られているとは思うが」
ハロルドは笑いながら言って、その逞しい腕でリトの腰を抱いた。
「発情期が来るときまでには、君を抱けるようになっていることを願うよ」
「う……」
ストレートにそういうことを言われると、反応に困ってしまう。
(でも、それまでに『はじめてのえっち』できてないとほんとにまずい気がする……)
発情してわけのわからない状態で大切にしてきた純潔を失うなんて嫌すぎるし、いつもフェリックスから護ってくれているレヴィに申し訳なさすぎる。
(ちゃんと、見つけなきゃ……おれのはじめてを、捧げられるひと……)
「ところでリト。子宮ができたってことは、濡れるようになったんだろう?」
「えっ、」
びくっとして見上げた先で、ハロルドはにこりとほほ笑んでいた。完璧な王子様スマイルだ。
「俺にも、君の成長を確かめさせてくれ」
数日前の己の痴態を思い起こすたび、リトは羞恥でどうにかなりそうだった。
(恥ずかしい……)
いくら疼いていたとはいえ、ヴォルフの指であんなに乱れてしまうとは。しかも、脱衣場にはノアとレヴィが控えていたのだ。信頼する侍従と清廉な護衛騎士に、一部始終を聞かれていたのである。
(おれ、ぜったい変なこと口走ってた。ドライでイキすぎて最後のほうよくわかんなくなってたし)
とはいえ、もっと、と何度もねだったことも、きもちいい、と叫んだことも覚えている。
(ヴォルフは、フェルの魂が成長しているからだって言ってたけど……)
聖獣としてのリトの種族であるフェルの中でも、母胎となるマテリスの素養があるものは特に中で感じやすくなるらしい。
――淫奔であることはおまえの正しい姿だ。恥ずべきことではない。
湯あたりしてしまったリトに治癒魔法をかけてくれたあと、ヴォルフは真面目な顔をしてそう言った。以前にもそのようなフォローをしてくれたことがあったが、だからといって「よかった~!」とはならない。
ヴォルフから話が伝わったのか、週明けに邸へやってきたダレンにも「子宮ができたとお聞きしました。おめでとうございます」とにこやかに祝われてしまった。聖獣の魂が正しく成長しているということだから、魔界にとっては確かにめでたいことなのかもしれない。
「リト、子宮ができたんだって?」
おおよそ一週間ぶりに邸を訪ねてきたハロルドは、リトの肩を抱いて客間に入るなりそう言った。
「なっ、なんで知ってるんですか?!」
「兄上たちから聞いた」
ダレンが知っているということは、当然王宮にも報告されたのだ。彼はリトの教育係でありつつ後見人のような立ち位置でもあるから、その成長を記録し報告する義務がある。
「おめでとう。皆よろこんでいたぞ」
「……ありがとう、ございます……?」
なんとなく気恥ずかしくて、疑問形になってしまった。
「発情期が来るのがいまから待ち遠しいな」
リトを抱き寄せたままソファに腰を下ろしたハロルドが、そんなことを言いながらこめかみにキスをしてきた。
――発情期。いずれはリトの身にも訪れるだろうとヴォルフも言っていた。
(ぜんぜん実感ない。発情期がどんなかんじなのかもわかんないし)
ヴォルフにも、年に二回発情期があるとこのあいだ教わった。通常は二、三週間ほどでおさまるが、そのあいだは魔界のマナを調整することができないので、魔族たちにとっては他人事ではないらしい。発情期のヴォルフの相手を務めるために、国中から選りすぐりの娼妓たちが何十人と聖殿へ送り込まれてくると聞いた。
(死活問題だもんなあ……)
ちなみに第五王子と第七王子の母であるエレイン王妃は元高級娼夫で、いまでも発情期のたびに聖殿に招ばれるヴォルフのお気に入りだ。後宮入りした当時は、聖獣の情人を国王が寝取ったとかで話題になったのだと、いつぞやのサロンで本人が笑いながら教えてくれた。そういうことをあっけらかんと笑い飛ばしてしまえるひとなのだ。切れ長の双眸がうつくしいものすごい美人なのだが、言動がヤンキーっぽいのでリトはすこし苦手である。
「リトは、三代前の聖獣と同じ種族なんだろう? その激しい発情を鎮めるために、送り込まれた娼夫だけでは足りずに王宮中の魔族が駆り出されたっていう伝承の」
「な、なんですかその伝承……?!」
「まあ、二千年近くまえの話だから、伝わるうちにいろいろ盛られているとは思うが」
ハロルドは笑いながら言って、その逞しい腕でリトの腰を抱いた。
「発情期が来るときまでには、君を抱けるようになっていることを願うよ」
「う……」
ストレートにそういうことを言われると、反応に困ってしまう。
(でも、それまでに『はじめてのえっち』できてないとほんとにまずい気がする……)
発情してわけのわからない状態で大切にしてきた純潔を失うなんて嫌すぎるし、いつもフェリックスから護ってくれているレヴィに申し訳なさすぎる。
(ちゃんと、見つけなきゃ……おれのはじめてを、捧げられるひと……)
「ところでリト。子宮ができたってことは、濡れるようになったんだろう?」
「えっ、」
びくっとして見上げた先で、ハロルドはにこりとほほ笑んでいた。完璧な王子様スマイルだ。
「俺にも、君の成長を確かめさせてくれ」
165
お気に入りに追加
2,198
あなたにおすすめの小説
無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました
かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。
↓↓↓
無愛想な彼。
でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。
それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。
「私から離れるなんて許さないよ」
見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。
需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる