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侍従と騎士

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 ヴォルフの手によってリトが淫らに鳴かされているあいだ、浴室の外の脱衣場にはノアとレヴィが控えていた。

「ああっ♡ あ、あ、~っ♡ いくっ、いく、い、く……ぅ♡」

(……三回目)

 ノアは浴室に続く扉の前でバスタオルを手に立ったまま、漏れ聞こえてくるリトの声を聞いて絶頂の回数を数えていた。

(まだ声に余力がある。出さずに達しておられるのだろうな)

 リトは射精すると一度で疲れてしまうから、長く愉しませたいときにはキスや乳首への愛撫に時間をかけていた。魔族や天族と違って人間はアナルが濡れないため、そもそも触れる選択肢から除外していたが、これだけ悦んでいるのなら次回からはそちらに重点を置いたほうがいいだろう。

「あ~っ♡ きもちいい、んあっ、あ、あー……♡」

(感じきっているときの、とろけた声)

 愛らしいな、と思いながら視線を上げた先には、レヴィ・グリフィスの強張った横顔があった。彼はノアとは反対側の、廊下に続く扉の前に立っている。

 後宮に仕える侍従だったノアと王国騎士団の騎士であるレヴィとは元より関わりもなく、同じ主に仕えているいまも特に親しくはない。とはいえ不仲というわけでもないので顔を合わせれば挨拶はするし、業務上必要な会話以外にも世間話程度はする。
 ここひと月ほどのあいだに、任務に忠実であっただけの護衛騎士にわかりやすく目覚ましい変化があったことを、当然ノアもわかっていた。

(よく耐えていらっしゃる)

 幼い頃から王族に仕える侍従となるために教育を受けてきたノアは、性的興奮をコントロールする術を会得している。あるじに求められたときにはきちんと機能するが、それ以外のときには平静を保つことができる。
 しかし、レヴィはその精神力でもってのみ凛と背筋を伸ばしているのだ。

(話を聞く限り、経験などないだろうに……いや、経験がないから、か)

 なにも知らぬ純潔であるからこそ、どんなに淫らな声を聞いても、姿を見ても、自身の欲望から切り離すことができるのかもしれない。

(いちどでもあの肌に触れたら、色に狂ってしまわれるかもしれないな。それとも、それでもまだ清廉としていられるのだろうか)

 後宮に長くつとめていたノアの目には、レヴィがリトへ向けるその恋い慕う眼差しが、ひどく眩しいものに見える。同時に、おそろしくもあった。

 愛は、ひとを狂わせる。
 そのことを、ノアはよくわかっていた。

 ――愛しているよ、ノア。僕のうつくしい小鳥。
 ――おまえがどこへも行けないように、羽根を折ってしまおうか。

 ――それとも、僕の羽根を、おまえが折ってくれる?

 ふとした瞬間に脳裏に蘇るその声に、また呼吸が浅くなる。かつてノアが全身全霊で仕えたあるじは、そのほとんど狂気といってもいい愛でノアを呪ったまま、輪廻の海へ還ってしまった。

(勤務中だ。思い出すな。呼吸を整えろ)

 ノアはぐっと拳を握り、愛らしい主人の声に耳を傾けた。

(リト様。我があるじ)

 もう二度とだれも愛さないと誓ったのに、あの日、あのいじらしい眼差しに選ばれた瞬間に、ノアのこころは愛と歓びに溢れてしまった。

「あ、あ、あ、いく……!♡」

(四回目)

 そろそろ疲れてくる頃だ。長く湯に浸かっているし、上がってきたらたっぷりと水分を摂らせなければならない。

「あ!♡ だめっ、だめ、いまいってる、いって……っ♡ あ、あーっ♡ またきちゃう、きちゃう、あ、あ、あ、い、く、っ♡」

(五回目……ああ、意識が飛んでしまわれたかな)

 ぴたりと声が止んだので、のぼせてしまったのかもしれない。ヴォルフがついているなら治癒魔法をかけてくれるだろうが、しばらく休ませたい。

 リトを抱えているのだろう浴室の中の気配がこちらへ向かってくる。愛するあるじを迎えるため、ノアはバスタオルを広げた。



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