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フェリックスの提案
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リトのオタク心がどんなにもみくちゃにされようと、なにをどうすることもできないのが現状だった。
レヴィに想ってもらえるのは正直なところうれしいが、その気持ちに応えることはできない。とはいえ、レヴィのほうからリトとの関係をどうこうしようという意図も感じられないのだ。日々、ひたすらに好意を向けてくるだけなのである。
(もしかしたら、無自覚なのかもなあ……)
ゲームの中のレヴィは、色事にはてんで疎かった。無自覚に攻略対象を煽って壁ドンとかされてしまうタイプだったのだ。
(おれのほうから下手なことしちゃうと、逆効果かもしれない)
メリルも同意見だったので、レヴィに関してはひとまず静観することになった。メリルには「極力思わせぶりな態度を取らないように!」と忠告されたが、そもそもリトはこれまでも思わせぶりな態度など取った覚えがない。
(でも、気持ちを知ってて無視するみたいの、なんかヤダな……)
どうすることもできないとはいえ、やはり悪いことをしているような気分になる。ハロルドやフェリックスのような息をしているだけでモテるひとなら、こんなふうにいちいち思い悩んだりしないのだろうか。
「リト、フェラチオを覚えよう」
息をしているだけでモテる天使のような美貌の皇子は、客間のソファに座るなりそう言った。
マグナルクへやってきてから多少えっちな話題にも耐性がついたリトだが、さすがに一瞬固まってしまった。
「い、いきなりなんですか?!」
「前々から思ってたんだ。やっぱりキスだけじゃ効率が悪すぎるよ」
それを言われてしまうと、リトも反論できない。毎週金曜日の身体検査では、一応『ゆっくりと』だが成長している、と評価されているが、いつまでも『ゆっくりと』では困るのは事実なのだ。
「でも、気持ちよくならないとだめだってヴォルフが……」
「キスで本気イキできるくらい敏感なおくちなのに、フェラで感じないわけないでしょ」
「う……っ、そ、そんなの、やってみないとわかんないです!」
「だからやってみようって言ってるんだよ、おばかさんだね♡」
フェリックスは愛おしげにリトの顎を指先でくすぐって、扉のほうへ顔を向けた。
「ヴィニー」
声が届くように、魔力をのせた声だ。フェリックスの魔力の香りなのだろう、清らかな花のような淡くみずみずしい香りがした。
「失礼いたします」
そう間を置かずに扉が開いて、フェリックスの侍従が客間へと入ってきた。緑がかった黒髪を撫で付け、いつものようにすんとした無表情をしている。
「ヴィンセント」
リトが名前を呼ぶと、こちらを見たヴィンセントは途端に申し訳なさそうな顔になった。
「ごめんねリト様、こいつ言い出したら聞かなくてさ……」
主人をこいつ呼ばわりするヴィンセントは、リトがマグナルクに来てはじめてできた友人だ。毎週金曜日、聖殿から帰る途中に寄り道する薬草園の温室で、だらだらとおしゃべりしている。薬草園の管理人やダレンをまじえてお茶をしたりもして、週に一度のいい息抜きになっていた。
ヴィンセントがフェリックスの侍従として邸にやってくるときは挨拶をする程度なので、髪を撫で付け、きっちりと執事服を着ている彼と話すのは不思議な感じがする。
「あ……もしかして、ヴィンセントが教えてくれるの?」
以前フェラチオが得意だと言っていたことを思い出したリトに、ソファの傍らに立ったヴィンセントは微妙な顔で頷いた。
「でもリト様、ほんとにいいの? いやだったらいやって言っていいんだよ。無理強いしちゃだめだって天界からも言われてるし」
「無理強いなんてしてないでしょ?」
「殿下。大事なのはリト様がどう思われるかですから」
リトはヴィンセントとフェリックスの顔を交互に見たあと、いつも通り扉の横に立っているレヴィを振り向いた。
気付いたレヴィが、気遣わしげな視線を投げて寄越す。
「レヴィ、廊下に出てて」
「えっ?! いや、しかし……」
「大丈夫だよ、いざという時はヴィンセントが止めてくれるから」
「お目付け役ですから、そこはご心配なく」
「ですが……」
なおも渋るレヴィを、リトは羞恥に潤んだひとみでじっと見つめた。
「レヴィに見られてると恥ずかしいから……お願い」
こんなことをお願いするのも恥ずかしくて、頬が熱い。
レヴィはぐっと息を詰め、空色のひとみを揺らめかせてリトを見た。
「……なにかあったときは、必ず呼んでください」
「うん。ありがとう」
一礼して、レヴィは部屋を出て行った。
扉が閉まるのを待ってフェリックスに向き直ると、ソファの肘置きに頬杖をついた天使は怪訝そうに眉をひそめていた。
「なんでみんな、ぼくがなにかやらかす前提でいるの?」
「日頃の行いですよ」
ぴしゃりとヴィンセントが言った。
レヴィに想ってもらえるのは正直なところうれしいが、その気持ちに応えることはできない。とはいえ、レヴィのほうからリトとの関係をどうこうしようという意図も感じられないのだ。日々、ひたすらに好意を向けてくるだけなのである。
(もしかしたら、無自覚なのかもなあ……)
ゲームの中のレヴィは、色事にはてんで疎かった。無自覚に攻略対象を煽って壁ドンとかされてしまうタイプだったのだ。
(おれのほうから下手なことしちゃうと、逆効果かもしれない)
メリルも同意見だったので、レヴィに関してはひとまず静観することになった。メリルには「極力思わせぶりな態度を取らないように!」と忠告されたが、そもそもリトはこれまでも思わせぶりな態度など取った覚えがない。
(でも、気持ちを知ってて無視するみたいの、なんかヤダな……)
どうすることもできないとはいえ、やはり悪いことをしているような気分になる。ハロルドやフェリックスのような息をしているだけでモテるひとなら、こんなふうにいちいち思い悩んだりしないのだろうか。
「リト、フェラチオを覚えよう」
息をしているだけでモテる天使のような美貌の皇子は、客間のソファに座るなりそう言った。
マグナルクへやってきてから多少えっちな話題にも耐性がついたリトだが、さすがに一瞬固まってしまった。
「い、いきなりなんですか?!」
「前々から思ってたんだ。やっぱりキスだけじゃ効率が悪すぎるよ」
それを言われてしまうと、リトも反論できない。毎週金曜日の身体検査では、一応『ゆっくりと』だが成長している、と評価されているが、いつまでも『ゆっくりと』では困るのは事実なのだ。
「でも、気持ちよくならないとだめだってヴォルフが……」
「キスで本気イキできるくらい敏感なおくちなのに、フェラで感じないわけないでしょ」
「う……っ、そ、そんなの、やってみないとわかんないです!」
「だからやってみようって言ってるんだよ、おばかさんだね♡」
フェリックスは愛おしげにリトの顎を指先でくすぐって、扉のほうへ顔を向けた。
「ヴィニー」
声が届くように、魔力をのせた声だ。フェリックスの魔力の香りなのだろう、清らかな花のような淡くみずみずしい香りがした。
「失礼いたします」
そう間を置かずに扉が開いて、フェリックスの侍従が客間へと入ってきた。緑がかった黒髪を撫で付け、いつものようにすんとした無表情をしている。
「ヴィンセント」
リトが名前を呼ぶと、こちらを見たヴィンセントは途端に申し訳なさそうな顔になった。
「ごめんねリト様、こいつ言い出したら聞かなくてさ……」
主人をこいつ呼ばわりするヴィンセントは、リトがマグナルクに来てはじめてできた友人だ。毎週金曜日、聖殿から帰る途中に寄り道する薬草園の温室で、だらだらとおしゃべりしている。薬草園の管理人やダレンをまじえてお茶をしたりもして、週に一度のいい息抜きになっていた。
ヴィンセントがフェリックスの侍従として邸にやってくるときは挨拶をする程度なので、髪を撫で付け、きっちりと執事服を着ている彼と話すのは不思議な感じがする。
「あ……もしかして、ヴィンセントが教えてくれるの?」
以前フェラチオが得意だと言っていたことを思い出したリトに、ソファの傍らに立ったヴィンセントは微妙な顔で頷いた。
「でもリト様、ほんとにいいの? いやだったらいやって言っていいんだよ。無理強いしちゃだめだって天界からも言われてるし」
「無理強いなんてしてないでしょ?」
「殿下。大事なのはリト様がどう思われるかですから」
リトはヴィンセントとフェリックスの顔を交互に見たあと、いつも通り扉の横に立っているレヴィを振り向いた。
気付いたレヴィが、気遣わしげな視線を投げて寄越す。
「レヴィ、廊下に出てて」
「えっ?! いや、しかし……」
「大丈夫だよ、いざという時はヴィンセントが止めてくれるから」
「お目付け役ですから、そこはご心配なく」
「ですが……」
なおも渋るレヴィを、リトは羞恥に潤んだひとみでじっと見つめた。
「レヴィに見られてると恥ずかしいから……お願い」
こんなことをお願いするのも恥ずかしくて、頬が熱い。
レヴィはぐっと息を詰め、空色のひとみを揺らめかせてリトを見た。
「……なにかあったときは、必ず呼んでください」
「うん。ありがとう」
一礼して、レヴィは部屋を出て行った。
扉が閉まるのを待ってフェリックスに向き直ると、ソファの肘置きに頬杖をついた天使は怪訝そうに眉をひそめていた。
「なんでみんな、ぼくがなにかやらかす前提でいるの?」
「日頃の行いですよ」
ぴしゃりとヴィンセントが言った。
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