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エロゲーみたいな展開
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二杯目の茶を淹れてくれたダレンが、茶器を置いてヴォルフと向き直った。リトも膝の上の手をぎゅっと握って、ヴォルフを見遣る。
ヴォルフはしばし言葉を探すように黙り込んだあと、茶で唇を湿らせてからリトを見た。
「おまえの聖獣の魂が、まだ未熟な赤子のままだという話はしたな」
「はい」
「聖獣の赤子というのは、母親の胎にいるあいだは臍の緒から、産まれてからは母乳から、母親に与えられるマナを吸って育つ」
「……はい」
マナと言われるとややこしいが、要は人間の赤ん坊と変わらない。リトが戸惑いつつもうなずくと、ヴォルフは言葉を続けた。
「つまり、いまのおまえもそうなんだ、リト。いまのおまえは、まだ自分からマナを取り込むことができない。
人間のうつわという鎧があるゆえに死ぬことはないだろうが、聖獣の魂のほうは、だれかからマナを与えてもらわねば永遠に成長できない」
「は、はい……」
さっきから、リトはうなずくことしかできない。いまいちピンときていないことは、ヴォルフにも伝わったのだろう。
急に直接的な表現になった。
「効率よくマナを吸収するには、性交が最も適している。おまえが挿入するほうではなく、おまえの尻に他人の性器を挿入して、胎にマナを込めた精液を注いでもら――」
「ちょっ、ちょ、ちょっと待ってください!!」
そこまで言われてようやく、リトはなんだか大変な展開になってきていることを察した。
(急にエロゲーみたいな話になってきたんですけど?!)
そもそもここはエロゲーの舞台の元になった――と思われる――世界なのだが、リトはまさか自分にこんなフラグが立つとは思ってもみなかったので、完全に油断していた。このまま至って健全な第二の人生を歩むものだとばかり思っていた。
(えっ、ど、どうしよう)
両手で頭をかかえて、リトはどうにかフラグ回避できないか、混乱する頭で必死に考えを巡らせた。
「せ、性交の次に効率がいいのは……」
「口淫だな。だが、おまえのほうも快楽を得ないとマナの吸収は悪い。
マナを取り込むときには、できるだけ快楽が伴うことが大事なんだ。痛みや不快感を伴うものは、無意識に魂が拒絶してしまう」
「母乳でもいいなら、ダーヴィド殿下に頼めば吸わせてもらえると思いますけど」
「や、だ、だめですよそんなの……っ」
先ほど会ったばかりの美青年の顔を思い出して、リトはつい赤面してしまった。卵生なのに母乳出るんだ、と頭の片隅の妙に冷静なところが思う。
「わたしたちが他人にマナを分け与えるのは、基本的に生殖行為のときだけなんです。番が受精したあと、卵ができあがって生まれてくるまでの数日間、母胎にマナを注ぎ続ける必要があるんですよね。抱卵しているあいだも、孵化して授乳が始まってからも、母親が赤ちゃんにマナを与えるぶん補給する必要があるので、食事と性交で補います。そういった生態ですから、与える側としても、精液にマナを込める方法がいちばんやりやすいんですよ」
「あとは、そうだな……だいぶ効率は落ちるが、接吻でもマナをやり取りすることはできる。とはいえ、いちどに渡せる量が多くないから、やはり性交を勧める」
「ち、ちなみに、せっ、性交の場合だったら一回で済むんですか?」
そんなわけはないだろうなと思いながら訊いてみたら、ヴォルフはやはり真顔で首を横に降った。
「われわれが一日に吸収できるマナの量には、上限がある。聖獣の力に目覚めれば、余剰分を結晶化することで実質無限に取り込めるようになるが、ふつうは上限を超えていくら注いだところでからだの外へ溢れていってしまう。赤子だって、腹がいっぱいになればもう乳は吸わないだろう」
「う……やっぱり、そうですよね……。じゃあ……」
何回くらいやれば、という問いを口に出すのは躊躇われた。十八禁のBLゲームをやり込んで当て馬キャラにガチ恋した挙句、ちくオナとアナニーにどハマりして自らの手ですっかり開発済みにしてしまったリトだったが、現実ではちょっとした下ネタすら恥ずかしくて言えないタイプなのだ。
もごもご言っているリトを見て、ヴォルフは察してくれたらしい。
「聖獣の仔が乳離れして、食物や自然界からマナを得られるようになるまでおおよそ一年かかる。おまえはだいぶ未熟だから、もっとかかるかもしれないな。
いまのおまえの容量なら一日に……そうだな、せめて三回は胎の中に出してもらいたいところだ」
「さ、三回?! そんなに?!」
「もっと多くてもいい。足りないよりは溢れるくらいのほうがいいからな」
「でも……でも、そもそも、相手がいな、」
「リトさま!」
リトの言葉を遮って、ダレンが声を上げた。胸の前で両拳を握り、ひどく真剣な顔をしている。
「我らが守護者さまのためとあらば、このマグナルクに住まう者は皆、よろこんでマナを注いでくれるはずです。それでなくとも、リトさまはおいしそうですから!」
「おいし……?!」
どういう意味だ。冗談を言っている様子でもないので、聞き間違いかもしれない。
ヴォルフがふと居住まいを正し、リト、と厳かな声でリトを呼んだ。
「人間という生き物が、貞操を守ることに妙なこだわりを持っていることは知っている。
だが、安心してほしい。発情と排卵を促すため、多くの夫と日夜まぐわい続けなければならないフェルにとって、淫奔であることはなによりの美徳だ」
曇りのないまなこでそう語るヴォルフに、カルチャーショックどころの騒ぎではないリトは今度こそ泣きそうになった。
「そ、そういう問題じゃないです~……!!」
ヴォルフはしばし言葉を探すように黙り込んだあと、茶で唇を湿らせてからリトを見た。
「おまえの聖獣の魂が、まだ未熟な赤子のままだという話はしたな」
「はい」
「聖獣の赤子というのは、母親の胎にいるあいだは臍の緒から、産まれてからは母乳から、母親に与えられるマナを吸って育つ」
「……はい」
マナと言われるとややこしいが、要は人間の赤ん坊と変わらない。リトが戸惑いつつもうなずくと、ヴォルフは言葉を続けた。
「つまり、いまのおまえもそうなんだ、リト。いまのおまえは、まだ自分からマナを取り込むことができない。
人間のうつわという鎧があるゆえに死ぬことはないだろうが、聖獣の魂のほうは、だれかからマナを与えてもらわねば永遠に成長できない」
「は、はい……」
さっきから、リトはうなずくことしかできない。いまいちピンときていないことは、ヴォルフにも伝わったのだろう。
急に直接的な表現になった。
「効率よくマナを吸収するには、性交が最も適している。おまえが挿入するほうではなく、おまえの尻に他人の性器を挿入して、胎にマナを込めた精液を注いでもら――」
「ちょっ、ちょ、ちょっと待ってください!!」
そこまで言われてようやく、リトはなんだか大変な展開になってきていることを察した。
(急にエロゲーみたいな話になってきたんですけど?!)
そもそもここはエロゲーの舞台の元になった――と思われる――世界なのだが、リトはまさか自分にこんなフラグが立つとは思ってもみなかったので、完全に油断していた。このまま至って健全な第二の人生を歩むものだとばかり思っていた。
(えっ、ど、どうしよう)
両手で頭をかかえて、リトはどうにかフラグ回避できないか、混乱する頭で必死に考えを巡らせた。
「せ、性交の次に効率がいいのは……」
「口淫だな。だが、おまえのほうも快楽を得ないとマナの吸収は悪い。
マナを取り込むときには、できるだけ快楽が伴うことが大事なんだ。痛みや不快感を伴うものは、無意識に魂が拒絶してしまう」
「母乳でもいいなら、ダーヴィド殿下に頼めば吸わせてもらえると思いますけど」
「や、だ、だめですよそんなの……っ」
先ほど会ったばかりの美青年の顔を思い出して、リトはつい赤面してしまった。卵生なのに母乳出るんだ、と頭の片隅の妙に冷静なところが思う。
「わたしたちが他人にマナを分け与えるのは、基本的に生殖行為のときだけなんです。番が受精したあと、卵ができあがって生まれてくるまでの数日間、母胎にマナを注ぎ続ける必要があるんですよね。抱卵しているあいだも、孵化して授乳が始まってからも、母親が赤ちゃんにマナを与えるぶん補給する必要があるので、食事と性交で補います。そういった生態ですから、与える側としても、精液にマナを込める方法がいちばんやりやすいんですよ」
「あとは、そうだな……だいぶ効率は落ちるが、接吻でもマナをやり取りすることはできる。とはいえ、いちどに渡せる量が多くないから、やはり性交を勧める」
「ち、ちなみに、せっ、性交の場合だったら一回で済むんですか?」
そんなわけはないだろうなと思いながら訊いてみたら、ヴォルフはやはり真顔で首を横に降った。
「われわれが一日に吸収できるマナの量には、上限がある。聖獣の力に目覚めれば、余剰分を結晶化することで実質無限に取り込めるようになるが、ふつうは上限を超えていくら注いだところでからだの外へ溢れていってしまう。赤子だって、腹がいっぱいになればもう乳は吸わないだろう」
「う……やっぱり、そうですよね……。じゃあ……」
何回くらいやれば、という問いを口に出すのは躊躇われた。十八禁のBLゲームをやり込んで当て馬キャラにガチ恋した挙句、ちくオナとアナニーにどハマりして自らの手ですっかり開発済みにしてしまったリトだったが、現実ではちょっとした下ネタすら恥ずかしくて言えないタイプなのだ。
もごもご言っているリトを見て、ヴォルフは察してくれたらしい。
「聖獣の仔が乳離れして、食物や自然界からマナを得られるようになるまでおおよそ一年かかる。おまえはだいぶ未熟だから、もっとかかるかもしれないな。
いまのおまえの容量なら一日に……そうだな、せめて三回は胎の中に出してもらいたいところだ」
「さ、三回?! そんなに?!」
「もっと多くてもいい。足りないよりは溢れるくらいのほうがいいからな」
「でも……でも、そもそも、相手がいな、」
「リトさま!」
リトの言葉を遮って、ダレンが声を上げた。胸の前で両拳を握り、ひどく真剣な顔をしている。
「我らが守護者さまのためとあらば、このマグナルクに住まう者は皆、よろこんでマナを注いでくれるはずです。それでなくとも、リトさまはおいしそうですから!」
「おいし……?!」
どういう意味だ。冗談を言っている様子でもないので、聞き間違いかもしれない。
ヴォルフがふと居住まいを正し、リト、と厳かな声でリトを呼んだ。
「人間という生き物が、貞操を守ることに妙なこだわりを持っていることは知っている。
だが、安心してほしい。発情と排卵を促すため、多くの夫と日夜まぐわい続けなければならないフェルにとって、淫奔であることはなによりの美徳だ」
曇りのないまなこでそう語るヴォルフに、カルチャーショックどころの騒ぎではないリトは今度こそ泣きそうになった。
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