虐げられて右腕を失った仮面の王子 天才幼女に機械の右腕をもらってたくさんの異世界(宇宙、現代、ファンタジー世界など)で不幸な者たちを救う

渡 歩駆

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第4の異世界ーはるか遠くの銀河で戦う少年

第116話 ペイナーの一撃

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「さて……まだ続けるか? それとも諦めておとなしく我が輩に殺されるか……くくっ、どちらでもいいぞ」
「くっ……う……まだっ!」

 ふたたびゼナイエが動き出し、それに続いて2人も一点集中の攻撃をする。

「どうした? こんな程度か? ふははっ」

 3人が本気なのに対して、テオナはほとんど手を出さずに遊んでいる。

 このままでは……。

 だが俺になにができる?
 ここから銃弾を放ったとて、あの強靭なズァーグに阻まれてしまう。

 ほんのわずかでもいい。
 あの強靭なズァーグに穴が空いてくれれば……。

「わ、私は……」

 ふと、ペイナーが震えた声を出す。

「ゴミクズなんかじゃない。偉大なサミオン、ペイナー・サーミットだっ!」

 声の震えは強い大声となり、ペイナーの目はカッと見開いて眼前の戦いへと注がれる。

「子供や若いナイトが平和のために命をかけて強大な敵と戦っている。それなのに偉大なサミオンである私がこんなところで怯えて震えているなど……あってはならないっ!」
「ぺ、ペイナー……」

 ペイナーを覆うズァーグが急激に色の濃さを増していく。

「私は偉大なサミオン、ペイナー・サーミットだっ! 子供や若いナイトのうしろで震えているような臆病者じゃないっ!」

 レヴァンソードを伸ばしてペイナーが駆け出す。
 そして先に戦う3人が攻撃を加える一点へ斬撃を加えた。

「なに?」

 その一撃がテオナのズァーグをわずかに破る。

「ふはは。なるほど。死を目前にしてネズミが猫を噛んだか。しかし我が輩のズァーグに微細な穴を空けたところで無意味だ。こんなものはすぐに修復……」
「十分だ」

 テオナを覆うズァーグに空いたわずかな穴。
 そこを目掛けて俺は右手の指から銃弾を放つ。

「ぐぉあっ!?」

 銃弾は白い仮面を貫通し、テオナの眉間を撃ち抜く。

 短く絶叫したテオナはそのまま仰向けに倒れ、身体を覆うズァーグは消失した。

「や、やった……」

 大きく息を吐いた俺は右腕を下ろす。

 倒れたテオナは微動だにせず、一切のズァーグも見えない。
 ここからでも死んでいるとわかった。

「うん。よくやったぞサンパーハバン」
「さ、さすがだハバン君」

 駆け寄って来た2人に賞賛される。

「いや……テオナを倒せたのは奴のズァーグに穴を空けた4人の力があってこそだ。俺は最後に一撃を加えて終わらせたに過ぎないよ」

 功労者は4人だ。俺じゃない。

「しかしその一撃が無ければ奴は倒せなかった」

 ツクナが側へ来て俺の仮面を外して頬へと触れる。

「さすがはツクナのハバンじゃ。最後は格好良く決めてくれたの」
「う、うん」

 身体はまだ痛い。
 けれどツクナの微笑みを見ていると痛みも忘れられた。

「ペイナーもよくやってくれたよ。正直、俺はあんたがこの戦いで役に立ってくれるなんて微塵も思っていなかったから」
「な、なにを言っているんだハバン君っ。私は偉大なサミオンであるペイナー・サーミットだよっ。当然の活躍さっ。褒められることではないっ」
「ああ。あんたは本当に偉大なサミオンだよ」

 これですべて終わった。
 安堵した俺の目に入ったのは、テオナの死体を見つめるルカの姿だった。

「ル、ルカ君」

 ペイナーに肩を貸してもらいながら立ち上がった俺はルカの側へと行く。

「君の姉を俺が殺す形になってしまった。すまないと思っている」
「謝らないでください。こうなったのはすべて姉の責任です。こうなるしか、姉の末路はなかったと思います」
「ルカ君……」

 テオナは邪悪に変わってしまった。
 それでも、彼にはやさしかった姉の思いでもあるだろう。

 彼が戦いの勝利を素直には喜べない気持ちは察することはできた。

「オーディアヌ帝国皇帝メイラッド……いや、テオナは死んだ。この事実を帝国と連合に伝えて戦争を終わらせるぞ」

 ゼナイエは俺たちへ向かってそう言う。

 そうだ。まだ終わってはいない。
 テオナの死を伝えて、戦争を終わらせなければならないんだ。

「ああ。早く戻って……」

 俺がそう言ったとき、

「――そんなことさせないよ」
「な、なに?」

 誰だ?

 誰かの声が部屋の中へ響き渡った。

 俺たちの誰でもない。
 耳に絡みつくような気味の悪い声がどこからか聞こえた。

「な、なんだあれは……?」

 絶句したようなルカが見つめる先へ目を向けると、そこには巨大な肉塊のようなものが立っていた。

「誰だ……?」

 肉塊と思ったのはどうやら人のようだ。
 たぶん女だと思うが、ひどく太っていて顔も醜い。あまりに醜悪なその外見に気分が悪くなってきてしまう。

「あたしの名はヴァルキラス。この世界を支配する神さ」
「か、神だと?」

 馬鹿な。あれが神だって?

 まったくそうは見えない。
 神々しさなどまるでなく、むしろ悪魔に思えた。

「い、いや、神だなんてありえないっ! それに、ヴァルキラスとは見た目がまったく違うっ!」

 ルカが指を差したのは玉座のうしろに立っている美しい女性の彫像だ。

「あれがヴァルキラスだっ! 似ても似つかないじゃないかっ!」
「ふぅん?」

 肉塊がべたべた歩いてその彫像を睨み上げる。

「でゅははははっ! 確かにこれは似てない。あたしのほうがよっぽど美しい」
「う、美しい?」

 どこをどう見ても醜い。

 あれは一体なんなんだ?
 何者なのかと疑問を浮かべる。

「……どうやら、この世界のやり方を逸脱する者が現れたようじゃの」
「えっ?」
「あれは界神じゃ。この世界を作った神」
「か、神? 本当に? けど……」

 しかしその神を模しただろう彫像とはまったく似ていない。

「彫像は人が想像する神に過ぎない。しかし神は心と外見が一致する。あれが醜いのは、それだけ心が醜いということなのじゃろう」
「な、なるほど」

 ならばあれは神なのか。
 ツクナが言うのならば間違いは無い。

 神がなぜここへ現れたのか?
 現れたときの言動から察して、不穏なものを感じていた。

「ああ……せっかくあたしが力を与えてやったのに負けやがって。愚かな奴」

 ヴァルキラスの視線がテオナの死体へ向けられる。

「力を与えた? ど、どういうことだ?」

 ルカの問いにヴァルキラスは楽しそうに笑う。

「言葉通りさ。なんの力も無いそいつにこの世界で戦う最強の力を与えた」
「な、なんだって?」

 この世界のやり方を逸脱する者が力を与えている。
 ツクナの言った通りであった。

 しかしこの世界のやり方を逸脱するとはどういうことなのか?
 それはまだわからなかった。

「お、お前がヴァルキラスだとして、なぜそんなことを?」
「あたしが漫画を嫌っているからだ」

 その一言に全員が絶句した。
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