虐げられて右腕を失った仮面の王子 天才幼女に機械の右腕をもらってたくさんの異世界(宇宙、現代、ファンタジー世界など)で不幸な者たちを救う

渡 歩駆

文字の大きさ
上 下
113 / 119
第4の異世界ーはるか遠くの銀河で戦う少年

第113話 尊敬する師匠

しおりを挟む
「ゼ、ゼナイエ様っ!?」

 ゼナイエは小さな身体でイライゼンの一撃を受け止めている。

「思ったより丈夫な床でな。ここへ来るのに時間がかかった」

 ルカが一瞬も受け止めることができなかったイライゼンの一撃をゼナイエはなんなく受け止め、こちらを振り返る余裕すら見せていた。

「ぐおああああああっ!!!」
「ふん。無理にズァーグを活性化させて獣化したか。馬鹿な奴め。ルカ、お前は上へ戻ってサミオンツクナ達と合流しろ。我はこいつを倒してから行く」
「い、いえっ! イライゼンは私がっ!」

 もう誰かに助けられたりしない。
 困難は自分の力で打ち破ると決めたのだから。

「お前が倒したいのはこの馬鹿な女か?」
「!?」
「違うだろう。お前が倒すべきはこんな奴じゃない」
「ゼ、ゼナイエ様……」
「行け。こいつの裏切りを気付かずにヨトゥナで活動させたのは我の責任だ。処分は任せてもらおう」
「……わかりました」

 ゼナイエが降りて来た天井の穴を見上げる。

「ルカ、強くなったな」
「えっ?」
「さっきまでとはまるで違う濃いズァーグを纏っている。サンパーハバンに言われたことが響いたのか、こいつとの戦いでなにか学んだのか。いずれにせよたいした成長だ」
「はい。私はゼナイエ様がこんなに強いとは知りませんでした。ズァーグの活性化も50%ほどかと……」」
「我は幼子だ。成長は早い。むんっ!」
「ぐおっ!?」

 ゼナイエに押し返され、イライゼンは弾かれたように飛び退る。

「さあ早く行け。今のお前ならばサミオンツクナたちの大きな力になるだろう」
「は、はい」

 その場から跳躍したルカは、そのまま天井の穴へと飛び込んだ。


 ……


 ――ゼナイエがこの穴へ入ってからしばらく経つ。
 穴の奥からはなにも聞こえない。下でなにが起こっているのか不安だった。

「だ、大丈夫かな?」
「あの女はヨトゥナの最高師範じゃ。心配する必要は無い」

 大量に倒れているクローンデズターたちの死体を背にツクナは言う。

「けど、ゼナイエってデズターと同じくらいしかズァーグを活性化できないって、聞いたけど……」

 指導者としては優秀でも、戦闘力はそうでもないのではと思っていたが。

「それは古い情報じゃ。幼子のあやつは常に成長をしており、今では100%でのズァーグの活性化を可能にしておる」
「そ、そうなのか。なら無敵だな」

 ズァーグを100%活性化できればその世界で最強と以前ツクナに聞いた。
 ならば今のゼナイエに敵はいないということだろう。

「通常ならばの。しかしこの先にいる敵は通常とは言えん」
「通常ではないって……」

 それってどういうことだろう?

 理由を聞こうとしたとき、

「あっ」

 穴から誰かが飛び出てくる。

 ルカ君だ。
 ……いや、本当にルカ君か?

 外見は間違いなく外見はルカ君なのだが、なんだか穴へ落ちる前とは雰囲気が変わっているような気がした。

「ルカ君っ!」
「ハバンさん」

 こちらを振り向いたルカに大きなものを感じる。
 まるで別人のようであった。

「君は……本当にルカ君か?」
「ええ。もちろんです」
「そうか」

 下でイライゼンと戦ったのだろう。
 そこで彼は成長に必要ななにかを得たのだと思った。

「どうやら、君の中でなにかが変わったようだね」
「はい。私はもう誰かがやってくれるのを待つような甘えた考えは持ちません。困難は自分の手で打ち破る。そして目的を必ず達成します」
「うん」

 もう自分に教えられることはなにもない。
 ルカは自分よりも強くなったのだと、彼の纏うズァーグを見ずとも俺はそれを理解できた。

「そういえばゼナイエはどうしたの?」
「ゼナイエ様は……」

 ……下での出来事を俺たち説明するルカ。
 その表情はどこか辛そうであった。

「私はあの人に剣を習いました。素晴らしい方だと尊敬していたんです。それがあんな人だったなんて……」
「うん……」

 ヨトゥナの考えとはかけ離れたイライゼンの性格。そして彼女がヨトゥナを裏切って帝国についていたという事実にルカは心を痛めているようだ。

「私はあの人を軽蔑します。あんな人が師匠だったなんて恥ずべきことです」
「ルカ君」

 イライゼンを嫌うルカの気持ちはわかる。けど、

「確かにイライゼンの本性はひどい奴だ。だけど、君に剣の基礎を教え、憧れを抱かせた立派なナイトであるイライゼンまで軽蔑することはないよ」
「えっ? そ、それはどういうことですか?」
「実際はどうであれ、君の中にいるイライゼンまで汚して君が傷つくことはない。君の師匠は立派で優秀なヨトゥナだったと、記憶の中だけでもそう思っていたっていいんじゃないかな?」

 師の暴挙に心を痛めているらしいルカを思って俺はそう言ったが、

「……おっしゃることはわかります。ですが、私は記憶の中だけでもイライゼンを肯定することはできません」
「そ、そうか。うん。そうだよね。そんな器用なことはなかなか……」
「はい。けれど、私の師匠は立派で優秀なヨトゥナです」
「えっ?」
「ハバンさん、私はあなたに育てていただいた。あなたこそが私の師匠で、尊敬する偉大なヨトゥナです」
「い、いや俺はそんなたいしたことしてないよ。君にはもともと才能があった。俺はそれが開花するきっかけを与えただけだよ」
「そんな、きっかけを与えていただいただけではありません。剣の腕と心も鍛えていただき、私は強くなれました。ハバンさんには感謝しております」
「いやぁ……」

 俺は本当にたいしたことをしたつもりはない。
 だからこれほどの感謝を受けてしまって、少し困ってしまった。

「今、偉大なナイトと言ったかね?」

 と、そこへ今まで黙っていたペイナーが口を挟んでくる。

「偉大なナイトならばここにいるぞ。存分に尊敬するといい。若きナイトよ」
「えっ? あ、はあ……ははは」

 ペイナーに尊敬しろと言われたルカは困ったように笑っていた。

「さて、ルカも戻って来たことじゃし、先に行くかの」
「えっ? けどゼナイエ様がまだ下に……」
「ルカ君。俺たちが今こうしているあいだにも宇宙では連合と帝国が戦い、多くの人たちが死傷しているんだ。戦いをすぐにでも終わらせるには、少しでも早く先へ進んで皇帝の偽物を倒すべきだよ」
「そ、そうですね。そうです。先を急ぐべきですね。行きましょう」
「うん。ゼナイエはあとで必ず追って来るよ。さあ行こう」

 閉じていた扉を破壊して俺はその先を見据える。

 強敵とされるヴァルキラスの剣はすべて倒した。
 残るは皇帝の偽物だという何者かだが……。

「お、おい、私を置いて行くな。ゼナイエがいない今、この場を仕切るのは偉大なヨトゥナのナイトである私だろう。って、ちょっと待ってーっ」

 背後から追って来るペイナーとともに、俺たちは扉の奥へと進んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...