虐げられて右腕を失った仮面の王子 天才幼女に機械の右腕をもらってたくさんの異世界(宇宙、現代、ファンタジー世界など)で不幸な者たちを救う

渡 歩駆

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第4の異世界ーはるか遠くの銀河で戦う少年

第113話 尊敬する師匠

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「ゼ、ゼナイエ様っ!?」

 ゼナイエは小さな身体でイライゼンの一撃を受け止めている。

「思ったより丈夫な床でな。ここへ来るのに時間がかかった」

 ルカが一瞬も受け止めることができなかったイライゼンの一撃をゼナイエはなんなく受け止め、こちらを振り返る余裕すら見せていた。

「ぐおああああああっ!!!」
「ふん。無理にズァーグを活性化させて獣化したか。馬鹿な奴め。ルカ、お前は上へ戻ってサミオンツクナ達と合流しろ。我はこいつを倒してから行く」
「い、いえっ! イライゼンは私がっ!」

 もう誰かに助けられたりしない。
 困難は自分の力で打ち破ると決めたのだから。

「お前が倒したいのはこの馬鹿な女か?」
「!?」
「違うだろう。お前が倒すべきはこんな奴じゃない」
「ゼ、ゼナイエ様……」
「行け。こいつの裏切りを気付かずにヨトゥナで活動させたのは我の責任だ。処分は任せてもらおう」
「……わかりました」

 ゼナイエが降りて来た天井の穴を見上げる。

「ルカ、強くなったな」
「えっ?」
「さっきまでとはまるで違う濃いズァーグを纏っている。サンパーハバンに言われたことが響いたのか、こいつとの戦いでなにか学んだのか。いずれにせよたいした成長だ」
「はい。私はゼナイエ様がこんなに強いとは知りませんでした。ズァーグの活性化も50%ほどかと……」」
「我は幼子だ。成長は早い。むんっ!」
「ぐおっ!?」

 ゼナイエに押し返され、イライゼンは弾かれたように飛び退る。

「さあ早く行け。今のお前ならばサミオンツクナたちの大きな力になるだろう」
「は、はい」

 その場から跳躍したルカは、そのまま天井の穴へと飛び込んだ。


 ……


 ――ゼナイエがこの穴へ入ってからしばらく経つ。
 穴の奥からはなにも聞こえない。下でなにが起こっているのか不安だった。

「だ、大丈夫かな?」
「あの女はヨトゥナの最高師範じゃ。心配する必要は無い」

 大量に倒れているクローンデズターたちの死体を背にツクナは言う。

「けど、ゼナイエってデズターと同じくらいしかズァーグを活性化できないって、聞いたけど……」

 指導者としては優秀でも、戦闘力はそうでもないのではと思っていたが。

「それは古い情報じゃ。幼子のあやつは常に成長をしており、今では100%でのズァーグの活性化を可能にしておる」
「そ、そうなのか。なら無敵だな」

 ズァーグを100%活性化できればその世界で最強と以前ツクナに聞いた。
 ならば今のゼナイエに敵はいないということだろう。

「通常ならばの。しかしこの先にいる敵は通常とは言えん」
「通常ではないって……」

 それってどういうことだろう?

 理由を聞こうとしたとき、

「あっ」

 穴から誰かが飛び出てくる。

 ルカ君だ。
 ……いや、本当にルカ君か?

 外見は間違いなく外見はルカ君なのだが、なんだか穴へ落ちる前とは雰囲気が変わっているような気がした。

「ルカ君っ!」
「ハバンさん」

 こちらを振り向いたルカに大きなものを感じる。
 まるで別人のようであった。

「君は……本当にルカ君か?」
「ええ。もちろんです」
「そうか」

 下でイライゼンと戦ったのだろう。
 そこで彼は成長に必要ななにかを得たのだと思った。

「どうやら、君の中でなにかが変わったようだね」
「はい。私はもう誰かがやってくれるのを待つような甘えた考えは持ちません。困難は自分の手で打ち破る。そして目的を必ず達成します」
「うん」

 もう自分に教えられることはなにもない。
 ルカは自分よりも強くなったのだと、彼の纏うズァーグを見ずとも俺はそれを理解できた。

「そういえばゼナイエはどうしたの?」
「ゼナイエ様は……」

 ……下での出来事を俺たち説明するルカ。
 その表情はどこか辛そうであった。

「私はあの人に剣を習いました。素晴らしい方だと尊敬していたんです。それがあんな人だったなんて……」
「うん……」

 ヨトゥナの考えとはかけ離れたイライゼンの性格。そして彼女がヨトゥナを裏切って帝国についていたという事実にルカは心を痛めているようだ。

「私はあの人を軽蔑します。あんな人が師匠だったなんて恥ずべきことです」
「ルカ君」

 イライゼンを嫌うルカの気持ちはわかる。けど、

「確かにイライゼンの本性はひどい奴だ。だけど、君に剣の基礎を教え、憧れを抱かせた立派なナイトであるイライゼンまで軽蔑することはないよ」
「えっ? そ、それはどういうことですか?」
「実際はどうであれ、君の中にいるイライゼンまで汚して君が傷つくことはない。君の師匠は立派で優秀なヨトゥナだったと、記憶の中だけでもそう思っていたっていいんじゃないかな?」

 師の暴挙に心を痛めているらしいルカを思って俺はそう言ったが、

「……おっしゃることはわかります。ですが、私は記憶の中だけでもイライゼンを肯定することはできません」
「そ、そうか。うん。そうだよね。そんな器用なことはなかなか……」
「はい。けれど、私の師匠は立派で優秀なヨトゥナです」
「えっ?」
「ハバンさん、私はあなたに育てていただいた。あなたこそが私の師匠で、尊敬する偉大なヨトゥナです」
「い、いや俺はそんなたいしたことしてないよ。君にはもともと才能があった。俺はそれが開花するきっかけを与えただけだよ」
「そんな、きっかけを与えていただいただけではありません。剣の腕と心も鍛えていただき、私は強くなれました。ハバンさんには感謝しております」
「いやぁ……」

 俺は本当にたいしたことをしたつもりはない。
 だからこれほどの感謝を受けてしまって、少し困ってしまった。

「今、偉大なナイトと言ったかね?」

 と、そこへ今まで黙っていたペイナーが口を挟んでくる。

「偉大なナイトならばここにいるぞ。存分に尊敬するといい。若きナイトよ」
「えっ? あ、はあ……ははは」

 ペイナーに尊敬しろと言われたルカは困ったように笑っていた。

「さて、ルカも戻って来たことじゃし、先に行くかの」
「えっ? けどゼナイエ様がまだ下に……」
「ルカ君。俺たちが今こうしているあいだにも宇宙では連合と帝国が戦い、多くの人たちが死傷しているんだ。戦いをすぐにでも終わらせるには、少しでも早く先へ進んで皇帝の偽物を倒すべきだよ」
「そ、そうですね。そうです。先を急ぐべきですね。行きましょう」
「うん。ゼナイエはあとで必ず追って来るよ。さあ行こう」

 閉じていた扉を破壊して俺はその先を見据える。

 強敵とされるヴァルキラスの剣はすべて倒した。
 残るは皇帝の偽物だという何者かだが……。

「お、おい、私を置いて行くな。ゼナイエがいない今、この場を仕切るのは偉大なヨトゥナのナイトである私だろう。って、ちょっと待ってーっ」

 背後から追って来るペイナーとともに、俺たちは扉の奥へと進んだ。
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