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第4の異世界ーはるか遠くの銀河で戦う少年

第107話 死にかけてツクナに心配される

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 次に目が覚めたとき、俺が見たのは自室の天井だった。

「俺の……部屋? 戻って来たのか?」

 どうやら生きているようだ。
 身体はもう痛くない。

「うん?」

 隣に目をやると、眠っているツクナの姿が見えた。

「ツクナ」

 思わずその身体を抱きしめる。

 温かい。

 このやさしい温もりに、甘い匂いに、自分の生を実感できた。、

「ハバン」
「ツクナ……」

 起こしてしまったことを悪く思いつつも、俺はツクナをそのまま抱き続けた。

「怪我はすべて治した。もう痛くはないじゃろう?」
「ああ。ツクナが治してくれたんだな。ありがとう」
「いや、それよりもハバン、なぜ逃げなかったのじゃ? ツクナは言ったの。これは遊びじゃ。危険を感じたら逃げろと。それなのに命を失っていたかもしれないような戦いをしおって。怪我だけならどんなにひどくても治してやれるが、死んで魂を失ってはツクナでも助けてやれん」
「うん……」

 身体を離してツクナを見つめる。

「ここへ来てからの日がもっと浅ければ、逃げることもできたかもしれない。けれどこの世界へ来て、多くの人に会って、仲良くなって、信頼もされて役目を与えられた。その信頼を裏切って逃げるっていうのはできなかったんだ」
「ハバン……。うん。そうじゃな」

 伏し目がちにツクナは言う。

「ハバンは国王になるはずだった男じゃ。そんな責任感の強い男が、請け負った役目から逃げるわけはない。それなのにあんな危険な場所に行かせてしまった。すまなかったのう
「俺はなにも、ツクナが悪いだなんて思っていないよ。俺が弱かったのが悪い。ここへ来て戦いに苦戦することがなかったから、驕りがあったんだと思う。反省するよ。もっと鍛錬をして……」
「重く考え過ぎなんじゃハバンは」

 と、ツクナは自分の胸に俺の頭を抱き寄せる。

 相変わらずの柔らかい感触が心地良い。

「こんなのは遊びなんじゃから、気楽にやればよい。ここはお前の世界でも国でもないんじゃぞ。信頼されて役目を与えられたからといって、責任を感じて命まで懸けんでもよい」
「けど……」
「わかっておる。ハバンは真面目な男じゃからのう。こう言っても聞かんじゃろう」
「うん」

 ここは自分の国ではない。だから命を懸ける必要などないというのはわかる。
 しかしこの世界の人間たちは真剣に戦って生きているんだ。深く関わってしまった以上、遊びだから途中で逃げ出すなんてことはできなかった。

「だけど、俺を心配してくれるツクナの気持ちも大切だから、どうしてもって言うなら従うよ」
「言わん。ハバンの心が傷つくのをツクナは望まんからの」
「ツクナ……」
「ふむ。楽しむためにこの世界の情報はあまり得ていなかったが、ハバンを危険から守るためにこれから戦う敵については調べておいた」
「そうなのか。ごめんな。俺のせいでツクナの楽しみを奪っちゃって」
「構わん。ハバンが元気で明るく、ツクナの側にいてくれるほうが嬉しいからの」
「うん」

 こうまで言ってもらえるなんて本当に嬉しい。

 辺境に追いやられて国から無用とされていた自分に、こんなやさしい言葉をかけてくれるツクナについて来てよかったと思う。

「そう言ってもらえて嬉しいよ。ありがとうな。ツクナ」
「ハバンはツクナの婿候補じゃ。大切なのは当然じゃろう」
「そうだったな」

 自分のような普通の男が、美しく聡明で神と同等の存在であるツクナの婿だなんておこがましいような気もするが、ふさわしくなれるようにできる限り精進しようと思った。

「うむ。これからは一緒にいて守ってやるからの。安心するのじゃ」
「う、うん」

 本当は男の自分がツクナを守らなければならない。
 しかしそう言えるだけの強さを持っていない俺は、少し自分を情けなく思った。

 ……

 ……一夜明け、俺とツクナはデュロリアンの外へと出る。

「ゼナイエに呼ばれておるから、とりあえず会いに行くかの」
「うん」

 ツクナとゼナイエ、グライドの奮戦によって、オーディアヌ帝国の侵攻は食い止めることができた。ヴァルキラスの剣のひとりレプニールもなんとか倒すことはできたが、町への甚大な被害、首脳たちとサミオン20人を失ったロキシニアス連合の被害は大きい。

「首脳たちがみんな殺されてしまって、この戦争は勝てるのかな?」
「ツクナがいるんじゃ。勝てはする。しかしどうやらこの戦争には厄介な奴が関わっているそうじゃ。そいつがおもてに出てきたらつまらなくなるのう」
「厄介な奴って……?」
「ハバンさんっ!」

 話している途中で声が聞こえ、そちらを振り返ると駆け寄って来るルカの姿が見えた。

「やあルカ君」
「ど、どうも。って、怪我はもういいんですかっ?」
「うん。もうこの通り平気」

 とは言っても、アーマーで全身を覆っているのでわかりづらいかもしれないが。

「ええっ! だって、あれからまだ1日しか経っていないんですよっ? あんなすごい大怪我がもう治ってしまうなんて……どうやって治したのですか?」
「えっ? あ、ああその……」

 ツクナに治してもらったけど、それを言っていいのか迷う。

「ツクナには医療の知識もあるのじゃ。それで治した」
「そ、そうなのですか? けどいくらなんでもこんなに早くなんて……」
「ゼナイエに呼ばれておる。複雑で時間のかかる医療の話はまた今度の」
「あ、はい。も、申し訳ありません。けど、私にもっと力があればハバンさんに大怪我を負わせてしまうようなこともありませんでした。せっかく鍛えていただいたのに、なんのお役にも立てず本当に情けない限りです……」
「いや、そんなに自分を卑下することはないよ」

 と、俺はルカへ励ましの言葉をかける。

「君は間違いなく強くなっていっている。もっと心の強さをズァーグの活性化に反映させることができれば、俺くらいの強さは得られるさ」
「そ、そんなことは……いえ、がんばりますっ!」

 そう言って強い輝きを瞳に宿して見せたルカへ、俺は微笑んで頷いた。

「あ、あのそれと、レプニールの言ったことなのですが……」
「うん? ああ」

 察した俺は、俯くルカの肩をポンと叩く。

「君の正体に関して、聞きたいことはある。けれどこんな誰が聞いているかもわからない場所で話すようなことじゃない。話はあとにしよう」
「あ、はい……」
「けれど俺は君のことをなにも疑ってはいないから。そこは安心してくれていいよ」
「ハ、ハバンさん……はいっ。ありがとうございますっ!」

 俯いていた顔を上げて嬉しそうに言うルカ。

 彼は自分の正体を知られてしまったことで、俺になにか疑われているのではないかと、そういう不安を抱えていたのだと思う。

 ルカはまっすぐな少年だ。

 そう感じた自分を、俺は信じることにした。

「あ、ハバンさん、ゼナイエ様のもとへ行くのでしたら、あまり他のナイトがいない通路を通って行ったほうがよろしいですよ?」
「えっ? ど、どうして?」

 結果的に首脳たちを守れなかった。
 そのことを非難されるのかもしれないと俺は思ったが。

「サンパーハバンっ!」
「うん?」

 大声を聞いてそちらへ目を向けると、格納庫の入り口からドタドタとナイトの集団が駆けて来るのが見えた。
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