虐げられて右腕を失った仮面の王子 天才幼女に機械の右腕をもらってたくさんの異世界(宇宙、現代、ファンタジー世界など)で不幸な者たちを救う

渡 歩駆

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第4の異世界ーはるか遠くの銀河で戦う少年

第98話 こじ開けられた空

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「な、なんだ?」

 自然と音の聞こえた方角へ目が向く。

「……なにも見えない、な」
「いやよく見るのじゃ。ズァーグを見る目での」
「ズァーグ?」

 言われた俺は目にズァーグを集中させる。
 見えたのは、空高くから地表へ向かって伸びる長大な真っ赤な剣の刃であった。

「あれは……剣か? いや、あんなに大きな剣なんてあるはずが……」

 あれは一体なんなのだ?

 その答えを考える間も無く、剣の刃は縦に2つへと分かれていく。

「ウルーガの壁をこじあけておる」
「なん……だって? ま、まさか……あれが」
「ハバン君、なにか見えるのかい? 私にはなにも見えないけど」
「……敵が来るぞ」
「敵? 敵って……」

 キョトンとするペイナーをよそに、俺は赤い剣を見つめ続ける。やがて、

「来たかっ」
「えっ? あっ!」

 分かれた剣のあいだから多くの戦闘機が飛来する。
 それが味方のものではなく、敵のものであることは帝国の戦闘機を知らない俺でもルカとペイナーの顔色から察することができた。

「ど、どういうことだ? なぜ帝国の戦闘機がアズガランに侵入できる? いや、惑星を守護しているロキシニアス連合の艦隊はどうなったんだっ!」
「ふむ。なるほどそういうことか」

 と、ツクナが俺の頭上で呟く。

「あの剣は活性化したズァーグの塊じゃ。恐らく塊の後方では多くの戦闘機を覆っていたのじゃろう。それを遠方から飛ばしてアズガランを囲うウルーガの壁に刺したのじゃ。惑星周囲の艦隊が止められぬほどの威力での」
「じゃあ君は帝国にいるナイトの誰かが、活性化したズァーグを巨大な剣に変えて遠くから投げ飛ばしてウルーガの壁に穴を開けたって言うのかいっ? そんなでたらめなことができる者などいるわけがないだろうっ!」
「いえいます」

 狼狽して声を震わすペイナーの言葉を即座に否定したのはルカだった。

「オーディアヌ帝国皇帝メイラッド・ローマならば……あるいは」
「こ、皇帝だって? 馬鹿な……いやしかし奴はヴァルキラスの剣の3人を教えた師匠であると聞いたことがある。だ、だけどいくらなんでもでたらめ過ぎるっ!」

 頭を抱えて屈み込むペイナー。
 その間にも遠くの空へは次々と真っ赤で巨大な剣が飛来していた。

「あの剣が誰の仕業かなんて話よりも、まずは敵から人々を守ることだ。行こう」

 ペイナーは放って置き、俺はルカに声をかけて町のほうへ駆けだそうとした。

「待つのじゃ」

 急ぐ足をツクナの一言が止める。

「お前たちが行くのは会場のメインホールじゃ」
「えっ? けど敵が飛来しているのは向こうの町だぞ?」
「あれはおとりじゃ。真の目的はロキシニアス連合首脳の抹殺にある」
「じゃ、じゃあこっちにも帝国軍が攻めてくるのか?」
「いや、正面から大勢で攻め込んでは目立って首脳らに逃げる時間を与えることになる。目立たずに首脳らへ近づくには、ヨトゥナに扮するのが最適じゃろう」
「ちょっと待ってくれ。君は敵がヨトゥナとして紛れ込んで首脳らを抹殺するって言うのかい? それは無理だと思うね」

 頭を抱えて屈み込んでいた状態から立ち上がったペイナーが、俺の頭上に鎮座するツクナに向かって言う。

「さっきも言ったけど、首脳らは20人のサミオンに護衛されている。彼らにはスペースコミットの警備に来ているナイトの顔はすべて覚えてもらっているから、ヨトゥナに扮して近づくことなんできない」
「な、なら平気かな?」

 ヨトゥナのサミオンが20人もついているのだ。首脳たちのほうは任せても大丈夫な気が。

「そのヨトゥナに扮している者が凡庸な帝国兵かなにかであったならの」
「どういうことだツクナ?」
「首脳の抹殺は帝国にとって重大な任務じゃ。首脳らに強力な護衛がつけられていることも想定しているじゃろう。だとすれば、雑多な一般兵になど任せるはずはない。抹殺を確実に成功させる強力な者を任務に向かわせるはずじゃ」
「抹殺を確実に成功させる強力な者……って」
「ヴァルキラスの剣……」

 そう呟いたルカへ俺とペイナーが振り向く。

「もしも……もしもヴァルキラスの剣の誰かが首脳らを抹殺に来ていたとしたら、20人のサミオン様が護衛についていても安全とは言えません……」
「ば、馬鹿なっ! 20人のサミオンだぞっ! いくらヴァルキラスの剣だからって、サミオン20人に及ぶはずがないっ!」
「こんなところで話している場合じゃありませんっ! 急いでメインホールへ行かないとっ!」
「あ、ルカ君っ」

 駆けて行ってしまうルカを追うべきか、頭上のツクナへ視線で伺いを立てる。

「ふむ。とはいえ、向こうを放置するわけにもいかんな」

 町のほうではすでに帝国軍の攻撃が始まっており、爆撃音や煙が上がっている。

「アズベルヘイムの軍隊と、恐らくヘルマイムにいるゼナイエとグライドが応戦に出るじゃろう。しかしそれで迎撃できたとしても、町には甚大な被害が出る」
「ならやっぱり町のほうへ行くべきか?」
「いや、2手に分かれよう」

 と、不意に首の上が軽くなる。
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