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第4の異世界ーはるか遠くの銀河で戦う少年

第79話 意外とちょろいぞペイナー・サーミット

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 額の傷は思ったほどでもなかった。
 それよりも、ペイナーは平気なんだろうか? 訓練用のレーザー銃は痛みだけを与えて怪我はしないそうだが、レーザーを浴び続けた彼女は呆然と立ち尽くしている様子だった。

「平気か? お嬢さん?」
「お、お嬢さんっ?」

 声を上げたペイナーの表情が真っ赤に染まる。

「元気そうではあるな」
「あ、う……そ、その……」
「うん? あーいや、余計なことをしたかもしれないな」

 部下たちの前で助けてしまったのは、ナイトとして立場のある彼女に恥をかかせてしまったことだろう。とはいえ、あのままにしておくわけにもいかなかった。

「い、いや、こんなのは単なる戯れだ。気にすることは無い」
「うん? そうか?」

 それにしてはげっそりしたような表情をしていた。

「わーっ! すっごいイケメンじゃんっ!」

 ペイナーの取り巻きたちが集まって来て俺を囲む。

「仮面の中身がこんなにイケメンだったなんて……。あ、あの私パルサノって言いますっ! 今度、一緒にお茶でも飲みに行きませんかっ?」
「えっ? あ、いや……」
「ちょっと抜け駆けしないでよっ! あ、私はピリパートって言いますっ! お茶なら私と行きましょうよっ! ねっ、ねっ」
「い、いやちょっと……」

 なんで急にこんなことに?

 彼女らがなんで自分とお茶に行きたがるのか俺にはさっぱりだった。

「そいつらじゃなくて私とっ!
「いや私とっ!」
「違うっ! 私とっ!

 他の女性たちからも誘われて俺は戸惑う。

「そんなこと言われても……」
「待てーっ!]
[えっ? うおっ!?」

 いつの間にか立ち上がっていたガスターナが女性ナイトたちを蹴散らして俺の前に立つ。

 まだやる気なのだろうか?

 警戒しつつ見下ろす俺だが……

「うん?」

 不意にガスターナに手を掴まれる。

「惚れた。あたしの男になれ」
「えっ?」

 唐突な言葉に俺は、

「いやごめん。それはできないんだけど」

 すんなり断る。

「な、なぜだっ!?」
「なぜって……その気は無いし、なんで急にそんなこと言い出したのか理由がわからないから」
「り、理由? そ、それはよぉ……」

 頬を染めてこちらをちらちらと見上げてくるガスターナを、俺は不思議に思う。

 さっきまでの荒っぽい雰囲気とは一転して、妙に静かでおとなしくなっている。
 ペイナーもだが、一体どうしたというのか?

「てめえは強いし、それに良い顔してて……」
「待てガスターナ」

 と、ガスターナを横から押しのけてペイナーが目の前に立つ。

「この男は私に惚れているんだ」

 またしても唐突な言葉に俺は肩をすくめる。

「いや、惚れてないけど」
「な、なぜだっ!? さっき私をお嬢さんと呼んでくれたじゃないかっ!?」
「なぜそれで惚れたことになるのか……」

 意味が分からない。

「私のことが嫌いなのかっ!」
「嫌いじゃないけど、ゼナイエと敵対しているあんたと仲良くするのはよくないかも」
「えっ? あ、そ、それは……」

 視線を泳がせてペイナーは俯き、

「う、うーん……べ、別に敵対してないけど?」
「ええっ!?」

 ぼそりと呟くように言ったペイナーの言葉に、ルカや他のナイトが一斉に声を上げる。

「サ、サミオンペイナーっ! それはないでしょうっ! あなたがゼナイエ様を最高師範とお認めにならないから、ヨトゥナは分裂しかかっているんじゃないですかっ!」
「いや……その、いいんじゃないかな。ゼナイエ……様が最高師範でも。うん。いいと思う」
「ええ……」

 呆れるような声がルカの口から吐き出ていく。

「ううん?」

 話と違うペイナーの考えを聞いた俺は、ただ首を傾げる。

 どういうことだろうか?
 しかしそれならそれでまあいいかと深くは考えなかった。

「私はゼナイエと敵対していないっ! だから私と仲良くしてくれハバン君っ!」
「あ、うん。はい」

 手を握られた俺は、なんだかよくわからないがペイナーと仲良くなった。

 ……

 そののちヨトゥナの本部に戻った俺たちは、ゼナイエに呼び出されて円形の前へと赴く。

「よくやってくれた」
「は?」

 こちらを眺めながら言ったゼナイエの一言が理解できず俺は疑問に思う。

「よくやってくれたとは……どういう意味ですか?」
「ペイナーの件だよ」
「サミオンペイナーの?」
「うん。つい先ほど、彼女のほうから我々との和解を申し出てきた。理由は君たちと話をして考えを変えたからだそうだが……一体、なにを話したのだ?」
「なにって……」

 そもそも敵対してないとペイナーは言っていたが、和解したってことはやっぱりルカの言っていた通り、内部分裂状態だったのだろうか?

「たいしたことは話しておらん。あれも女だったというだけのことじゃ」
「うん? それはどういう意味だ?」
「好みの男が現れれば、女は他のことなどどうでもよくなる。そういうことじゃ」
「……よくわからないな」
「大人になればわかるじゃろ」
「む……」

 子供扱いを受けたことになにを思ったのか、ゼナイエは複雑な表情をしていた。

「まあ理由はともかく、ヨトゥナがまとまったのは良いことです」

 不穏な空気を悟ったらしいグライドの言葉にゼナイエが頷く。

「しかしそれでも帝国との戦力差は圧倒的だ。喜んでもいられない」
「帝国との戦力差はどのくらいなんですか?」
「うん。簡単に言ってしまえば10倍くらいか」
「じゅ、10倍っ!?」

 そんなの勝てるわけないじゃないかという言葉を俺は飲み込む。

 しかし10倍とは。言葉通り圧倒的である。

「そんなに戦力差があって、勝算はあるのですか?」
「無いとは言えない。立場上な」

 つまり勝算は無いということか。

「帝国の侵略からロキシニアス連合の国々をなんとか守ってはいるが、戦力差があるゆえ戦いはかなり苦しい。このままではあまり想像したくない結果になるだろう」

 暗い表情で言うゼナイエだが、俺は状況を深刻には考えていなかった。

 なぜならこちらにはツクナがいるからだ。
 ツクナは帝国の皇帝を倒すなど簡単なことと以前に言っていた。ならばそうなのだろうと、俺は信じて疑っていなかった。
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