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第2の異世界ーお金持ちと結婚したい女

第15話 好きな男にフラれた女性

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 周囲には塔のように高い建物がたくさんある。ビルという建物だったか。シミュレーター内で見たからそれほど驚きは無い。

「まわりにたくさん自動車が走ってる……。これ、現実なんだよな?」

 多くの自動車が走る道は、シミュレーターで経験した。
 しかし現実にこんな世界があるとは。以前の自分ならば目の前の光景に驚いて失神していたかもしれないと俺は思う。

「現実じゃ。ぶつければ事故になる。まあ他の車と正面衝突してもデュロリアンは傷ひとつつかんから安心せい。相手の車と乗ってる人間が死傷するだけじゃ」
「そ、そうか。安心したよ」

 とはいえ、シミュレーターのように事故を起こすわけにはいかないだろう。

「あー……で、これからどこへ行けばいいんだ?」
「待て。今この世界全体をスキャンして情報を集めている」

 小さな手でぽんぽんとパソコンを操作し、最後にタンと強くキーボードを指で叩く。

「よし」
「終わったか?」
「うむ。ほれ、この世界の免許証じゃ」

 パソコンから出てきた四角い紙切れを俺は受け取る。

「おお、これが免許証か」

 シミュレーター内で教わった。
 顔写真が貼ってあり、あとは年齢とかもろもろを知らない文字で書いてある。

「あとはこれを食え」
「えっ? んぐっ!?」

 豆のようなものを口に放り込まれて飲み込む。

「な、なにを飲ませたんだ?」
「飲めばこの世界の言葉、文字を理解できるようになる薬じゃ」
「あ、そっか」

 ひとつの世界でも多くの言語があるのだ。
 別の世界ならば言葉がわからなくて当然だろう。

「ツクナもこの薬を飲んでいるから異世界の俺と会話できるのか」
「いや、ツクナは異世界の言語を単に覚えるだけじゃ。5分もかからん」
「ご、5分で? 全部か?」
「当然じゃ。天才に半端は無い。と、あとはナンバーを作り変えて……」

 ぶつぶつとしゃべりながらツクナはキーボードを指で叩く。

「このまま進んでいいのか?」
「ナビをセットした。それに従って行けばよい」
「ナビ?」
「カーナビじゃ。シミュレーターで習ったろう」
「おお、そうだった」

 音声で道案内してくれるというあれだ。

『次の信号を右に曲がってください』
「お、次の信号を右だな」

 指示に従って俺はデュロリアンを運転した。

 ……

 やがて大きな建物の前にやって来て、そこでナビは到着を告げる。

「ここが目的地か?」

 小さなビルの前にデュロリアンを止める。

「うむ。ここに目的に人間がいる」
「ここに住んでるのか?」
「いや、ここはただの雑居ビルじゃ。どうやらそこの1階にある喫茶店にいるらしいの」
「キッサテンって?」
「茶を提供する店じゃ」
「ふーん」

 茶会を催す店か。

 すぐ側の駐車場にデュロリアンを停め、俺とツクナはその喫茶店に向かう。

「まあ……」
「わあ……」
「ん?」

 すれ違う女性がみんな振り返って俺を見ているような……。

「なあツクナ。俺の顔になにかついてるか? 髭は綺麗に剃れてると思うけど」
「なにもついとらんから安心せい」
「そう?」

 じゃあなんで見られるんだろう? 女性ばかりに?

「やっぱり仮面は必要かもしれんな」
「そうなの?」

 俺の顔って隠さなければいけないほどひどいのだろうか?
 ちょっと落ち込む。

 それはともかく俺たちは目的の店へと入る。
 人の姿はあまり無く、店内は静かな様子だ。

「どれが目的の人間だ?」
「あれじゃ」

 ツクナの視線を追った先には若い男と女がテーブルを挟んで座っていた。

 男のほうは20代半ばくらいの年齢か。髪は黒く短く、顔は優男風だ。
 女のほうは男より少し年下くらいで髪は長く茶色く、顔はまあまあ美人だと思う。

 俺とツクナはその2人からやや離れた席へと座る。

「どっちだ?」
「女のほうじゃ」

 それを聞いた俺は女のほうに注目する。

「名は沢木福来。年齢は23歳。貧乏な家の生まれで金銭への執着心は人一倍強い。それゆえ、金持ちの男との結婚を求めるがうまくいかず、ひとり寂しく貧乏な人生の結末を迎える」
「それは悲しいな」

 俺もひとり寂しく辺境の領地で死ぬ予定だったそうなので、その結末が悲しいというのはわかった。

「それで、どうやってあの女の不幸をどう修正してやればいいんだ?」
「金持ちの男と結婚させてやればいいじゃろ」
「なるほど」

 と、今度は男のほうに注目する。

「あの男は?」
「沢木福来が働いている会社の先輩じゃ」
「カイシャってなんだ?」
「商人がたくさん働いている場所じゃ」
「ほう。ならばあの女は商人なのか。女商人とは珍しいな」
「この世界ならそんなに珍しくはない」
「そうなのか」

 今さらそんなことで驚くこともないが、いろんな世界があるものだ。

「沢木福来はあの男と結婚をしたいそうじゃ」
「あの男と? じゃあ金持ちなのか?」
「らしいの」
「同じ組織で働いている人間なのにか?」
「あの工島挙流という男は生家が金持ちなんじゃ」
「そういうことか」

 恐らく大商人の息子とかなんだろう。

「金持ちでもなければ、あんな細っこいガリガリ男なんかと結婚したいと思わんだろ」
「お前はそうだろうけど」

 あのポスターみたいな筋骨隆々な男などそうそういないだろう。

「じゃあサワキフクがあの男と結婚をすれば不幸が修正されるんだな?」
「そううまくいくならばツクナたちがここへ来る必要は無いじゃろ」
「ふむ……」

 耳をそばだて、2人の会話が聞く。
 しばらく雑談をしていたようだが、やがてサワキフクの表情が真剣となる。

「……あの、先輩っ、私と結婚を前提に付き合っていただけませんかっ?」

 どうやら結婚を申し込んでいるようだが、

「ごめん。君とは付き合えないよ」

 断られてしまったようだ。

「そ、そんな……どうしてですか?」
「沢木さんのことは好きだよ。けど、僕は結婚に興味が無いんだ。ごめんね」
「う、うう……」

 席から立ち上がったサワキフクは、その場に男を残して駆け去ってしまう。

「追うぞ」
「ああ」

 俺とツクナも席を立ってサワキフクのあとを追う。

 金を払って店の外へ出る。と、

「ん?」

 走り去って行くサワキフクをひとりの男が寂しそうな目で見つめている。

 知り合いか?

 なんとなくそう思った。

 ……

 追って行くと、やがて谷間のような場所にある川へやってくる。

「川か」
「河川敷じゃ」

 サワキフクは川へ向かって草原の坂を下り、途中で腰を下ろして足を抱えた。
 それを近くの橋から見下ろす。

「なにしてるんだ?」
「失恋して泣いているんじゃろ」

 抱えた足に顔を埋めてサワキフクはシクシクと泣いていた。

 とりあえずその側まで行き、

「沢木福来」
「えっ?」

 ツクナが声をかけると、抱えている足から顔を上げて振り返る。

「だ、誰?」
「名はツクナ。年齢は8歳じゃ。こっちの男はハバン・ニー・ローマンド。年齢は25歳じゃ」
「あ、そう。こんにちは。い、いやそうじゃなくて、どうして私の名前を知ってるの?」
「ツクナは天才科学者だからじゃ」
「あ、そっか。って、いやそんなので納得できるわけないでしょっ!」
「しかし事実じゃしのう」

 と、俺を見上げてツクナは言う。

「事実だけど、もっと具体的に説明してやったほうが納得できるんじゃないか?」
「全異世界を調べて、神の意向で不幸な結末を迎える者の情報を集めたから名前を知ってるんじゃ」
「そ、そうだったのか」

 それは知らなかった。

「……なにを言ってるのかよくわからないんだけど、なにかのごっこ遊び?」
「ごっこ遊びではない。ツクナはお前の不幸な人生を修正してやるために異世界からやってきたのじゃ」
「あの、私いま遊んであげるような気分じゃないから」
「遊びではない。お前、金持ちの男と結婚をしたいんじゃろ?」
「な、なんでそんなことまで……」
「望みを叶えてやるのじゃ」
「叶えてくれる? あ。もしかして」

 サワキフクの視線が、ツクナから俺へ移った。
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