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家族のような

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 リバーサイドにあるマンション最上階から見えるシティービュー、その先には丹沢の山々が見える。
 藤井の家に戻って来た沙羅たちはアメリカンサイズのソファーに腰を下ろした。

「沙羅さんは座って居てね」

「はい、ありがとうございます」
 と返事をした沙羅だったが、座っているとお尻がムズムズする。
 病み上がりだから座って居るのは仕方ないが、気持ち的には動いている方が気が楽だ。 
    沙羅の代わりに藤井大好きっ子の美幸が立ち上がった。

「紀美子さん、わたしお手伝いします」

「あら、じゃあ、みんなのグラスを運んでもらおうかしら?」

「はぁい」

 美幸のお手伝い宣言に藤井はニッコリと微笑み、ふたりでキッチンへ入っていく。

 そのタイミングを見計らったように、貴之が慶太を険しい表情を向けた。

「高良さん、確認させてもらいますが、沙羅さんと付き合うなら立華商事のお嬢さんとの縁談は、クリアになっているのでしょうか? そこのところハッキリしてください」

 貴之のいきなりのケンカ腰に沙羅は驚き、咄嗟に慶太の方へ振り返る。
 慶太は落ち着いた様子で話し始めた。

「ご心配には及びません。先日のパーティーでエスコートをしていたのは、ビジネス上のお付き合いです」

 このような返答には理由がある。当事者でないない浅田貴之に立華商事との縁談を慶太から断ったと話すのは、立華商事の面子を潰す行為になるからだ。
 だが、貴之は納得がいかない。

「高良さんがそう考えていても、立華さんの方はTAKARAとの縁談に乗り気でしたよ」

「例えそうだとしても、浅田さんにご心配して頂くような事ではありません。業務提携の話しが誤解されて伝わったのだと思います。私は、誠実に沙羅さんとお付き合いさせて頂いています」

 真っ直ぐに言われ、貴之は次の言葉が出てこない。
 
「僕はただ沙羅さんを泣かせる事が、無いようにと……」

  貴之から、ようやく出た言葉に、沙羅は戸惑いつつも返した。

「貴之さん、ご心配頂きありがとうございます。でも、私も大人です。この先、自分の選択で泣くような事があっても、自分の責任で立ち上がるので大丈夫。……それでも、どうしようもなくなった時に、手を貸していただけるなら心強いです」

「もちろん、その時は手助けさせてもらうよ。……あの、余計な口出しをして、ごめん。妹が出来たようで嬉しくて、アニキ風吹かせた。本当にごめん」
 
「いえ、貴之さんは親戚のお兄さんですもの。子供の頃に会えていたら楽しい思い出がたくさん作れたと思います」

 沙羅は、ふわりと微笑んだ。
 その笑顔に張りつめていた場の空気が和む。

「おまたせしましたぁ」

 威勢のいい声とは裏腹に、美幸はトレーの上で揺れるグラスを見つめ、ソロリソロリと足を進めている。
 すかさず慶太が立ち上がり、トレーに手を伸ばした。
 
「美幸ちゃん、ありがとう。受け取るよ」

「はい、グラスを落としそうで、ちょっとドキドキしちゃいました」

 キッチンからドリンクのボトルを抱えた藤井もやって来る。

「ねえ、飲み物は何がいいかしら? あ、沙羅さんは、ミネラルウォーターね。他の人にはジュースやノンアルもワインもあるわよ」

「お母さん、わたしがグラスに入れてあげる」

「ありがとう」
 
 わいわい賑やかな空間。
 大好きな慶太が居て、大切な美幸が居て、母のような藤井、それに兄ような貴之がいる。
 沙羅は、幸せを感じていた。
 
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