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蝉が声をあげて鳴いている(R18)

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   窓の外の景色は、夜の闇を抜け、山の形を縁取るように明るくなり始めていた。

「沙羅、おはよう」

「う、うーん」

「ほら、起きて。朝日が昇る頃に川辺を散歩しようって、沙羅が言ったんだよ」    

   肩肘をついた慶太が声をかけたが、沙羅はモゾモゾと動くばかりで、いっこうに起きる気配がない。
   慶太はそっと手を伸ばし、自分に寄り添い安らかな寝息を立てている、沙羅の頬を愛おしげに撫でる。

   会えなかった時間を埋めるように、キスを躱し肌を合わせた。
   それでも、まだ足りなく思う。
 ふたりの時間は瞬く間に過ぎていく。気が付けば宿に着いてから三度目の朝になっていた。
 
 東京に帰ると言っていた沙羅。
 仕事に戻らねばならない自分。どうしたら道を違わずに済むのか考えを巡らせても答えが見つからず、慶太は考えあぐねていた。

 愛情深い沙羅が、子供を一番に考えるのは仕方のない事。子供のために東京で暮らすというなら、そのために自分は何が出来るのだろうか。
 出て来るのは妙案では無く、ため息だけだった。

 そのタイミングで沙羅がモゾリと動き、甘えるように慶太の体に腕を巻き付け擦り寄る。

 慶太は、フッと微笑を漏らし、沙羅を腕に抱き寄せた。
 
「沙羅、起きなくてもいいよ。ずっとこうして居よう」
 



 まどろみの時間ゆったりと過ぎていく。
 不意に、テーブルの上に置きっぱなしにしているスマホが、短い音楽を奏でた。
 メッセージの着信だ。
 その音で目覚めた沙羅は、のっそりと起き上がり、布団の横に脱ぎ散らかした浴衣に手を伸ばす。
 すると、背中からすっぽりと慶太の腕に包み込まれた。

「おはよう」

 肩口に顔を乗せた慶太の声が耳元で聞こえて、くすぐったい。

「おはよう。寝坊しちゃってごめんなさい」

「いいよ。朝日の中の散歩は明日にしよう」

「明日の朝は、絶対に早起きするから。ホントごめんね」

 沙羅から明日も一緒に居る約束を取り付けた慶太は、クスッと笑う。

「沙羅がこんなに朝が弱いとは知らなかった」

「違うよ。ここの布団が寝心地良くて、寝過ぎちゃってるの」

 もちろん、布団の寝心地が良いのもあるが、慶太に抱かれて眠る安心感から、心地よい眠りに誘われ深い眠りに落ちているのだ。

「朝寝坊をした沙羅の今日の予定は?」

「んー、どうしようかな。とりあえず、お風呂に入ろうかな?」

「俺と一緒に?」

 耳元に艶のある声で囁かれ、かぁーっと頬が熱くなる。
   いまさらだが、お風呂というシチェーションで裸姿を見られるのは恥ずかしい。

「……だめ」

 拒絶の言葉に慶太は、わざと大きなため息を吐く。

「しょうがないな……。でも、朝寝坊のバツだからあきらめて」

 そう言って、慶太は沙羅の膝の裏に手を入れ、抱き上げた。

「きゃぁっ、ウソでしょう⁉」

 思いがけないお姫様抱っこに沙羅は大慌てだ。

「落ちるといけないから、暴れないの」

「ズルい!」 

 ムウッと、ふくれっ面を見せても慶太はアハハと笑うばかりで、露天風呂行きは、免れそうもない。
 露天風呂に続くドアを開けると、風に揺れる木々のざわめきと蝉の声がきこえる。

 テーブルの上に置き忘れられているスマホは、新たなメッセージを受信していた。

    
 穏やかな風が吹き、サワサワと葉擦れの音が聞こえる。

「ん、ふうぅ……」

    胸に柔らかな刺激を与えられ、重ねた唇の合間から鼻に掛かった声が漏れる。
    こんな明るい所で……。
    と、心の中で思っても、キスで溶けた頭は、甘い誘惑に抗えない。

「沙羅、おいで」

    慶太に導かれるまま、ゆっくりと腰を下ろした。
   お湯とは違うぬめりを湛えたその場所は、慶太の熱い情熱に満たされていく。
 一番深い所まで辿り着き、沙羅を揺らし始めた。

 「あ、けい……た」

  ちゃぷちゃぷと、湯船のお湯が揺れ、沙羅は甘い吐息を漏らす。
   頬に当たる風は爽やかなのに、淫らな身体からだが熱く火照っている。

   緑鮮やかな木々の合間で、蝉が鳴き始めた。
   短い恋を惜しみ、声を張り上げ鳴いている。
 
 慶太の首に腕を回し、沙羅は自分から唇を重ねた。慶太を求め、唇の間からそっと舌を差し込む。
 何度キスをしても何度体を重ねても、慶太を欲しくなる。
 時間だけが刻々と過ぎていく事を切なく思いながら、今だけの幸せを噛みしめて肌を合わせた。

 やがて、ハァハァと荒い息があがる。足先に力が籠り、クッと慶太の楔をきつく締め付ける。自分の中にある彼の形がわかる程、中がうねり、沙羅は浮遊感に見舞われた。
 
「けい……た。あっ、あぁ」

 息が止まるようなキスをして、絶頂を迎えると自分の中にあった楔がズルリと引き抜かれる。 
    それが、たまらない寂しさを感じさせた。       
    檜木の床に、力の入らなくなった体に横たえ、慶太を見つめていると、 慶太は切なげな瞳で沙羅を見つめ返し、また唇を重ねた。
 
 風向きが変わり、ひんやりとした風が吹き始めた。まわりの木々がざわめく。
   スマホの着信音が鳴りだした。
 画面が明るくなり、相手の名前が「佐藤 政志」と表示される。
 
   蝉が声をあげて鳴いている。
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