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高級旅館の離れの部屋は、非日常の世界
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返事を聞かないうちに、唇が重なった。沙羅は静かに瞼を閉じ、受け入れる。
柔らかく甘い刺激に、心が蕩けていく。
今だけの恋人。
別れの日に、きっと、また泣く事になるのに、それでも慶太を好きな気持ちは膨らみ続けている。
重なり合っていた唇が、チュッと音を立て離れた。それを、寂しく感じて沙羅はねだる。
「大人のキスをして……」
「ん、いいよ」
上唇を食まれ、舌先が探るように唇の合間から口腔内に忍び込む、クチュとみだらなリップ音が聞こえて体温が上がる。
大きな手が沙羅の髪の合間に梳き、後頭部を押さえられた。より口づけが深くなっていく。
慶太に丁寧に扱われ、幸せ過ぎて夢の中に居るように感じる。
広い背中に手をまわし、幸せが逃げないようにギュッと力を込めた。
厚みのある舌が自分の内側を撫でている。
その感触にゾクリと熱い衝動が腰のあたりに溜まる。やがて、息があがり始めた。
「ん、んん……」
キスをしているだけなのに、鼻に掛かった甘い声が漏れだす。
今だけ、すべての事を忘れて、息もつけないほどこの恋に溺れていく。
「慶太……好き」
「ん、俺も沙羅が好きだよ。大切にする」
「大切にする」その言葉通りに慶太は、宝物のように沙羅を大切に想っていた。
再び、めぐり逢えた奇跡とも言える出会いを逃したくないと願う。
そして、東京に帰る予定がある沙羅との、いまにも切れそうなふたりの間の赤い糸が切れないように紡ぎ続けている。
だから、無理に抱くようなまねはしたくない。
沙羅の傷ついた心の準備が出来るまで、待つつもりだ。
「……続きは沙羅のタイミングでいいよ」
腕の中に居る沙羅は、まだ瞳を潤ませ頬を蒸気させていた。
そして、キスの後の艶やかな唇が動く。
「お風呂に入ってからがいい……」
ポソリとつぶやき、沙羅は恥ずかしそうにコテンと額を慶太の肩に寄せた。
予想外の回答。
慶太はてっきり「まだ、心の整理がついていないの」と言われるものかと思っていた。
内心の焦りを隠しつつ、沙羅の髪を優しく撫でる。
「じゃあ、待ってるからお風呂に入っておいで。ゆっくりでいいよ」
「うん、ありがとう」
顔を上げた沙羅は、はにかんだ笑顔を向けた後、露天風呂へトコトコと早足で入っていく。
そして、シェードはしっかりと下ろされた。
それでも、沙羅のシルエットがシェードに映る。
慶太は、浴室から死角になる堀コタツの座椅子に腰掛け、気持ちを落ち着かせるように大きく息を吐き出した。
沙羅は足先からゆっくりと、やや熱めのお湯に浸かった。
「はぁ、気持ちいい」
檜木の香りが漂い、目の前には、緑鮮やかな竹林が広がり、その合間を清涼な風が抜けて行く。
「なんて、贅沢」
聴こえて来るのは、風の音と振り注ぐような蝉時雨。
蝉は短い命の間に、恋をして朽ちていく。
母親である自分が、恋に溺れるなんて世間的に見れば間違いだと言われるだろう。
けれど、自分を大切にしてくれる人に心を寄せるのは、自然な感情だ。ましてや、気持ちを残したまま、事情で別れてしまった恋人なら、恋心を再燃させた今、その気持ちを簡単に止められる事など出来ない。
高級旅館の離れの部屋は、非日常の世界。
世間から切り離されて居るように思えた。
この先の事は考えずに、今はただ自分の気持ちに素直になろうと、 沙羅は心の声に従う事にした。
お湯から上がり、丹念に体の隅々まで水滴を拭う。
備え付けの浴衣を羽織り、兵児帯で結んだ。
浴衣姿を確認しようと、全身を鏡に映す。
鏡に映った自分は女の顔をしていた。
浴室から出ると部屋の奥の窓際に慶太を見つける。
「お風呂お先にありがとう」
「ゆっくり出来た?」
「うん、贅沢気分をさせてもらいました」
「そう、良かった。じゃあ、俺も入って来るね」
慶太は、沙羅の頬に手を当て、チュッと唇に短いキスを落とした。
柔らかく甘い刺激に、心が蕩けていく。
今だけの恋人。
別れの日に、きっと、また泣く事になるのに、それでも慶太を好きな気持ちは膨らみ続けている。
重なり合っていた唇が、チュッと音を立て離れた。それを、寂しく感じて沙羅はねだる。
「大人のキスをして……」
「ん、いいよ」
上唇を食まれ、舌先が探るように唇の合間から口腔内に忍び込む、クチュとみだらなリップ音が聞こえて体温が上がる。
大きな手が沙羅の髪の合間に梳き、後頭部を押さえられた。より口づけが深くなっていく。
慶太に丁寧に扱われ、幸せ過ぎて夢の中に居るように感じる。
広い背中に手をまわし、幸せが逃げないようにギュッと力を込めた。
厚みのある舌が自分の内側を撫でている。
その感触にゾクリと熱い衝動が腰のあたりに溜まる。やがて、息があがり始めた。
「ん、んん……」
キスをしているだけなのに、鼻に掛かった甘い声が漏れだす。
今だけ、すべての事を忘れて、息もつけないほどこの恋に溺れていく。
「慶太……好き」
「ん、俺も沙羅が好きだよ。大切にする」
「大切にする」その言葉通りに慶太は、宝物のように沙羅を大切に想っていた。
再び、めぐり逢えた奇跡とも言える出会いを逃したくないと願う。
そして、東京に帰る予定がある沙羅との、いまにも切れそうなふたりの間の赤い糸が切れないように紡ぎ続けている。
だから、無理に抱くようなまねはしたくない。
沙羅の傷ついた心の準備が出来るまで、待つつもりだ。
「……続きは沙羅のタイミングでいいよ」
腕の中に居る沙羅は、まだ瞳を潤ませ頬を蒸気させていた。
そして、キスの後の艶やかな唇が動く。
「お風呂に入ってからがいい……」
ポソリとつぶやき、沙羅は恥ずかしそうにコテンと額を慶太の肩に寄せた。
予想外の回答。
慶太はてっきり「まだ、心の整理がついていないの」と言われるものかと思っていた。
内心の焦りを隠しつつ、沙羅の髪を優しく撫でる。
「じゃあ、待ってるからお風呂に入っておいで。ゆっくりでいいよ」
「うん、ありがとう」
顔を上げた沙羅は、はにかんだ笑顔を向けた後、露天風呂へトコトコと早足で入っていく。
そして、シェードはしっかりと下ろされた。
それでも、沙羅のシルエットがシェードに映る。
慶太は、浴室から死角になる堀コタツの座椅子に腰掛け、気持ちを落ち着かせるように大きく息を吐き出した。
沙羅は足先からゆっくりと、やや熱めのお湯に浸かった。
「はぁ、気持ちいい」
檜木の香りが漂い、目の前には、緑鮮やかな竹林が広がり、その合間を清涼な風が抜けて行く。
「なんて、贅沢」
聴こえて来るのは、風の音と振り注ぐような蝉時雨。
蝉は短い命の間に、恋をして朽ちていく。
母親である自分が、恋に溺れるなんて世間的に見れば間違いだと言われるだろう。
けれど、自分を大切にしてくれる人に心を寄せるのは、自然な感情だ。ましてや、気持ちを残したまま、事情で別れてしまった恋人なら、恋心を再燃させた今、その気持ちを簡単に止められる事など出来ない。
高級旅館の離れの部屋は、非日常の世界。
世間から切り離されて居るように思えた。
この先の事は考えずに、今はただ自分の気持ちに素直になろうと、 沙羅は心の声に従う事にした。
お湯から上がり、丹念に体の隅々まで水滴を拭う。
備え付けの浴衣を羽織り、兵児帯で結んだ。
浴衣姿を確認しようと、全身を鏡に映す。
鏡に映った自分は女の顔をしていた。
浴室から出ると部屋の奥の窓際に慶太を見つける。
「お風呂お先にありがとう」
「ゆっくり出来た?」
「うん、贅沢気分をさせてもらいました」
「そう、良かった。じゃあ、俺も入って来るね」
慶太は、沙羅の頬に手を当て、チュッと唇に短いキスを落とした。
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