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番外編①
番外編①
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「うーん…」
ベランダに吊るされた洗濯物を見て、陽一が唸る。
振り向けば、テレビを見ながら笑い転げる"二人"の男。
「どうしたもんかな…」
その二人も、陽一の服を着ている状況。
洗濯物の量はともかく、である。
「…ちょっと、出かけてくるわ」
陽一が鞄を手に取ると、片方が声をかけてくる。
「陽一さん、何処行くんすか?」
「服買いに」
「え、行きたい」
もう片方の発言に、やっぱり、と陽一は頭を掻く。
「だめだって。散歩とは違うんだから」
「おとなしくしてますよ、俺達」
その声の主を、陽一が一瞥する。
細身の身体に、緩そうなシャツ。しかし身長は高いので、ズボンの丈は幾ばくか短く見える。
「…優也は連れて行ってもいいかも」
喜びの表情を見せる隣で、えー、と不満そうな声を上げるのは慎人だった。
「優也だけ、ずるい」
「お前は俺と同じサイズで良いだろ」
と言いつつも、慎人の方が陽一よりやや筋肉質なこともあり、Tシャツには身体のラインがうっすらと浮かんでいた。
早く行きましょう、と腕を引っ張る優也の隣で、慎人は駄々をこね始める。
「…仕方ない、絶対おとなしくしてるんだぞ」
陽一は呆れ気味に言った。
「え、陽一くん、なにこれ」
「すごい、色々売ってるんすね」
雑貨屋の商品を手に取る慎人。
通路の真ん中で辺りを見回す優也。
初めてのショッピングモールに、案の定落ち着かない二人を、陽一が"躾ける"。
「お前ら、通行人見てみろ。お前らみたいに騒いでるの、子供くらいしかいないだろ。…てか殆どの子供も親の隣で静かにしてんだろ」
「「はーい」」
基本的に二人は、陽一が説明をすれば、納得してそれを受け入れる。
しかし、感覚のズレを感じることも、多々あるのだ。
「じゃあ陽一くん、手繋ごうよ」
「…は?」
「ほら、あの子、手繋いでるじゃん」
「あのなあ、」
陽一がため息を吐く。
「あれは、親が子供と離れ離れにならないように繋いでるの」
「でもあの人たちは繋いでますよ」
優也の視線の先には、一組の若いカップルがいた。
「…あれは、特別な関係だから繋いでるんだよ」
「特別なカンケイ?」
「俺たちは違うんすか?」
首を傾げる二人に挟まれて、陽一がもう一度、ため息を吐く。
「世間では、異性の恋人同士しか手は繋がないんだよ。…ていうか周りよく見てみろ。そもそも30代くらいの男3人で此処を歩いてること自体、珍しい事なんだよ」
そう言って、陽一は二人を交互に見た。
「だから、とにかく目立つな、大人しくしてろ」
「「はーい」」
再び元気な返事が両隣から聞こえて来た。
陽一がエスカレーターに乗ると、少し遅れて慎人が付いて来る。震えていた優也が、脚をちょこんと踏み出した。
「待ってくださいよぉ、もう」
「優也ウケるんだけど」
ケラケラ笑う慎人の頭を、陽一は小突いた。
目的の店は、最上階にあった。
所謂ノーブランドの、大型店である。
「すごいたくさんありますね…」
「いっぱい買ってくれるの?」
「まさか」
陽一の財布の紐は固かった。
「今着る服と、涼しくなった時に着る服、それぞれ1セットずつな。…とりあえず、シャツから」
と言いながらも、慎人の視線は帽子に、優也の前にはストールのコーナーがあった。
「…着るものしか買わない!はい!」
陽一が手を叩くと、つまらなそうな声が上がる。
「まあ…こんなもんか」
籠の中を、陽一が見つめる。
結局、慎人の帽子と、優也のストールを買う羽目になった。
「「ねえ、お願い」」
二人に手を合わせておねだりされてしまったのだ。
しかも、上目遣いで。
(どうでもいいから早く帰りたい…)
誰かに見られているかもしれないという恥ずかしさ。
更には、試着室で保護者のごとく、成人男性二人の様子を確認するという不思議な状況に、陽一は「帰りたい」という気持ちに勝るものがなくなってしまった。
(絶対店員に怪しまれてる)
何となく視線を感じながら、二人へ忠告した。
「会計行ってくるから。二人は此処で"待て"だ。絶対に動くなよ」
「「はーい」」
安価ゆえか、会計以降は全てセルフサービスである。
セルフレジで会計を終え、袋に詰めていると、聞き慣れた声が掛かった。
「あれ、陽一さん?」
「聖也?」
会社の同僚が、陽一の目の前にいた。
「陽一さんも、こないなお店来るんですね。てっきりブランドものしか買わんと思ってました」
「いやいや。スーツくらいしかブランドは買わないよ」
陽一の視線に気づいたのか、聖也が自身の隣を振り返る。
「ああ、こいつ、俺の相棒っす。将司って言います」
小柄な聖也より背の高い青年が会釈をする。
陽一もそれに応じると同時に、脳内で点と点とが繋がった。
「…すまんな、邪魔して」
「いえ、声掛けたのは俺ですから」
将司と呼ばれた青年が、品物を袋に詰め終わらせていた。
「また明後日、会社でよろしゅうお願いします。良い休日を」
「聖也もな」
陽一がその背中を見送っていると、聖也が将司の袖へと手を伸ばした。
「はー…」
意外と大胆なものだ、と陽一は呆気に取られた声を出した。
そして慎人と優也の元へ戻るなり、二人はにんまりとした笑顔を浮かべた。
「え?」
慎人が買い物袋を持った陽一の肘の袖を、その反対で優也が腰の裾を掴んでいた。
「何やってんの、お前ら」
「さっき男の人たちがやってたから」
「…待て、普通はやらないから!」
「でも俺たち、見てましたから」
「…ああもう、聖也の奴…っ!!!」
二人の手を解く術すら思い付かず、陽一は恥ずかしさで顔を赤らめるしかないのであった。
ベランダに吊るされた洗濯物を見て、陽一が唸る。
振り向けば、テレビを見ながら笑い転げる"二人"の男。
「どうしたもんかな…」
その二人も、陽一の服を着ている状況。
洗濯物の量はともかく、である。
「…ちょっと、出かけてくるわ」
陽一が鞄を手に取ると、片方が声をかけてくる。
「陽一さん、何処行くんすか?」
「服買いに」
「え、行きたい」
もう片方の発言に、やっぱり、と陽一は頭を掻く。
「だめだって。散歩とは違うんだから」
「おとなしくしてますよ、俺達」
その声の主を、陽一が一瞥する。
細身の身体に、緩そうなシャツ。しかし身長は高いので、ズボンの丈は幾ばくか短く見える。
「…優也は連れて行ってもいいかも」
喜びの表情を見せる隣で、えー、と不満そうな声を上げるのは慎人だった。
「優也だけ、ずるい」
「お前は俺と同じサイズで良いだろ」
と言いつつも、慎人の方が陽一よりやや筋肉質なこともあり、Tシャツには身体のラインがうっすらと浮かんでいた。
早く行きましょう、と腕を引っ張る優也の隣で、慎人は駄々をこね始める。
「…仕方ない、絶対おとなしくしてるんだぞ」
陽一は呆れ気味に言った。
「え、陽一くん、なにこれ」
「すごい、色々売ってるんすね」
雑貨屋の商品を手に取る慎人。
通路の真ん中で辺りを見回す優也。
初めてのショッピングモールに、案の定落ち着かない二人を、陽一が"躾ける"。
「お前ら、通行人見てみろ。お前らみたいに騒いでるの、子供くらいしかいないだろ。…てか殆どの子供も親の隣で静かにしてんだろ」
「「はーい」」
基本的に二人は、陽一が説明をすれば、納得してそれを受け入れる。
しかし、感覚のズレを感じることも、多々あるのだ。
「じゃあ陽一くん、手繋ごうよ」
「…は?」
「ほら、あの子、手繋いでるじゃん」
「あのなあ、」
陽一がため息を吐く。
「あれは、親が子供と離れ離れにならないように繋いでるの」
「でもあの人たちは繋いでますよ」
優也の視線の先には、一組の若いカップルがいた。
「…あれは、特別な関係だから繋いでるんだよ」
「特別なカンケイ?」
「俺たちは違うんすか?」
首を傾げる二人に挟まれて、陽一がもう一度、ため息を吐く。
「世間では、異性の恋人同士しか手は繋がないんだよ。…ていうか周りよく見てみろ。そもそも30代くらいの男3人で此処を歩いてること自体、珍しい事なんだよ」
そう言って、陽一は二人を交互に見た。
「だから、とにかく目立つな、大人しくしてろ」
「「はーい」」
再び元気な返事が両隣から聞こえて来た。
陽一がエスカレーターに乗ると、少し遅れて慎人が付いて来る。震えていた優也が、脚をちょこんと踏み出した。
「待ってくださいよぉ、もう」
「優也ウケるんだけど」
ケラケラ笑う慎人の頭を、陽一は小突いた。
目的の店は、最上階にあった。
所謂ノーブランドの、大型店である。
「すごいたくさんありますね…」
「いっぱい買ってくれるの?」
「まさか」
陽一の財布の紐は固かった。
「今着る服と、涼しくなった時に着る服、それぞれ1セットずつな。…とりあえず、シャツから」
と言いながらも、慎人の視線は帽子に、優也の前にはストールのコーナーがあった。
「…着るものしか買わない!はい!」
陽一が手を叩くと、つまらなそうな声が上がる。
「まあ…こんなもんか」
籠の中を、陽一が見つめる。
結局、慎人の帽子と、優也のストールを買う羽目になった。
「「ねえ、お願い」」
二人に手を合わせておねだりされてしまったのだ。
しかも、上目遣いで。
(どうでもいいから早く帰りたい…)
誰かに見られているかもしれないという恥ずかしさ。
更には、試着室で保護者のごとく、成人男性二人の様子を確認するという不思議な状況に、陽一は「帰りたい」という気持ちに勝るものがなくなってしまった。
(絶対店員に怪しまれてる)
何となく視線を感じながら、二人へ忠告した。
「会計行ってくるから。二人は此処で"待て"だ。絶対に動くなよ」
「「はーい」」
安価ゆえか、会計以降は全てセルフサービスである。
セルフレジで会計を終え、袋に詰めていると、聞き慣れた声が掛かった。
「あれ、陽一さん?」
「聖也?」
会社の同僚が、陽一の目の前にいた。
「陽一さんも、こないなお店来るんですね。てっきりブランドものしか買わんと思ってました」
「いやいや。スーツくらいしかブランドは買わないよ」
陽一の視線に気づいたのか、聖也が自身の隣を振り返る。
「ああ、こいつ、俺の相棒っす。将司って言います」
小柄な聖也より背の高い青年が会釈をする。
陽一もそれに応じると同時に、脳内で点と点とが繋がった。
「…すまんな、邪魔して」
「いえ、声掛けたのは俺ですから」
将司と呼ばれた青年が、品物を袋に詰め終わらせていた。
「また明後日、会社でよろしゅうお願いします。良い休日を」
「聖也もな」
陽一がその背中を見送っていると、聖也が将司の袖へと手を伸ばした。
「はー…」
意外と大胆なものだ、と陽一は呆気に取られた声を出した。
そして慎人と優也の元へ戻るなり、二人はにんまりとした笑顔を浮かべた。
「え?」
慎人が買い物袋を持った陽一の肘の袖を、その反対で優也が腰の裾を掴んでいた。
「何やってんの、お前ら」
「さっき男の人たちがやってたから」
「…待て、普通はやらないから!」
「でも俺たち、見てましたから」
「…ああもう、聖也の奴…っ!!!」
二人の手を解く術すら思い付かず、陽一は恥ずかしさで顔を赤らめるしかないのであった。
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