232 / 239
230.ダンジョン探索3
しおりを挟む簡潔に言えば俺達は無事に40階層のボスを倒すことに成功していた。大きな怪我もなく、下の階層に降りる。その後も順調に下の階層に降りていき、遂に50階層…ダンジョンボスの扉の前にたどり着いていた。
「ここで最後だ。気を抜くなよ。」
「おう」「はい」「はい!」
俺は使命なんて大層なもの背負っているつもりはないし、危険な目にだって合いたくない。それでも…この現実の世界で、人が死ぬのも見たくない。自分だけが逃げおおせることはきっと簡単だ。それでもそう出来ないのは、俺が他の人よりも強いと知っているから。
俺に何か特別な力があるのならこの都市の人を救わせてほしい。俺とテスラさんがイチャついてても暖かく見守ってくれた人達なのだ。直接の関わりはなくても、やさしい人たちだと知っている。
他の国よりもこの魔術学園都市が一番ヤバイってことは分かるし…。魔物が溢れたときに対応できる人も圧倒的に少ない上、実力者たちも国に帰ってしまっている。スタンピードを防げるのは俺達だけなんだ。
…そんなことをつらつらと考えても、嫌な感じが拭えない。扉の向こうの圧倒されるくらいの魔力…凝縮された禍々しさ、とでも言えばいいのか…死の気配がする。冷や汗が額を伝う。身体が震える。
「…ナルア、大丈夫だ。必ず守る。」
「うん…俺もテスラさんを守る。」
テスラさんに手を握られると、その温もりに震えが収まっていく。この人が居てくれるのなら大丈夫。大丈夫だ。
「行けそうか?気合い入れて行こうぜ」
「行きましょう。」
「うん」「ああ」
ゆっくりと扉に手をかける。扉が開くと熱風のように吹き荒れる濃密な魔力を含む風。扉の中には、10m超の真っ黒なドラゴンが鎮座していた。閉じていた目をゆっくりと開き、俺達の姿を認めると、咆哮をあげる。
「GURUAAAAAA!!」
「ドラゴンの弱点は逆鱗だと言われている。狙っていくぞ」
「「はい!」」「おう!」
「近接戦は気をつけろ!ドラゴンは魔力を駆使するのも上手いからな」
「おう!」「はい!」
だいぶ頭上に確かに逆鱗らしい場所を確認することができた。しかしそこを狙って魔法を打っても結界に阻まれる。確かに結界を破壊しているからいくらドラゴンといえど魔力を消費している筈だ。
ドラゴンの魔力が空になるまで付き合うしかないか?
だがそれだとこちらが持たない。こちらの攻撃は的確に阻まれて、全くダメージを与えられていない上に、爪や歯の攻撃力は簡単に鉄だろうが破壊してしまうほどの威力がある。
現に先程、リオネルが不意に尾の攻撃を受けてしまった際に事前に預けていた魔導具が発動したが、簡単に結界が破壊された。リオネルは無事だったが、一撃でも攻撃を貰うのはやばい。
なんとか…ドラゴンの結界を超えて攻撃しなければ…
ツェルトさんとリオネルが陽動しながら俺達から攻撃を逸らしてくれている。ヘルメスの魔法陣のように俺も魔法に漢字を組み込めばもっと攻撃力は高められる。
俺が得意なのは雷…雷で強い攻撃…
ドラゴンの結界を…鱗を…貫通してダメージを与えられるような攻撃。そもそも雷は体内の水に影響を与えられるから、体内にダメージを与えやすい筈だ。出来るだけダメージを与えられる魔法陣の構成…
電圧、貫通、攻撃力、時間…今までの勘でバランスを調整する。
「ナルア、やれるか?」
「うん…多分出来る。テスラさん、出来れば体内に打ち込みたい」
とはいったものの、傷を負ってもいないドラゴン。取り敢えず一撃入れる必要がある。硬い外郭を破らないと行けないからね。ここはヘルメスの力を借りることにしよう。
ヘルメスが残した魔法陣の中で、数少ない攻撃魔法。炎系統の魔法らしいが、特殊な魔法陣になっており、時間差で氷魔法が発動する。その温度差によってダメージを与える、といったもののようだ。また、攻撃後敵の防御力を低下させる効果も期待出来る。
「リオネル、ツェルトさん!引いて!」
「おう!」「うん」
かなりの魔力を持っていかれる感じがしたが、無事に魔法陣が発動する。ヘルメスの魔法陣は見事に結界を破壊し、ドラゴンに直撃した。そして逆鱗を見事に抉ってみせた。次に冷やされたことで硬い鱗も少し傷ついたようだ。
凍って固まりかけたが、体内に炎を有しているだけあってそこまで効かなかったようだが、動きは緩慢になった。しかし直ぐに自分の体に向かって炎を吐きかけ、氷を溶かしてしまった。
しかしドラゴンがそうしている内に俺の雷魔法の準備も完了した。
「くらえー!!」
「GYAOOOO!!」
今まで羽虫程度に思っていた俺達にダメージを与えられて、流石に本気になったようだ。これで倒れてくれないと…不味いかも。嫌な予感に反して、ドラゴンは地面に倒れ付してくれた。
「……やったの…?」
「終わったか?」
……何だこの圧倒的フラグ!!!
倒した魔物は消える筈だがまだ消えていない…ということはまだ生きている。確認のためにリオネルとツェルトさんが近づいてしまっている。
「危ない!!!離れて!」
「「っ!」」
二人は飛び退いたが運悪く、リオネルがドラゴンの爪の攻撃を受けて壁に叩きつけられる。駆け寄ろうとした俺をテスラさんが引き止める。そしてテスラさんが助けに向かってくれた。リオネルは恐らくテスラさんに任せれば大丈夫だ。
なんとかとどめを刺さないと…けど…俺の魔力は殆ど使い切ってしまっている。だとしたら俺に残されているのは近接戦闘のみだ。
「ノエル!サポート!」
「了解ご主人!影縫い!!」
一瞬ではあったが、ノエルの魔法によって動きが止まる。装備していた短剣を大きく鋭い瞳に向かって振りぬく。目を潰されたドラゴンは暴れたが、直ぐに力無く横たわる。
まだ生きているのでは…?とドキリとしたが、流石に倒すことが出来たらしい。消えゆくドラコンを見つつ、ようやく終わったのだと理解する。
「はっ…はぁ……おわった…リオネル!!」
「ぐっ…ナ、ルア…だい…じょぶ…だよ」
「ナルア、リオネルは命に別状はない。暫くは療養だろうが…」
「そっか…良かった…良かったよぉ…ふぇ…うぅ…」
泣いている俺を抱き締めてくれるテスラさん。いつもの安心する香り…。痛そうに顔を顰めているものの、リオネルは出血なども少なめで、骨が折れているが、大丈夫らしい。
「ま、リオネルは俺が背負って行くぜ。」
「ツェルトさんは怪我ないですか?」
「おう、まぁちょっと毛が焼けて禿ができたぐらいだ。」
「ポーションはいるか?」
「そうだな…だが無駄遣いしていいような状況じゃねぇからな。万が一に備えようぜ。」
「…それもそうだな…地上がどうなっているかも分からない。」
「落ち着いたところで、ダンジョンをクリアして外出ようぜ」
「ああ」
「はい」「そうですね」
皆…生きててよかった…。
21
お気に入りに追加
3,266
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる